全てのビジネスパーソン必読!AI時代に求められる「気づき力」を鍛えよ! 2
「気づき力」は、単に感覚的に「鋭くなる」ことではない。目に見えないものに目をこらし、まだ言葉にならない違和感を丁寧に受け取り、それを価値のある問いや行動へとつなげていく感性である。それは他人より先に動くためのセンサーであり、周囲を巻き込みながら変化を起こすための起点にもなる。そしてその行動を確実に成果に結びつける力である。
その一連のセンスを生まれながらにして持っている人もいるが、多くは鍛えることで磨かれる。今回は、気づき力の鍛錬の仕方について紹介しよう。

目次
- ■まず、感じた「違和感」をメモする
- ■誰もが習慣化できる「5行違和感メモ」
- ■製造業向けには「観察トレーニング」と「余白の会話メモ」
- ■サービス業には「表情・空気読み取りリスト」
- ■キャリアステージごとに気づき鍛錬法も変わる
- ■社歴が長いと気づき力は「鈍化」することも……
- ■「三現主義」に学ぶ、気づきの原点とその応用
- ■気づきを成果に変える「動く力」と「伝える力」「巻き込む力」
- ■気づきを潰す「NG行動」
- ■ヒヤリ・ハットの法則から学ぶ、気づき力の実践
- ■違和感を危険予知に変える具体的ステップ
- ■「違和感メモ」以外で気づき力を鍛える5つの方法
- ■身体感覚を研ぎ澄まし、気づき力を鍛える
- ■フレッシュマンの気づき力は「吸収力」と「質問力」から始まる
- ■気づき力が確実にアップする「コンビニ違和感トレーニング」
- ■気づき力は「組織の文化」を変える
■まず、感じた「違和感」をメモする
「気づき力」向上のための日常的なトレーニング方法にはどんなものがあるのだろうか。まずは「違和感メモ」だ。これは業務中や日常生活で感じた“小さな引っかかり” をメモしていくもの。
「この顧客、いつもより返事が遅かった」
「なぜかあの資料に違和感がある」
「朝のチームの挨拶が薄かった」──そうした細かな違和感を、そのまま流さずに書き留め、週に一度見返してみる。すると気づきのパターンが見えてくるようになる。その際に重要なのは、“事実” よりも“感覚” に注目すること。
なぜ「そういう変化が起きたのか」と考えるのだ。
この気づき力は業種別に鍛え方が変わってくる。
営業職なら、商談後に顧客との会話を録音やメモで振り返り、「このとき、なぜ反応が薄かったのか」「相手の言い回しが変わったのはいつか」といった分析を行うことで感度が高まっていく。この問いを出すことで、言葉の奥にある「言外の意図」を読み取る訓練になる。問いをフォーマット化しておくのも手だ。
フォーマットとしては、
「感じた→考えた→仮説を立てた→次にどうするか」を基本として考える。次のようなフォーマットを用意するといい。
項目 | 記入例 |
---|---|
日付・時間 | 2025/4/27/1300 |
場所・状況 | 営業部・週例ミーティング |
感じた違和感 | いつもより発言が少なく、沈黙が目立った |
具体的な観察ポイント | とくに中堅社員2 名がほとんど発言しなかった |
仮説 (なぜ違和感を持ったか) | 新方針への不安、理解不足があるのでは |
次に取るアクション案 | 1 対1 面談で不安点をヒアリングする |
結果・学び (※後日記入) | 面談で施策説明不足が原因と判明。 フォロー実施。 |
■誰もが習慣化できる「5行違和感メモ」
より簡易なフォーマットとしては、「5行違和感メモ」がある。
「今日感じた違和感は?」
「その具体的な現象は?」
「なぜそう感じた?」
「仮説は?」
「次にどうする?」
と、5つの問いを書き込んでいく。ビジネスにおける気づきは、最終的に改善や革新などの「実行」につながってこそ意味がある。よって感じただけでなく、そこから次の行動までシークエンスで書き込めるようにすることが大事だ。
とは言え、感じた違和感を何でもかんでも行動につなげると、現場に混乱をきたすことにもなる。とくに入社間もない新人の場合は、なぜそういった違和感を感じるのか、慎重に考える必要がある。一見不合理な行動でもその業界なり、その組織なりの合理的な原理があるかもしれないからだ。
そこで違和感レベルに応じた行動指針を、自分なり、会社なりで設定しておくといいだろう。例えば次のような具合だ。
レベル | 違和感の例 | アクション |
---|---|---|
レベル1 (小さな違和感) | 「何となく雰囲気が重い」「お客様の笑顔が少し減った」 | メモに記録する。1 週間様子を見る。パターン化するか観察を続ける。 |
