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社内報で社員のパフォーマンスを上げる – 隠れた会社の資源「トランザクティブ・メモリ」を活かせ

 国を挙げてDXが進んでいる。およそビジネスにかかわっている人でDXを知らない人はいないだろう。DXとはDigital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)の略で、ITによって人々の生活のあらゆる面を良い方向に向かわせることを意味する。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が唱えたコンセプトだとされるから、その登場からかれこれ15年以上過ぎている。DXは重要だ。
 だが、投資額もなかなかのものだ。実はその前にすべき投資がある。

企業のDX平均投資額 4.9億円!

 DXについては日本の経済産業省が2018年にその定義を公表しており、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と、より明確に表現している。
 つまりデジタル化、IT化、あるいはAI技術を用いて、業務を変革(トランスフォーム)することで、市場での競争優位性を確立することにある。
 IT化やデジタル化などと混同しやすいが、IT化やデジタル化、AI化はDXのための前提条件であり、DXを成し遂げるための手段、手法の1つである。当然だがデジタル化した、IT機器やソフトを導入しただけでは意味をなさず、業務やビジネスに「変革」をもたらし、それでマーケットで優位に立てないとしたら、DXの意味はないということだ。
 ちなみになぜDTでなく、DXとなったのかという点では諸説があるが、DTでは他のプログラミング用語と被るので、変革を意味するacrossの言葉をあてて、そこからcross(クロス)、すなわち交わりをイメージさせるXを使うことになったとされる。またXをあてる略語としてはCXやUXもよく目にするが、こちらのXはExperience(体験・経験)を表しており、前者がCustomer Experience(顧客体験)、User Experience(商品やサービスの使用者体験)を意味する。
 DXがやっかいなのは、その前提となるIT機器やソフトの進化がどの方向にどんなスピードで向かっているのかが分かりにくいことだ。個々の優れた技術が、分かったとしても、どのように組み合わせれば自社にとって最適・最強になるかは、運用してみないとわからない点が多い。
 たとえばDXにおいて見えない落とし穴となっているのが、データの量だ。DXがこの数年話題になっている背景には、通信速度が4Gから5Gの時代となって一気に加速したことがある。環境にもよるが5Gは4Gの20倍の速度、さらに4Gの10倍のデバイスにつなげることが可能だ。
 仮に4Gから5Gに変えて最大の情報量をやりとりするとなると、200倍のデータを保存するサーバが必要となる。加えてコロナ禍によってリモートワークが当たり前化している環境下においては、いつでもどこでもつながるワイヤレス環境、さらにはそれに応じたセキュリティ対策も必要になる。
 単に新しい機器を更新したり、導入したりするだけでは、そこで扱われる情報量や質に対応できない可能性がある。
 人材派遣会社の「パーソル」系のシステム会社、「パーソル&テクノロジー」が、従業員数50人以上の企業を対象に行なった2021年の調査「社内におけるDX推進に関する実態調査」によると、日本の企業はなんと平均で4億8,800万円のDX予算を確保しているという。

G7メンバーの日本がOECD38カ国の生産性ランキングでは、23位!

 DXにはそれだけの投資の価値があるということなのだが、予算に限りのある中小企業はおいそれと導入できないだろう。
 では、中小企業のDXは遅れる一方なのだろうか。
 DXにおいて中心となる考え方が、生産性の向上だ。日本は世界的にも生産性が低いことで知られている。OECDの平均以下である。2020年の日本の労働生産性は1人あたり1時間49.5ドル。OECD38カ国中23位となっている。比較に使われる通貨がドルベースなので、デフレ、さらに円安が続く日本の実体を反映しているとは言い難いが、それでもG7の一カ国である日本としては耐え難い数字と言える。

