COLUMN ビジネスシンカー

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2021.12

ビズシンカーインタビュー
「明日をつくる人」インタビュー
使用済みの紙をオフィスで再生紙に
世界初、セイコーエプソン
「PaperLab(ペーパーラボ)」は
“紙の未来”と“社会の未来”をどう変えるのか

遡ること6年前の2015年12月。東京ビッグサイトで催された国内最大級の環境展示会「エコプロダクツ」のセイコーエプソンのブース前にはマスコミ31社を含む黒山の人だかりができていた。ブースに鎮座していたのは「PaperLab(ペーパーラボ)」の発売直前のベータ機。デモを行ったのは当時の同社社長の碓井稔さん。デモ機に古紙をセットすると約3分後、再生紙として生まれ変わった紙がするりと滑り出てきた。その後5秒に1枚、続々と再生紙が送り出されてくる。ほのかに温かい誕生したばかりの再生紙を片手に碓井さんは、「紙の未来を変えて行く」と宣言した。

碓井さんの宣言どおり、いま、ペーパーラボによって紙の未来がじわじわと変わろうとしている。従来古紙リサイクルは、企業などの事業所が使用済みのオフィス用紙をまとめて古紙回収業者に委託し、それを再生紙製造会社が引取り、紙として再生される流れだったが、ペーパーラボによってオフィス内でのリサイクルが可能となったのだ。

オフィス内でリサイクルが実現すれば、運搬にかかるCO2の排出量は減り、より環境負荷が低減される。カーボンニュートラルの未来が近づくことになる。

そもそもビジネス情報を紙で記録してやり取りすること自体が古い―という声もある。書類をデジタル化してペーパーレス化が進めば、オフィスからの廃棄物も減る。しかしなかなかすぐに変われないのも事実だ。それはコロナ禍で証明されたと言える。

国や自治体は「人流」を抑制するためにリモートワークを推奨したが、出社率が下がらない企業も多かった。その理由の一つにハンコの押印があった。決裁や契約書などのハンコがないと仕事が進まない、実行できないというわけである。そのためハンコのデジタル化も進んだ。だがそもそも決裁や契約書、あるいは役所などへの提出書類が紙を前提とする以上、ハンコをデジタル化しても提出するのは紙で、それを誰かが届ける必要がある。

あるアンケートで紙が減らない理由の第1位は「法律や社内規定が紙での記録を指定しているから」というものだった。長年の経験や議論を経て決まった法律や規定は、そうそう変えられるものではない。紙は文化のバロメーターであり、悠久の歴史において文明・文化を広げてきた最大のメディアであった。日本は江戸時代から識字率の高い国として知られているが、その背景にはそれを支える紙文化があったのだ。

日本は古より紙を大切にしてきただけでなく、リサイクルも進んでいた。江戸時代には古紙から再生紙をつくる「漉き返し」という技術を確立しており、目的別にさまざまな和紙が再生されていた。廉価なものでは「落し紙」と呼ばれる現代のトイレットペーパーに相当する紙や、高級なものでは江戸の「浅草紙」、京の「西凋院紙」、大坂の「湊紙」などがあった。

江戸時代の古紙の再生は、まず回収した紙を細かく千切り、釜茹でした後、絞って水を出し、板上で叩いた後、糊を混ぜて1枚1枚乾燥させて丁寧に製紙する。人々はそれを大切に使っていた。

こうした紙を大切にする文化は、明治維新を越え、第二次大戦を越えて、令和の現代まで引き継がれている。

日本の紙の消費量は2019年で1人あたり年間202kg以上で、世界の上位6位に位置づけられている。

日本製紙連合会によれば、日本の古紙回収率は2000年代から80%以上を維持し、コロナ禍の2020年には84.9%と過去最高の回収率となった。また再生率も右肩上がりで推移し、2020年は67.2%とこちらも過去最高となった。いずれも世界トップクラスの回収率と再生率だ。

こうした昔から引き継がれた優れた紙文化の推進を、先端テクノロジーで後押しするのがペーパーラボなのである。

セイコーエプソンと言えば、プリンターやコピー機など紙を使う機器で高いシェアを誇る電子機器メーカーだ。紙に親和性の高いメーカーが紙をつくる機械を開発するのは拝察できるが、それにしてもなぜ"オフィス製紙機"というユニークなマシンを開発できたのか。

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