COLUMN ビジネスシンカー

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2019.01

AI、VR … 先端テクノロジ全盛時代だからこそ 人を伸ばす丁稚奉公・徒弟制度が活きる!

【newcomer&考察】
まだまだやれる!赤字路線バス再生の鍵、Bus-tech

 人口減少によって公共交通機関の利用率が下がっている。とくに人口減少が激しい地方では地方公共交通機関の代表である鉄道、バス路線が下がっている。一般的に地域の人口が減るとまずその一帯の基幹公共交通機関となる鉄道が廃止され、代わりにバスがその受け皿となる。次にそのバスの利用者が減ると間引き運転となったり、赤字の補填を行政が行ったり、それでも維持できなくなると路線の短縮が起き、やがてバス路線の廃止に至る。

 しかし高齢化の進むなかでは仮に赤字になったからといっても安易に廃止できるものではない。

 地方の公共交通機関のクビを締めていたのは、ほかでもない自家用車の普及だった。一家に2台、3台と自動車がある家も少なくなく、兼業農家では通勤用と農作業用のトラックなど合わせると4台、5台も珍しくない。

 しかし高齢者の事故が急増するなか、運転免許証の自主返納を求める自治体も増えている。免許証を取り上げられて車が運転できないとなると代わりに期待するのは公共交通機関だが、自家用車ほどの利便性はなくなる。

 自主返納を促す自治体のなかには、タクシーチケットなどを配り、その「日常の足」を確保する動きもあるが、利便性は自家用車には及ばない。

 国土交通省の調査によれば、2016年度の乗り合いバス事業者246社のうち、6割が赤字であり、大都市部を除いた地方に限れば8割が赤字という。

 こうした蔓延する赤字体質に呼応するように、毎年 1500〜2000kmの路線が廃止となっており、2007年度以降は17年度まで約1万2000kmが廃止されている。

 もはやバス事業に未来はないのか――。

 そんなことはない。顧客減少、地域住民の減少、高齢化のなか、赤字解消に取り組み、黒字化を果たしているバス会社も出てきている。

 たとえば埼玉県川越市に本社を置く「イーグルバス」がそれである。

 同社は大手バス会社が撤退した赤字路線を引き継ぎ、4年で赤字路線を黒字化した。

 イーグルバスは1980年に創業。観光バスや高速バスを主体に事業を展開してきたが、2002年に「改正道路運送法」の施行で、乗合バス事業の規制が緩和されると、翌年から路線バス事業に参入。

 そして2006年。川越市と接する埼玉県日高市の要望から同市の路線バス事業を引き継いだ。引き継いだきっかけは、川越市に隣接する日高市、飯能市、ときがわ町などを通る3路線が廃線となるからだった。

 廃止すれば、陸の孤島になる地域も出てくるので、それを阻止するために「社会的使命だと思って」(同社社長:谷島賢さん)手を挙げたのだった。当初は、自社が黒字で経営できていたので、そのノウハウを注入すれば、すぐに黒字化できると思っていたそう。

 だが先に乗客を募って走らせる観光客バス事業と路線バスは使うバスこそ似たものとは言え、まったくビジネスモデルが違っていた。当初の目論見はすぐに破綻。2年間、赤字を流し続けた。

 そこで谷島社長が取り組んだのが「運行状況の見える化」だった。

 谷島社長はバスにセンサーを取り付け、運行状況のデータを集めて、そのデータを解析した。いわゆるビッグデータの解析である。

 そのデータ解析も自己流とはせず、専門家の協力を仰ぐべく、埼玉大学にデータを持ち込んだ。工学的見地から再生の道を模索したのだ。バスの運行や乗客にまつわる情報を数値化して、独自にレポートするシステムも独自開発した。

 車両にGPS(全地球測位システム)と乗降口の上部に赤外線乗降センサーを設置。停留所ごとの乗客数や停留所間の乗車人数(乗客密度)、路線上での位置や運行にかかっている時間が把握できるようになった。

 データだけでなく乗車アンケートも丁寧にとった。結果見えなかったことが次第に見えてきた。

 その結果から、乗客の少ない時間帯のバスを間引きする代わりに乗客の多い時間帯にはバスを増やした。どんな時にどんな路線でバスを走らせればいいかを考え、かつ遅延が出ないようにバス停やルートに修正を加えていった。

 こうした対策の結果、乗合バス事業は4年後に黒字化を果たした。

 参考にしたのは航空会社だ。LCCなどの航空会社では、ハブと呼ばれる大型空港と、スポークの先となる地方空港の路線を見極めて、どこを起点にすれば最も多くの収益が出るかを考え、駐機や整備体制を敷いている。