企業の創造力の源泉、埋もれた資産「トランザクティブ・メモリ」

 その生産性を上げるためにどうすればいいかだが、方法としては大きく2つある。1つは自動化による効率を高めることと、もう1つが付加価値の創出だ。DXの主眼は前者で、とくにルーティンワークを自動化することで、人の能力を別の作業や仕事に回せるようにする。
 たとえば、データの入力などはその1つ。紙に打ち出された数値を手入力せず、もとをデジタル化しておき、別のソフトでもそのデータを取り込むだけで加工できたり、分析できるようにする。RPA=Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)などはその代表だ。
 もう1つの生産性を高める手法は、いわゆるイノベーションである。その点からすればDXで使われる技術自体は高付加価値の技術であり、DXがイノベーションの集合体であると言える。
 ただ、DXは投資額こそ大きいが、いずれ大企業、中小企業に定着すれば、経産省が掲げる「優位性」はなくなる。DXの赤い海(レッドオーシャン)での戦いが待っている。
 レッドオーシャンから抜け出すには、どうすればいいか―。
 新しいユニークな発想で従来にない技術や機能、ビジネスモデルを生み出して市場や人々の暮らしにインパクトを与えられればよいが、それが難しい。人間の発想や創造力に委ねられる部分も大きいため、ITを使った自動化のように費用対効果が出しにくく、タイミングや運にも影響される。
 だがどんなサイズの企業でも現有資産を使って付加価値を高め、生産性を上げる方法がある。それが社内報を使ったコミュニケーションの活性化による化学反応である。
 いきなりだが「トランザクティブ・メモリ」という言葉をご存じだろうか。ちょっと聞き慣れない言葉かもしれないが、「交換記憶」とか「対人交流記憶」「組織の記憶力」などと訳されている、近年アメリカの経営学で注目を集めている言葉だ。最もしっくりくる訳は「組織の記憶力」だろう。
 MITやカーネギーメロン大学など、アメリカを代表する大学や研究機関の調査研究によれば、業績を上げている企業やチームは、この組織の記憶力が高いことが分かっている。
 組織の記憶力が高いというと「記憶力のいい人がたくさんいるってこと?」「頭のいい人がいっぱいる、大企業やシンクタンクのことだろう」などと思うかもしれないが、そうではない。
 確かに記憶力のいい人がたくさんいる企業は優れているかもしれないが、それが必ずしも優れた業績に結びつくとは限らない。
 また「組織のメンバーが持つ記憶の総和」と捉えることができそうだが、ここでいう組織の記憶力とは、少し違っている。
 トランザクティブ・メモリとは、「組織の中において『誰が何を知っているか』を、ほかのメンバーが共有している」ことだ。企業コミュニケーションの目的とされる「同じ知識や情報をメンバーが共有する」ことではない。

「あの人はこんなことを知っている人」であることが社内で共有されているか

 ややこしいので、具体例を出そう。
 いま国内大手商社である「ダイヤ商社」の経営計画室の豊本さんが、自動車メーカーの部品メーカーをターゲットにした新規事業戦略を立てようとしている。狙っているのは国内大手の「右田モーター」系の部品メーカーだ。
 右田モーターは、ガソリン車はもとより、ディーゼル車、EV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、HV(ハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)、完全自動運転のほか、無人ドローンなど常に先をゆく技術を持っているだけでなく、これを航空機や住宅などに転用できるグループ力を持っているグローバル企業。ダイヤ商社はここで食い込んでいけば、将来グローバル企業としても飛躍できる可能性がある。
 こうした場合、まず関連する情報の収集をかけるのが一般的だ。予算があるなら外部の調査会社に依頼して、右田モーター関連の部品メーカーを洗い出し、事業規模や事業特性、製品特性、特許、右田モーターとの取引高などを調べることができるだろう。
 だがもしそういう情報が社内にすでにあるとしたらどうだろう。当然利用しない手はない。すべての情報が入手できなくても、複数の情報が入手できるだけでも経費や時間、労力を減らすことは可能だ。
 幸いダイヤ商社の人事部に、元法人営業部で自動車部品メーカー担当の早川さんというベテランがいた。人事部に異動する前には右田モーターに納入しているベアリングメーカーやトランスミッションメーカーと付き合いがあったという。ここで豊本さんは人事部の早川さんにアプローチすれば、右田モーター関連の部品メーカーのさまざまな情報が得られるはずだ。
 問題はこの時、豊本さんが人事部の早川さんを「そういう情報や情報ネットワークを持っている人だと分かっているか」ということだ。
 もちろん豊本さんが営業部でそういった情報を得ることも可能だ。イマドキの企業は取引先情報が資産としてストックされていたり、アーカイブされていたりする。取引をしていない企業でも、名刺交換レベルでの情報共有が可能となっている。そのファイルや記録を追えば、それなりの情報が集まるし、そこから早川さんという右田モーター関連の部品メーカーの情報やネットワークに詳しい人がいることも分かるはずだ。
 しかしダイヤ商社の営業部が、「あまり自分のノウハウを記録しておくのは、手の内を見せるようで嫌だな」と思う人ばかりだったらどうだろう。
 お目当ての情報を得ることができず、情報の収集に手間取り、戦略の立案や事業化が遅れる可能性がある。
 しかし、豊本さんがそこで「そう言えば、早川さんはいま人事部だけど、前は右田モーターの部品メーカーと付き合いがあって、ミナミベアリングの美波さんと高橋さんを知っているはず」と気付けば、極めて有効な情報が得られるだろう。
 この、豊本さんが気づいた「早川さんなら右田モーター系列の部品メーカーのことを知っているはず」という認識や情報を、豊本さんだけでなく、部署や組織のメンバーが知っていることが「組織の記憶力」なのである。
 つまり、「あの人にこんなことを聞いたら、こんな情報が得られるということ」をほかのメンバーが共有している組織、すなわち「組織の記憶力」が高い組織ほど高いパフォーマンスを生み出すということだ。
 こうしたデータは、たとえば難しい手術に挑む外科医チームなどでも検証されている。アメリカの大学病院の研究によれば、お互いのスキルやバックグランドなどを互いが知っている外科医チームが、そうでないチームより手術の成功率が高いことが証明されている。
 実際に、日本の有名企業ではこんな人材活用例があった。

