あらゆる企業が押さえておきたい トヨタのTPS(トヨタ生産方式)と現場発想の原点
1人の熟練工より、たくさんの機械を動かせる標準的多能工
現在自動車メーカーのみならず多くの工場で見られる「多能工システム」も、大野が手がけた代表的なカイゼンだと言われている。
これは1人の作業者が複数の機械を操作できるようにすることだ。
当時は習熟した職人と呼ばれる人たちが、1つの機械を担当していた。しかし自動織機時代に「多台持ち」と言われる光景を目にしていた大野にとっては、非常にもったいない人の使い方だと思っていたようだ。
大野は、ある日熟練の旋盤工にこう提案する。
「どうだろう。旋盤だけではなくボール盤フライス盤の操作も覚えたらいんじゃないかな」と。
「ボール盤?あんな穴を開けるだけの機械は女子供がやることだ。旋盤の仕事は玄人の仕事、職人の仕事。一度旋盤をやった人間はボール盤には戻りません」
「いやそんなものかな。今言った女子供の話だが、紡績の現場では1人で20台の機械を持つのが当たり前だ。それなのに男で玄人が機械1台に張り付いているのはちょっと情けない」
そう言われると職人のほうもこう言うしかない。
「いや俺だってできますよ!」
こうして大野は現場の職人を一人ひとり多能工に変えていった。