レベル2 (明確なズレを感じる) | 「方針説明後、チームが沈黙」「顧客から同じ質問が急増」 | 上司・関係者に共有し、仮説をもとに小さなアクションを起こす(面談、仮説検証)。 |
レベル3 (危険信号) | 「異常音」「売上急減」「チーム内で露骨な不満噴出」 | 即座にチーム・上司・関係部署へ報告。緊急対応を検討・実施する。 |
提示したのは、あくまで事例なので、レベル設定やアクションはそれぞれの立場で変えていけばいいだろう。
■製造業向けには「観察トレーニング」と「余白の会話メモ」
ほかにはどんな鍛錬法があるだろうか。
コンシューマー向けの製造業では、ユーザー視点に立った「観察トレーニング」が有効となるだろう。
たとえば、自社製品を使う一般ユーザーの行動を動画で観察し、操作に迷う場面や使用中の表情の変化を分析する。するとそこには設計段階では想定しなかった“実際の不便さ” や“行動のズレ” が現れたりする。こうした可視化された違和感を敏感に拾えるようになると、気づき力が培われ、商品改善や新たな商品開発につながっていく。
BtoB 製品を扱うメーカーでは、現場同行時などの「余白の会話」に耳を傾ける訓練が大切だ。BtoBでは取引先が比較的固定化されているため、仕事がルーティン化しやすく、大きな変化が起こりにくい。したがって仕様や手順の確認だけでなく、導入現場でのちょっとした発言──「最近ここ狭くなったんですよ」「担当が変わったばかりでして」などの“背景情報” を拾うことが、仕事の改善や新たなサービスの重要なヒントになる。背景の情報を拾い、意味づけて、設計や提案に反映できるようになることで、競合との差が生まれることになる。
■サービス業には「表情・空気読み取りリスト」
またサービス業では、「表情と空気感の読み取り」が肝になる。スタッフ同士で接客シーンを撮影し、お互いの動きや声色、タイミングをレビューすることで、無意識にやっている配慮や、逆に見逃していた不自然さに気づくことができる。こうしたレビューはチーム全体の気づき力向上にもつながる。撮影はプライバシーの観点からなかなか難しいかもしれない。そんなときは接客人数などを決めて、その対象者の表情を「表情・空気読み取りリスト」で簡単に書き込めるようにしておくといい。
■キャリアステージごとに気づき鍛錬法も変わる
また、「気づき」の鍛え方はキャリアステージに応じて異なってくる。まだ入社間もない若手社員にとっては、「上司や先輩の指示に“なぜ” を重ねる」ことが基本だ。ただ受け取るだけでなく、「この順番にするのはなぜか?」「このやり方の背景に何があるのか?」と考える癖をつけることで、指示の意味や業務の本質への気づきが深まっていく。
対してミドルマネジメント層には、「沈黙を聞く力」「声にならない声を拾う力」が求められる。たとえば、会議の場で発言しなかった部下がなぜ話さなかったのか、雑談の中で出てきたネガティブな言葉をなぜ口にしたのか──そうした“微細な変化” へのアンテナを立てておくことが、部門のリスクや成長の種を先回りで捉える力につながる。

そして経営層は、現場との距離が最も遠い。だからこそ、定期的に現場と対話する、社外の若手や異業種の人と話すといった「意図的なセンサーの外部化」が必要になる。五感を通じて得られる情報の量と質を高めることが、組織全体の未来を見る力にもつながる。
■社歴が長いと気づき力は「鈍化」することも……
とかく社歴が長くなれば、人は仕事や業務に「慣れ」が生じてしまう。その慣れはプロとしての技能や立ち居振る舞いを構成することになるが、慣れは気づき力の“鈍化”の温床でもある。
「おもてなし力」の高さで知られるある日本の航空会社では、社員の顧客対応に対して毎年複数の調査会社が入り込み、分厚いレポートを作成していたが、お客からのクレーム対応にずれをきたすようになっていた。とくに地上職と言われるカウンター周りのサービスを問題視する声が増えていた。ミドル層は現場の若手教育に問題があるとし、その教育の強化を進めていたが、改善が進まなかった。そこで会社は現場教育について、従来とは別の外部のサービスコンサル会社に見てもらったところ、思いも寄らない事実が判明したのだった。
そのコンサル会社は、若手社員がカウンター越しに顧客のクレームに一生懸命対応しているやり取りを示し、どう対応するかを指導役のベテラン女性社員に訊ねた。その航空会社では“お客様の立場に立って” サービスを提供することをモットーとしていたため、怒りを見せるお客様がそのクレーム対応に納得するまで、若手社員はひたすら申し訳ないと繰り返していた。そしてこの様子を見た現場指導役のベテラン女性社員は、こう言い放ったのである。「私がお客様の立場ならこんなクレームはしない」と。