貨物コンテナ專門の鉄オタ知識が会社の原材料輸送ルートを一新。大幅なコスト削減に貢献

 ある化学メーカーに鉄道マニアの男性社員がいた。鉄道マニアの世界はご存じのように非常に裾野が広い業界。乗り鉄に撮り鉄、新幹線から地下鉄、私鉄、貨物専用など多岐に渡っている。
 その人はそのなかでも貨物、とりわけコンテナ貨物の専門で、中学時代から週末になると貨物専用の時刻表を片手に、全国の貨物路線を訪ねてはコンテナの写真を撮りまくり、その型番をメーカー別、内容別にデータ化していた。そのデータの豊富さは折り紙つきで、JRから「あの貨物の型番を教えてほしい」と問い合わせが来るほどだった。
 ある時、彼に本社の購買担当となる人事異動の辞令が下った。
 一般に化学会社では、海外から原材料を輸入し、それを自社工場で精製、加工し、製品化する。そのため原材料の積み降ろしは港だが、そこから工場・プラントへは陸路、主に鉄道を使い、コンテナ貨物となって移送される。彼は異動先で持ち前のコンテナ貨物の知識を背景に、会社の移送ルートを一新したのである。
 彼の頭のなかには、日本全国のコンテナ貨物の鉄道路線と時刻表が入っている。どこでどのような貨物列車を利用すれば、効率よく移送できるか手に取るように分かるのだ。
 ちょうど時代は低環境負荷の時代に向かっていた。グリーン調達といった言葉が話題になり、運輸・物流の世界では、モーダルシフトという言葉も飛び交うようになっていた。
 彼の鉄オタ知識によって同社の移送ルートは整理され、移送コストや時間が大幅削減された。
 創業以来の大規模なルート変更の成果に、彼は目を輝かせながら、「本当は好きな鉄道業界に就職することも考えた。でも好きなことを仕事にしてはいけないという思いもあって、この化学会社に入ったが、鉄道への思いは変わらなかった。その好きな鉄道の知識がこういう形で会社に貢献できることを嬉しく思う」と感想を述べた。
 彼の場合は、たまたま人事異動で適所が見つかったわけだが、こうした社員の情報をほかのメンバーが分かっていたら、もっと早く業務の効率化が起こっていたかもしれない。
 こうした埋もれた才能や見えない人脈、知られていない趣味や性格などの情報資産を掘り起こし、活用することで組織全体のポテンシャルとパフォーマンスを高めるのが組織の記憶力、トランザクティブ・メモリの使い方なのだ。