 同社でもこのハブアンドスポークの考えを取り入れ、バスの出発センターを新たに設置し、そこから東西南北に走らせることで全体の移動距離を短くした。また中山間地域は従来より停留所を増やし、オンデマンド化を図った。またバスも小型化し、小型バスのほか、ワゴン車なども走らせた。

 バスセンターはこのほかに、地元の名産品の和紙を体験できる体験コーナー「和紙の里」にも創設し、合わせて特産品の販売所やレストラン、宿泊施設も整備した。単に待合場やバス情報を得る場ではなくバスセンターそのものが目的化するように考えた。目指したのは「インスタ映えするバスセンター」である。

 その結果、和紙の里の入場者数やレストラン、宿泊施設の利用者なども伸び続け、週末ともなれば、山歩きを楽しむハイカーで賑わうようになったという。

 赤字路線を黒字化する手法には、バス会社そのものを買収統合するという手もある。

 東京・千代田区に本社を置く、「みちのりホールディングス」は、茨城県の茨城交通や日立電鉄交通サービス、栃木県の関東自動車、福島県の福島交通、会津乗合バス、岩手県の岩手県北バス、東日本自動車、神奈川県の湘南モノレールなどバス会社など8社を傘下にまとめ、効率化を図っている。

 みちのりホールディングスは、2009年に㈱経営共創基盤の子会社として発足、経営再建中だった福島交通と茨城交通をまず傘下におさめ統合した。広域で連携統合することで資材や情報、人材の共有化、共通化を図り、コストを低減させていく。

 その一方で、新たな投資も図っていく。たとえば宅配便などの荷物を混載できるバスだ。2015年に岩手県北バスはヤマト運輸と共同で、人も荷物も運べる「ヒトものバス」をスタートさせた。大型バスの後部を改造して設けた荷室に宅急便の荷物を載せ、盛岡市から宮古市への宅急便運送を1日1便行っている。座席11席を荷台に改造し、バスの側面に荷物専用の扉まで設けている。路線バスの利用者減、宅配便のドライバー不足の両方を解決する一策である。

 この取組みは2016年から茨城交通でも始まった。常陸太田市から高速バスを使って地場産の新鮮野菜など首都圏に届けている。

 さらに17年には、路線バスを乗り継いで、道の駅やスーパーで買い物を楽しむツアーも行われた。バスには大型冷蔵庫が内蔵されて、購入した新鮮野菜などをフレッシュなまま持ち帰ることができる。

 この狙いは大型冷蔵庫付きという新しいバスの可能性を見出してもらうと同時に、「バスって便利な乗り物」ということを体感してもらうことにある。公共機関であるバスそのものに乗ることを「不便」だと思われた時点で乗客の足は徐々に遠のく。

 同社が広域のバス会社を傘下に収めるのは、長距離バス事業でもメリットが図れるからだ。たとえば福島交通バスでは、福島県内から名古屋にバスを走らせているが、途中の栃木県宇都宮市に寄って乗客を乗せている。これは栃木県の関東自動車などが同じグループにあるからできることだ。

 これは先に紹介したハブアンドスポークの発想ではなく、結節点を多く持つことでのいわばネットワーク型メリットを活かしたサービスと言える。

 新幹線や飛行機と違い、バスの長距離移動では、ローコストでいかにタイミング良く目的地につくことができるかにある。移動時間が多少増えても、目的地に近い場所にタイミング良く到着できれば、優位性は高い。

 こうした取り組みによって、買収前赤字だった茨城交通は単独で黒字化できるまでになった。

 これまで積み上がる赤字と助成金とにらめっこしていた路線バス業界でも、知恵と工夫によってまだまだ収益増のチャンスがありそうだ。

 近年自動車の自動運転技術が進んでおり、とくにバス・トラックでの実用化は公道テストレベルまであがっている。ルーティンの場所ならそう遠くない将来、無人バスが走るようになるだろう。またスマホなどを使ったオンデマンドの技術や精度も上がってきており、停車場などを増やして、オンデマンドの場所を増やしていけば、さらに利用者は増えそうだ。

 エネルギー的にもハイブリッドや電気動力のバスなどが増えて、燃費効率も上がっていくと思われる。

 事業的にはみちのりホールディングスのように地域をまたいだ効率的な路線設定をAIで設定しなおし、効率化が図れることも可能だろう。

 周囲のイベント場や観光地などとのデスティネーションと組み合わせたルートや臨時バスなどを走らせることで、さらなる収益が期待できそうだ。またデジタルサイネージなどを搭載し、独自のコンテンツや広告を取り込めばまた新たな収入源ともなろう。

 まだまだバスの可能性はあるはずだ。そう、Bustechを使えば!

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