COLUMN ビジネスシンカー

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2021.05

ビズシンカーインタビュー
「明日をつくる人」インタビュー【前編】
「おやさいクレヨン」は、
親子の時間をデザインするために
生まれた。

青森県の補助事業となり
9ヵ月で結果を出さなければならなくなった

BIZ●アドバイスを受けるようになって、その後、インクの事業化という段階があって、クレヨンに行ったわけですか。

木村●最初インクとクレヨンと両方並行して進めていたんですが、インクのほうが難しく、結果的にクレヨンになりました。運良く県の補助金事業に採択されて、開発費用の補助を受けて、開発スタッフも 2名雇用することができたんです 。2人のうち1人が藍のインクの開発でもう1人が別案を担当して、野菜の色を使ったクレヨンが出てきました。最初色鉛筆も考えたのですが、調べるとハードルが高かった。燃焼させて色となる部分を作っていくと、野菜野菜の組織が無くなるんじゃないかとか、そういう話し合いを経て、クレヨンに行き着きました。関わっていた人に子どもがいたので、クレヨンなら子どもと一緒に使えそうだし、子どもが1番最初に手にする画材だということで別案が決まりました。

BIZ●補助金を受けて人をいきなり雇うというのもハードルが高い気がしますが。

木村●高かったですね、初めて自分が雇う側での面接だったので。でも私は人との出会い運は恵まれていました。採用したスタッフに聞いたんですけど、面接の時「この人と一緒で働いて大丈夫かな」って不安になったそうで、「私が何とかしてあげなきゃ」と思ったと言ってました(笑)

BIZ●インクはどういったところが難しかったのですか。

木村●弘前大学に藍染専門の教授がいて、そちらにスタッフが通いながらインクの研究を進めたんですが、自然のものなので管理も難しいし、匂いもきつくて。藍染って葉っぱを腐らせてつくるので、すごく臭いんですよ。原液は出来上がったんですけどそれを流通させるための加工法が見つからなかったんです。それと誤飲が起きた場合などの臨床実験なども出来ておらず、開発期間の9ヵ月で報告書を上げなければならなかったので、藍染のインクは間に合わないなと考え、断念しました。一方クレヨンは割と上手く進んでいきました。最初は社内で試作をしていて、ろうそくのろうを溶かして、そこにトマトジュースなどを入れて固めたりすると着色がうまくいき、最初はトマトのクレヨンをつくってその後に本格的な工場を探すことになりました。

BIZ●自分たちで最初にレシピのようなものをつくり、あとは生産をお願いした・・・。

木村●そうですね。こういった方法があって、精度を高めるにはどうしたらいいかという相談をしていきました。そのなかで名古屋の㈱東一文具工業所さんがクレヨンの作り方をYouTubeに上げていて、それを見つけて電話したんです。するとたまたま電話に出た方が興味持ってくれて快諾してくださった。ただ周りからはそういった未知のものには手を出さないほうがいいという意見もあったようで、隠れて試作をしてもらったりしました。そうやって試作の改良を郵便でやり取りしながら進めていきました。

BIZ●最低限の色のラインナップは決めていたんですか?

木村●最初は手に入った野菜の濃縮液やパウダーを手当たり次第試してもらって、それで何が出来て何ができないのかを調べました。あとはワックスも種類があつて、普通は石油系のワックスを使うのですが、天然由来のワックスにしようと、なたね油とか蜜蝋などを試し、最終的に米油にしました。ちょうど米油が流通するようになっていた時期で、米と野菜という組み合わせがすごく日本人的で面白いということで、決まりました。

BIZ●本当に手探りで試行錯誤しながら1つひとつ、つくっていったんですね。

木村●雇用した2人は開発だけで、他の仕事がないのでそれに専念できたというのもあります。

BIZ●その間はデザインの仕事はどうしていたんですか。

木村●自分のデザインの仕事は自宅に帰ってからしていました。昼間は事務所を借りていて、そこに2人が出社してきていて、一緒に3人で開発の仕事をしてました。子どもが寝てからデザインの仕事をしていたので体力的にもきつかった。そんな日が9ヵ月続きました。30代前半だったのでまだ無理がきいたんですが、いま同じことをやるとなるとちょっと無理ですね。

BIZ●初めてのことで、しかも期限が決まっているなかで成果を出さなければならないというプレッシャーもあったかと思います。ぶつかったりしたことはなかったんですか?

木村●きっと思っていたことは多分あると思うんですけど(笑)、1つずつ形になっていく喜び、達成感を共有しながら進んでいたのがたぶん良かったんだと思います。

BIZ●雇用期限があるのは厳しいですね。

木村●厳しかったですね、その9ヵ月は本当に。ただそれ以外の業務がなかったのでできたと思いますね。

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