デジタル社内報に移行したパナソニックが紙の社内報を復活させたワケ

 この組織の記憶力を引き出すツールがインナーメディアで、なかでも代表的なものが社内報だ。社内報というとなんだか古臭い。読まれない。興味が持てない……。確かにそんなイメージを持たれているかもしれないが、いまだに多くの企業が社内報を発行している。しかも紙で。
 2015年、ある企業の社内報の記事がニュースとなってネットや新聞を賑わせた。家電大手のパナソニックが紙の社内報を復活させたのである。
 パナソニックは2013年、社内報を紙から電子メディアに移行させているが、わずか2年で紙に戻したのである。当時パナソニックは業績回復のための大鉈を振るっていた頃。削れるものは徹底的に削るべきとして、印刷コストのかかる社内報は電子化された。もとより電子化すれば、海外へそのまま配信でき、パナソニックのようなグローバル企業では願ったり叶ったりだった、はずだ。
 しかし、パナソニックはお金と時間のかかる紙を再び選んだ。パナソニックの社内報はだいたい毎回36ページで、これを1回11万部発行している。紙質にもよるが、印刷費だけでも400万円ほどはいくだろうし、外注制作費や社内の人件費等を考えると1回の発行コストは1000万円はくだらないと思われる。これを年4回。ざっくり5000万円の費用をプラスして紙の社内報を復活させたのだ。
 なぜここまでしてパナソニックは紙に戻したのか?理由は、電子版が読まれなかったから。
 工夫が足りなかったのではないか?そんな声も聞こえて来そうだが、パナソニックによれば、長い特集などはネットではあまり読んでもらえなかったという。
 会社として伝えたいことがあり、それをしっかり伝える、すなわち読んでもらうために、お金をかけてでも紙の社内報を復活させたのだ。

トヨタは社内報を上司が部下に手渡しをする

 ネット万能の時代だが、社内報を紙で発行している企業はまだまだ多い。ウィズワークスが発行する「社内報白書2020」によれば、社内報を紙だけで発行している企業は全体の51%あり、紙とWebを併用している企業は29.5%あった。対してWebのみが15%だった。
 Webのみがこの程度の比率にとどまっているのは、情報を自ら取りに行かなければ読んでもらえないことや、工場や建設部門など、Web閲覧ができない部署があるからだ。
 企業はいま社内報を読んでもらうために、いろいろな工夫を行っている。企画をより面白く関心のあるものにしたり、誌面のデザインや構成に凝ったり、外部の有名人を登場させたりなど、中身の工夫もさることながら、パナソニックのようにあえて紙に戻したりするのもその1つだ。
 紙にこだわるだけでなく、刷り上がった社内報を上司が手渡しするケースもある。
 ほかならぬトヨタ自動車だ。トヨタ自動車では社内報が出来上がると、上司が手渡しで部下に渡す。その意味は「それだけ大事なものだから、家庭でもちゃんと読んでほしい」という思いがあるからだ。
 なぜそこまで社内報に思いを込めるのか。
 言うまでもなく企業という存在は社会的責任の大きい組織だ。売上が大きくなればなるほど、その責任は大きく重くなっていく。温暖化対策や環境負荷の低減、モラルハザードを起こさない、コンプライアンスの高い、多様な価値・文化を活用するダイバーシティに優れた組織であることが求められている。
 トヨタではそういった会社の価値観や、その価値観に基づいた商品の魅力、目指す社会を理解してもらうためには、社員だけでなく、家族やその先にある地域社会の皆さんにも共有してもらうことが大事だと考えたのだ。
 クルマという先端の技術を盛り込んだ商品の価値は、社会が多様化するなかで、消費者に伝わりにくくなっている。よってクルマそのものより、トヨタという会社がクルマを通じてどんな社会を作ろうとしているのか。社会の理解と共感力を高めるために社内報を使おうとしているのだ。
 こうした考えはトヨタだからできるのではなく、どこでもできる考え方だ。むしろ中小企業のほうが、こうした戦略は取りやすい。つまり社内報を通じて、地域のファンを増やしていくのだ。
 実際それだけのポテンシャルが、社内報にはある。

企業コミュニケーションの真の目的は「生き残る」ため

 そもそも社内報には、”組織の中の遠い人を結びつける”役割がある。ここでいう「遠い人」とは、①本社と支社、工場、海外代理店などの「距離が遠い人」、②本社、生産部門、総務、営業など「意識・価値観が遠い人」、③役員と新入社員などのように「立場が遠い人」の3つのタイプを意味する。
 社内報はこの「遠い人」を近づけ、組織のコミュニケーションを活性化し、組織の創造性、パフォーマンスを高めていく。
 社内報がコミュニケーションを活性化するのは当然のように聞こえるかもしれない。しかしこのとき、問わなければならないのはその目的だ。社内報の目的にコミュニケーションの強化・活性化を謳う会社は多い。だがコミュニケーションの強化や活性化が本来の目的ではないはずだ。
 日本パブリック・リレーションズ協会のテキストには”コミュニケーションの役割”として、次の7つを挙げている。

