COLUMN ビジネスシンカー

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2022.05

DX時代にまずすべきこと―
隠れた会社の資源「トランザクティブ・メモリ」を活かせ
社内報で社員の
パフォーマンスを上げる

貨物コンテナ專門の鉄オタ知識が会社の原材料輸送ルートを一新。大幅なコスト削減に貢献

 ある化学メーカーに鉄道マニアの男性社員がいた。鉄道マニアの世界はご存じのように非常に裾野が広い業界。乗り鉄に撮り鉄、新幹線から地下鉄、私鉄、貨物専用など多岐に渡っている。
 その人はそのなかでも貨物、とりわけコンテナ貨物の専門で、中学時代から週末になると貨物専用の時刻表を片手に、全国の貨物路線を訪ねてはコンテナの写真を撮りまくり、その型番をメーカー別、内容別にデータ化していた。そのデータの豊富さは折り紙つきで、JRから「あの貨物の型番を教えてほしい」と問い合わせが来るほどだった。
 ある時、彼に本社の購買担当となる人事異動の辞令が下った。
 一般に化学会社では、海外から原材料を輸入し、それを自社工場で精製、加工し、製品化する。そのため原材料の積み降ろしは港だが、そこから工場・プラントへは陸路、主に鉄道を使い、コンテナ貨物となって移送される。彼は異動先で持ち前のコンテナ貨物の知識を背景に、会社の移送ルートを一新したのである。
 彼の頭のなかには、日本全国のコンテナ貨物の鉄道路線と時刻表が入っている。どこでどのような貨物列車を利用すれば、効率よく移送できるか手に取るように分かるのだ。
 ちょうど時代は低環境負荷の時代に向かっていた。グリーン調達といった言葉が話題になり、運輸・物流の世界では、モーダルシフトという言葉も飛び交うようになっていた。
 彼の鉄オタ知識によって同社の移送ルートは整理され、移送コストや時間が大幅削減された。
 創業以来の大規模なルート変更の成果に、彼は目を輝かせながら、「本当は好きな鉄道業界に就職することも考えた。でも好きなことを仕事にしてはいけないという思いもあって、この化学会社に入ったが、鉄道への思いは変わらなかった。その好きな鉄道の知識がこういう形で会社に貢献できることを嬉しく思う」と感想を述べた。
 彼の場合は、たまたま人事異動で適所が見つかったわけだが、こうした社員の情報をほかのメンバーが分かっていたら、もっと早く業務の効率化が起こっていたかもしれない。
 こうした埋もれた才能や見えない人脈、知られていない趣味や性格などの情報資産を掘り起こし、活用することで組織全体のポテンシャルとパフォーマンスを高めるのが組織の記憶力、トランザクティブ・メモリの使い方なのだ。

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