つまり、このベテラン女性社員はプロとしての技能と意識が高まったが故に、お客さまの気持ちから離れてしまっていたのである。プロフェッショナルの研鑽は長い隘路をひたすら突き進むことにも似ている。そのため、「なんのために」という目的から離れ、手段が目的化することが多々ある。
いかに素晴らしいサービスを提供する優秀な社員でも、お客さまの気持ちに寄り添うことができなければ、その輝かしいサービスは画餅に過ぎない。サービス業においては社内だけに通じるプロの矜持は、むしろ弊害にもなる。社歴を重ねるほど、多様な人々とさまざまな接点を持ち、タコツボ化している自分の感性を打ち破る必要があるのだ。
■「三現主義」に学ぶ、気づきの原点とその応用
このように気づき力を高める手法はさまざまあるが、もっとも応用性が高いのが製造業で行われる「三現主義(現場・現物・現実)」だろう。三現主義とは、生産現場でなんらかの問題が起きたとき、または改善のヒントを探すとき、まず「現場に行き(現場)、実物を見て(現物)、事実を把握する(現実)」という原則に立ち返ることだ。
たとえば、ある生産ラインで不良率が急に上がったとする。そこで過去データや帳票などを調べて原因を探ることになるが、そこから導き出される“原因” は本質的なものではなかったりする。「オイルが切れていた」「設定値を間違えた」など、直接的な原因は割と簡単に判明するが、いわゆる真因というものにたどり着かないことが多い。オイルが切れたりするのは、担当者のチェックミスや勘違いなどが考えられるが、そこを深堀りするとその担当者が家庭的な悩みを抱えており、業務に集中しづらくなっていたことが原因だったりする。あるいは、オイルを少し安いオイルにしてから不良率が上がっていたり、近所で道路工事が行われたり、マンション建設のために掘削が行われ、次第に工場の床が傾いたりことが原因だったりすることもある。
そのために製造業では、最初の「気づき」を得るために現場に行き、作業者と機械の現物と現実を観て、「なぜ?」を繰り返しながら、作業者の手の動きや表情、機械の音や匂い、熱を五感で感じとっていくことが大切になるのだ。
すると、そこにある汚れやシミ、通路の滑りやすさなどに気づくようになる。そしてそこからさまざまな「不良率改善の種」と打ち手が見えてくるのだ。
この「現場・現物・現実」を徹底していくことで、気づき力の根幹にある“身体知” が身に付いていく。とくに事故やトラブル対策には有効で、ものづくりの現場に限らず、サービス業や教育、医療、営業など他のあらゆる仕事にも応用できる。
■気づきを成果に変える「動く力」と「伝える力」「巻き込む力」
もちろん気づくだけでは、仕事は変わらない。どれほど鋭い観察や洞察があっても、それを言語化し、行動につなげ、周囲を巻き込んでいかなければ、組織や顧客にとって価値は生まれない。気づきを成果に変えるには、そこから「動く力」と「伝える力」、そして「巻き込む力」が必要になる。
大切なのは、「気づきは検証して初めて価値になる」ということだ。直感で「これはおかしい」「何か変だ」と感じたとしても、それを一度外に出し、他者と確認し、実行につなげていく過程が必要になる。気づきは仮説であり、成果につなげるには検証と行動が不可欠なのだ。
気づきとは「声にして初めて社会化される」ものである。「気のせいかもしれませんが……」という前置きがあっても構わない。遠慮せず、丁寧に、客観的に伝える訓練を重ねることが、気づきを成果に変える第一歩となる。
■気づきを潰す「NG行動」
せっかく違和感に気づいても、それを正しく育てられなければ意味がない。企業では違和感を軽んじたり、無視したりする行動が見られるのも事実だ。これは非常にもったいないことだ。未来からの重要なメッセージを自ら潰してしまうことになるからだ。
ここでは、「違和感メモ」を続ける上で絶対に避けるべきNG 行動を整理しておこう。
① 「まあ、気のせいだろう」と片付ける
違和感は、必ずしもすぐに理由がわかるわけではない。しかし、「理由がわからない=気のせい」というわけではない。たとえば、売上データに1%未満の微細なズレが出たとき、「こんなの誤差だろう」と決めつけるか、「何か背景があるかも」と立ち止まれるか。
この小さな分かれ道が、後に大きな差になる。違和感を感じたら、たとえ小さくても必ず一度は立ち止まって考えることが、『気づき力』を育てる第一歩となる。

②「 どうせ自分の気のせいだ」と自分を疑いすぎる