 ① 仕事をするために必要な情報を与え、その情報が作業集団の人々に理解されること。
 ② 動機づけたり、協調させること。
 ③ 外部環境における変化を認知する。
 ④ 変化の情報を組織のなかに入れる。
 ⑤ その情報に基づき、組織内部を変化させ、組織内部を安定させる。
 ⑥ 変化に応じた商品やサービスを提供すること。
 ⑦ 変化に対する対応の結果をフィードバックする。

 この7つの役割のなかで、あるキーワードが繰り返し出てくることに気づいただろうか。
 「変化」という言葉だ。つまりコミュニケーションの目的というのは、「変化」に対応し、持続発展させていくことなのだ。
 もちろんコミュニケーションが活性化することで、社員同士が仲良くなり、情報共有しやすくなったり、互いが言っていることが分かるようになることは、大きなメリットである。だがコミュニケーションの強化、活性化、それ自体が最終的な目的とはならない。強化・活性化は、その会社、組織が、市場やお客様、世の中、行政、法律、地域などの組織を取り巻くあらゆる環境の変化にいち早く対応して、生き残っていくためなのだ。
 企業は生き残っていくために、変化に対応するために個々の能力を存分に引き出すために、コミュニケーションを強化して、トランザクティブ・メモリを活性化させる必要があるのだ。その最も適したツールが社内報だとお分かりいただけるだろう。
 社内報によって、トランザクティブ・メモリが活性化した組織は、パフォーマンスが上がる。それはすなわち、同じ人材で企業の収益性が高まるということだ。
 仮に社員100人の会社で1人1%ずつパフォーマンスが上がれば、どうなるだろう。合計で100%になる。つまり社員1人分の収益が得られるのだ。
 一般に人件費は会計上、固定費として扱われるが、トランザクティブ・メモリを活性化すれば、固定費が流動費に変わるのだ。人件費が流動費に変われば、売上−流動費=限界利益となるので、限界利益率が高まることになる。これは人材不足時代の現代においては、大きなストロングポイントになる。
 社内報は組織の記憶、すなわち組織のメンバーが持つ知識やノウハウ、ネットワーク、考え方、すなわち「見えない人資産」を引き出すのである。

従業員100人超えたら社内報はマスト

 社内報はどのくらいの規模の組織から必要とされるのか。社内報は「遠い人をつなぐメディア」だと述べたが、自社に「遠い人」がどのくらいいるのか測りかねる企業も多いだろう。社内報の発行はトップの鶴の一声であったり、「他社が発行しているからウチも」という考えで「なんとなく」発行しているケースが多い。だがおよその発行の目安はある。従業員100人を超えたら必要だと考えていい。
 根拠の1つは「ダンバー数」だ。ダンバー数とはイギリスの人類学者ロビン・ダンバーが、霊長類の群れの数を調査して導き出した数だ。霊長類が親密な群れを構成する場合、その数は霊長類の大脳皮質によって決まるというのが彼の理論だ。その理論によれば、テナガザルが15、ゴリラが35、チンパンジーが65で、人間=ホモ・サピエンスは150というのが彼の理論値。

 ダンバー数はコミュニケーションが取れる限界とも言われ、実際に彼がニューギニアやグリーンランドなどに住む先住民族の21集団の人数を調べたところ、1集落の平均が148.4人であることを発見した。
 この数はさまざまな組織の事例で当てはまっており、アメリカでは、1つの工場が150人を超えると分化させて、別の工場を建てるという会社がある。また過去現在にいたる、機能的な戦闘部隊では200人を超える組織は無いといわれる。
 もう1つ根拠となるのが、ネット社会で取り上げられる「5−15−50−150−500」という数だ。
 これは人間関係の親密さを表した数字で、最初の5は精神的支えになってくれたり、困ったときに助けてくれる数。家族の構成員に近い数だ。次の15はシンパシーグループと呼ばれる人たちの数で、家族や親友ではないが、その人が亡くなったらひどく悲しむような人の数。次の50は、比較的頻繁にコミュニケーションを取る人の数。150は先のダンバー数で、一人ひとりの顔を覚えていて、名前としっかり一致できる数だとされる。その上の500人は弱いつながりと言われる人の数で、会ったことはあるが、それほど親しくない数となる。
 この法則からすると50は頻繁にコミュニケーションを取れる数で、150がコミュニケーションの限界だと読める。つまり50から150人規模の間で、コミュニケーションを補強、活性化させるツールが必要ということになってくる。
 150はコミュニケーションが取れる限界だとすると、その前から準備をするのが得策。したがって社員数が100人を超えたら、何らかのコミュニケーションツールが必要になってくると考えていい。

