COLUMN ビジネスシンカー

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2020.04

先の見えない時代、ビッグデータ時代だからこそ学びたい 勝負師たちの「勘」

名騎手が勘を磨くために行ってきた自然体のこと

では岡部さんはどのように勝負勘を磨いてきたのだろうか。

「自分自身の感覚からすれば、人と大きく変わったことなどは少しもしてこなかったと思ってる(中略)。騎手生活を振り返って、自分のしてきた一例を挙げてみるならば......

といった極めて当たり前のことだった。

そういった努力の仕方を岡部さんは「自然体」と呼ぶ。

基本は情報を積み重ね、自分の経験値を駆使してシミュレーションを描いて、差し出された瞬間に一気にしかける決断ができるように、日々情報を更新していくのだ。

しかし、そういう経験知が積み上がっていくと、逆に馬の能力を引き出せず、失敗することもある。

競馬では馬の特性によって先行逃げ切り、追い込みといったいろいろな戦法を取る。競馬は1着に入らずとも、2着、3着に入れ、1着との組み合わせで馬券の払い戻しの対象になる。2着、3着が続けば、優勝はできなくても強い馬、いつかは勝てる可能性のある馬として、期待が掛かるようになる。そうすると騎手は、「その乗り方でいい。あとは展開に恵まれさえすれば」と戦法を変えようとしなくなる。しかも名手と言われる騎手が手綱をとっている場合はなおさらだ。

そこに穴がある。

「それまでに何度もレースに乗ってることで馬の短所を知り尽くしているため、あるいは知り尽くしているつもりになっているために、長所を引き出せなくなるケースは案外多い」

たとえば、2着が続いて「シルバーコレクター」と言われたハーツクライという馬がそうだった。

ハーツクライは鋭い末脚が武器で、レースの序盤は後方を進んで、大外から追い込むスタイル。安藤勝己騎手や武豊騎手、横山典弘騎手などいった名騎手が騎乗、2着を繰り返していた。

ところがフランス人のクリストフ・ルメール騎手が騎乗するようになると勝てるようになった。ルメール騎手は2005 年の有馬記念で序盤から前につく先行策を取り優勝。その後の海外で行われたドバイ・クラシックでは、逃げ馬の戦法をとってまたも優勝した。戦法を単に変えるだけでなく、状況、状態によって果敢に変えていったことが奏効したのだと思われる。

もしかしたらハーツクライという馬が特殊な馬だったのかもしれない。武豊騎手や横山典弘騎手という当代を代表する騎手が「この馬の持ち味は末脚だ」と考え、「それ以外の乗り方はできない」と考えるだけの理由があったのだと思われる。

でも結果が出ないなら、やり方を変えればいい――。ちょっと気が利く人なら誰でもそう思う。しかし、競馬はそう簡単ではないようだ。

「馬の持っている力を発揮させるときに、もっとも重要になるのはリズムであるからだ。馬が行きたがっていないのに行くように指示したり、馬が行きたがっているのに抑えようとすればリズムが狂う。それによって本来の脚が使えなくなり、スタミナまでも一気に消耗させてしまう」からだ。

そうしたことを繰り返し、「理想のレース」と「やってはいけないレース」を騎手はカラダに覚えさせ、勘を研ぎ澄ましていくのがトップジョッキーなのだ。

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