COLUMN ビジネスシンカー

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2022.04

混迷の時代に最も必要な力 「修正力」を考える

プロスポーツに欠かせない
試合での「修正力」

 修正力が重要となるのはとくにプロスポーツの世界だろう。国民的なプロスポーツである野球やサッカー、ゴルフ中継ではよく解説者がこの言葉を使う。
 たとえば野球。
「打者の山田は5回のバッターボックスでは、ピッチャーの鈴木のシンカーに苦しめられていたようですが、この8回のこの打席ではバッティングを修正して、見事な2塁打を打ちましたね」といったバッターの解説があったかと思えば、ピッチャーについても「3回までのマウンドではランナーを背負う厳しいピッチングが続いていましたが、4回からは立ち直って、ストレートが走り出しましたね。高い修正力を見せましたね」などとコメントが入ったりする。
 実際こうした修正力はプロスポーツをやっていた人の卓越した能力のようで、中日ドラゴンズのエースピッチャーで監督を務めた与田剛さんは、一流選手に必要な能力を「高い修正力」と言い切っている。

「修正力があるかないか。選手の真の実力はそこに隠されている。たとえば、いつも同じに見えるマウンドは、天気や湿度、時間によって微妙に硬さが違う。松坂大輔やダルビッシュ有といった選手が素晴らしいのは、『あれ、おかしいな』と言ったところからしっかりと修正しているからだ」(東京新聞)
 サッカーの試合では修正力は常につきまとう。想定した状況がどんどん変わって来るからだ。試合中、修正できないと試合に負けてしまう。
 プロサッカーの世界では試合前に専門の分析者が相手チームの個人特性、チーム編成やフォーメーションなどから戦い方を多角的に分析し、その日のピッチや個人の体調などの条件を加味した何十もの対応パターンを、チームのメンバーが頭と体に刻んで試合に臨む。それでも想定どおりにはいかず、試合中に選手同士がコミュニケーションをとりながら、修正をかけるのがサッカーの試合だ。
 ゴルフはさらに修正力がモノを言う世界だ。プロとなれば、毎週予選と本選を2日ずつラウンドしなければならない。コース環境や天気、気温、日差しなどが刻々と変わるなかで、平均9~10kmのアップダウンコースをフルスイングしながら歩く。4日間であれば40kmは歩くことになる。さらに試合ともなれば心理的な駆け引きも求められ、1打ごとに細かい修正が必要となる。
 とかくゴルフは、プロでもショットが乱れがちになり、修正を図ろうとすると理想のショットを構成している要素がバラバラとなり、却って乱れてしまったりする。そのため一流プロはどこを軸に修正をかけるべきかという自分なりの修正法を確立しているという。
 元世界ランキング1位の韓国人女子プロゴルファーのシン・ジエ選手はその代表だ。ある解説者はその能力の高さをこう語る。
「スィングをスィングで修正しようとすると、スィング自体がバラバラになり、どうにもならなくなる可能性があります。それに比べ、スタンスの向きやボールの位置などセットアップで修正するのであれば、今できるスィングはそのままでも入射角やフェースの向き、クラブ軌道を変化させることができます。シン・ジエ選手の場合は自分なりの修正法をしっかり持っていて、ラウンド中に実践できるところ。それが崩れない秘訣になっているんだと思います」
 調子が悪い時はとかく根本的な原因を探りたがる。しかしそこまで修正がかけられない時は、負担をかけずにできる調整・修正法を持っていることが、プロゴルファーには必要なのだ。

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