社内報で社員のモチベーションを上げ、売上アップ、ブランド力アップ

 社内報は組織の見えない資産を引き出す最強のツールと言ったが、その効果はまだまだある。以下に列挙してみる。

1. 社員のモチベーションを上げる
 たとえば、社員の働きや頑張りを記事化すると、掲載された社員は喜び、仕事に対するモチベーションが上がる。とくに総務や経理など会社のバック部門で頑張る人や、若手社員には効果的だ。
 また中堅の社員の方には、家庭でお子さんにお父さんやお母さんの働きぶりが伝わって、家族の理解や協力、感謝が生まれてくる。

2. 会社の売上が上がる
 社内報にはトランザクティブ・メモリを活かす機能がある。社内報でフォーカスされた社員や部署のモチベーションも上がり、チーム力もアップするので、当然売上も上がる。

3. 社員が自分に自信を持つ
 人間は組織において、常に承認欲求を持っている。社内報で活動や活躍が取り上げられれば、自分が認められたという承認欲求が満たされ、自分に自信が付き、アイデアや企画が出てくるようになる。

4. ロールモデルがわかる
 中堅や役員の仕事ぶりや、活躍、考えなどを伝えることで、若手がこの会社がどんな人物像を求めているのかが分かるようになる。キャリアイメージがつかみやすくなり、仕事の役割や目標への理解が深まる。

5. 企画力がつく
 社内報づくりに参加した社員は毎回、企画を求められるので、アイデアの出し方、企画のまとめ方などが分かるようになる。自分の思いつきが具体化されていくプロセスを経験することになるため、より現実的な企画が上がって来るようになり、本来の業務における事業化や改善が行いやすくなる。

6. 思いやりが出る
 社内報の取材やヒアリングの過程で、ふだん顔を合わせない部署や社員に出会うので、他部署、他の社員に対する思いやり、洞察力がついていく。

7. バリューチェーンが強化される
 社内報は社員だけを載せるメディアではない。取引先や営業先などを取材することで、通常の営業や取引では見えてこない相手の思いや、課題、お客の本音を引き出すことができる。こうした声を拾い上げて、対応を具体化すれば会社としてのバリューチェーン強化につなげることができる。

8. 離職率が下がる。採用コストが下がる
 取材などを通じて社員の承認欲求が満たされれば、会社とのワーク・エンゲイジメントが高まる。ワーク・エンゲイジメントが高まれば、離職率を下げる効果がある。離職率が下がれば、当然採用コストが下がる。またメンバーの離職によって長期プロジェクトが中断したり、遅延したりするリスクが減る。

9. 優れた人財が社内で育つようになる
 モチベーションとロイヤリティの高い社員が各部署に1人、1人と増えていけば、その社員が周りに刺激を与え、化学変化を起こして、ハイパフォーマンスな人財が増えていく。自ずと優れた人財が社内で育つようになる。

10. 優れた人財が外部から集まってくる
 優れた人財が多い会社になれば、それはやがて取引先、営業先にも伝わっていく。そのような評判はそれぞれの口コミで伝播していき、求人時に優れた人財が集まるようになる。

11. 幹部の人材育成にも効果
 ビジネスパーソンには、3つのスキルが求められる。物事を概念化して捉える「概念化スキル」、さまざまな社員、取引先、得意先と長く人間関係を続けていく「対人スキル」、特定の業務を遂行するために必要な知識や技能、ノウハウを身につける「技術スキル」の3つだ。
 うち「技術スキル」は若いうちに最も求められる。職位が上がっていくにつれ、概念化スキルが求められるようになる。社内報に限らず、インタビューや編集経験はこの概念化スキルを鍛えると言われ、結果優れた幹部の育成にも効果を発揮する。

12. ブランド力と成長力のある会社になる
 さまざまな好循環が生まれ、ブランド力がつき、潜在成長力のある会社に変化していく。社会からの認知度が高まり、資金面においても融資や助成金などが受けやすくなる。
 「そんなにうまくいくはずがない!」——そんな批判もあるだろう。しかし不況下、業績不振下にあってもしっかり社内報を出し続けてきた会社は、やはり長く続いている。

 古くて新しい企業メディア、社内報。呼び名は時代とともに変わっていくことはあっても、その役割と重要性はますます高まっていくはずだ。社員の魅力、潜在能力を引き出し、会社をより魅力的なブランドにするために、社内報をぜひ活用してほしい。

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