CONTENTS 記事・コラム 詳細
  • ビジネスシンカー

盛り上がる“フィッシュプロテイン”市場

いまや高校生、中学生から運動部でも当たり前にプロテインを摂取する時代。プロテインをはじめとする良質なタンパクの摂取は世界的な課題だ。

以前このコラムで昆虫食を取り上げたが、そのきっかけはFAOが世界的な人口増に対するタンパク質不足であった。この地球で生まれる食糧はカロリーベースでは90億人超まで賄えるという試算がある。世界人口はマルサスの予言した「幾何級数的」には増えず、いずれ頭打ちになる。最新のデータでは80億人程度で頭打ちとなり、その後は減少するという。だが問題はバランスの良い栄養、とりわけタンパク質の不足だ。

2021年現在、この地球には約78億人の人々が住んでいるが、まだ8億人以上が飢餓に直面している。理由は食肉の偏在にある。

一般的に人々の所得が増えると肉の消費が増えるのが一般的だ。この20年ほどは特に中国をはじめBRICsと呼ばれる新興国が急激な経済成長を遂げ、世界的に中間層が増えて肉の消費が増えたのである。

肉はタンパク質を摂取するには効率がいい。しかしそのためには多く飼料や水が要る。一般に牛肉1kgを得るためには、大豆などの穀物10kgと灌漑用の水16,000リットルが必要とされる。栄養摂取という視点からは牛肉を食べることは非常に効率がいいが、牛肉自体の生産性は低く、環境負荷も大きいのである。

このような背景もあってここに来て拡大しているのが、大豆などから生まれた疑似肉などの代用肉市場だ。すでにマクドナルドやロッテリア、モスバーガーなど大手ハンバーガーチェーンでも続々と代用肉が採用され、一般向けの代用肉も冷凍食品としてスーパーで手に入れることができる。

一方こうした情勢を横目でにらみつつ新たな市場を拡げているのが、蒲鉾だ。ここでいう蒲鉾はかまぼこのほか、ちくわや、カニかま、はんぺんなどの魚のすり身を使った練り製品のことを指す。もともと蒲鉾は白身魚などの良質のタンパク質を含む日本の伝統食として知られるが、その必須アミノ酸をバランス良く含むなど高い栄養素とカロリーの少なさなどが注目され、「フィッシュプロテイン」としてアスリートたちに受け入れられるようになった。

かまぼこの名産地として名高い神奈川県小田原市に本社をおく老舗蒲鉾メーカーの鈴廣は、サッカー日本代表の長友佑都選手と共同で、フィッシュ・プロテインバー「挑・蒲鉾(ちょう・かまぼこ)」を開発、販売を開始した。

もともと良質なタンパク質の塊であるかまぼこをフィッシュ・プロテインバーとして再構築したところがポイントだ。「タコのガリシア風」「金目鯛のアクアパッツァ風」「ほうれん草とホタテ入りグラタン風」の3つのフレーバーが用意され、野菜などもバランス良く配合されている。味も素材の旨味をバランスよく引き出している。同社はさらにフィッシュプロテインの利用を広げようと、かまぼこなどの練り製品の材料を粉末にした「万能すりみパウダー」をインターネット販売。さまざまな商品に組み合わせて使えるとあって、他のスーパーなどの惣菜メーカーなどから引き合いが来ているという。

こうした動きに、業界団体も反応。一般社団法人日本かまぼこ協会は2021年8月24日から毎月24日を「フィッシュ(=24)・プロテイン」の日として、量販店などにロゴをつけたコーナーを設置して積極的にPRしている。合わせてフィッシュ・プロテインのロゴも作成。ロゴを表示できる商品は、製品中に魚肉プロテインの量が100gあたり8.1g以上、もしくは4.1g/100kcal以上の条件をクリアしたものを認可している。

すでにこのロゴを表示した商品も続々出ている。

蒲鉾の老舗、新潟県新潟市の「一正蒲鉾」では、カニ風味かまぼこの「オホーツク」など7種11点の同社製品を詰め合わせた「フィッシュプロテイン」セットを¥2499で発売している。

同じく石川県七尾市の蒲鉾メーカー「スギヨ」は、同社サイトでフィッシュプロテイン製品を使ったさまざまな料理のレシピを公開。売上も伸び、従来にはない手応えを感じているという。他にも兵庫県姫路市の「ヤマサ蒲鉾」、山口県長門市の「フジミツ」なども自社サイトで料理例やレシピを公開している。

さらに同協会は攻めている。フィッシュプロテインのプロモーションの一環として、フィッシュ・プロテイン体操なるものも合わせて創作展開しているのだ。

「体力が落ちてきた」「筋力を維持したい」という人に推奨している2段階の体操を開発。ステップ1で体を動かし、ステップ2でかまぼこ(魚肉練り製品)を食べるというもので、この2段階ステップを日常に取り入れることで健康を維持し、魚肉プロテインの消費拡大も図れるという狙いだ。

プロテインという言葉の訴求力を意識した新たな商品も開発されている。香川県高松市の矢野商店は魚肉のほか植物性タンパク質を増量した「筋肉ちくわ」をネット販売。スポーツクラブなどから引き合いが来ているという。

調査会社の富士経済(東京・中央区)によれば、コロナ禍の注目市場の1つとしてプロテインパウダー市場が伸びているとし、2019年に581億円だった市場が2020年680億円に対前年比117%伸長すると予測。またプロテインパウダー市場とは別にプロテインを含む菓子やゼリー、飲料、魚肉・ねり製品などのタンパク質補給型商品市場も2019年の1545億円から2020年には1727億円に堅調に伸びると分析している。

家庭滞在時間が増えコロナ太りが話題となるなか、改めて日頃の健康に関心が寄せられているが、フィッシュプロテインはその新たなフロントランナーとして市場開拓に切り込んでいる。いずれテニスのウインブルドンやゴルフのマスターズ、サッカーのワールドカップなどでフィッシュプロテインバーを当たり前のようにかじる選手が出てくるかもしれない。

TOP

JOIN US! 私たちの想いに共感し、一緒に働いてくれる仲間を募集しています!

CONTACT お問い合わせ

TOP