若手や経験の浅い人ほど、違和感を感じても「自分が間違っているのではないか」と思いがち。だが、違和感とは、間違いかどうか以前に「自分が感じた事実」である。正解か不正解かはあとで考えればいい。まずは素直にメモし、仮説を立てる。違和感に対して、自分自身が「最初の検出者」であることに誇りを持つべきだ。
③ 「上司・先輩が何も言ってないから大丈夫」と思い込む
組織では「空気を読む」ことが求められる場面もある。だが、違和感を感じたときに、「誰も言っていないから問題ないはず」と自分の感覚を押し殺してしまうのは、非常に危険だ。歴史を振り返っても、大事故や大失敗は、必ず小さな違和感が見過ごされた末に起きている。誰かが気づいていなくても、自分が気づいたなら、それは行動する価値があるサインだ。
④ 違和感を言語化せず、曖昧なまま放置する
「なんとなくモヤモヤする」と感じても、それを言葉にしないままだと、違和感は時間とともに埋もれてしまう。違和感メモを習慣にする意味は、「違和感を可視化し、外に出す」ことにある。一度言語化することで、初めて仮説が生まれ、行動の選択肢が広がる。モヤモヤをメモすることを恥ずかしがる必要はない。
⑤ 違和感に気づいた後、何もしない
違和感を拾っただけで満足してはいけない。仮説を立て、小さくても行動を起こす。
そして、その結果を検証する。この「気づき→仮説→行動→検証」のサイクルを回さなければ、違和感はただのノイズで終わってしまう。違和感に気づいたら、「この後、何をするか」まで考える。それが、ビジネスパーソンとしての成長を大きく左右する。

違和感とは、未来からのささやかな警告であり、機会の種でもある。それを育てるか、潰してしまうかは、自分自身の態度次第だ。
「気のせいだろう」と片付けず、「自分の思い過ごしだ」と過小評価せず、「誰も言ってないから」と空気に流されず、「言語化せず曖昧なまま」にせず、「行動せず放置」しないことだ。違和感を大切に扱える人が、未来の変化を味方にできる。
■ヒヤリ・ハットの法則から学ぶ、気づき力の実践
違和感に敏感になることで最も効果が上がるのが「危険予知」だ。とくに現場・ビジネスのリアルな場では、違和感を見逃すことが、やがて大きな事故、トラブル、損失へとつながる。とくに参考にすべきなのがよく知られる「ハインリッヒの法則」、別名「ヒヤリ・ハットの法則」だ。
ハインリッヒの法則とは、アメリカの安全技師、ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒさんが調査を基に導き出した法則で、1 件の重大事故の背景には29 件の軽微な事故があり、さらにその背後には300 件のヒヤリ・ハット(危うく事故になりかけた小さな出来事)が存在するというもの。労働災害や事故の発生頻度に関する経験則として、製造業や建設業、運輸業、医療などのさまざまな産業の現場に浸透している。
ヒヤリ・ハットの原則が言い表していることは、「大きな事故は、突然起こるのではない」ということ。重大な事故は、小さな違和感や小さな異変を見逃し続けた末に訪れるのである。
■違和感を危険予知に変える具体的ステップ
違和感を危険予知に結びつけるためには、次の4ステップを押さえておくといいだろう。
① 違和感を即座にメモする
→ その場の感覚、光景、状況を記録。曖昧なまま放置しない
②「 もしも」を考える
→ 「この違和感が悪化したら、何が起きるか?」を仮説で想像してみる。
(例:「このチームの空気がさらに悪化したら? → プロジェクト進行に支障」)
③ 小さな予防アクションを起こす
→ 重大事になる前に、1 対1ヒアリング、点検、データ確認などを行う。「違和感検証」のための小さな一歩を踏み出す。
④ 共有する・オープンにする
→ 自分だけで抱えず、チーム・上司・関係者に違和感と仮説を共有する。「小さな違和感共有文化」を育てる。
■「違和感メモ」以外で気づき力を鍛える5つの方法
「違和感メモ」は気づき力強化には非常に効果的なトレーニングだが、気づき力を鍛える方法は他にもある。むしろ、違和感メモ“だけ” では鍛えきれない感性や思考力を育てるために複合的なアプローチをとることが肝要となる。次のようなアプローチがある。
①比較する
日常の中で「違い」を探す。昨日との違い、他者との違いに目を向ける。
②「なぜ?」を深掘りする
気になったことは3 回以上「なぜ?」を問い直す。
③異なる環境に身を置く
異業種交流、知らない街歩き、未経験ジャンルへの参加。感性を刺激する。
④フィードバックを受け取る
他者の視点を積極的に取り入れ、自分では見えない盲点を炙り出す。
⑤仮説を立てる
違和感から必ず仮説を立て、小さな行動で検証する習慣をつける。
これらの5つのアプローチを日常に取り入れれば、気づき力は確実に高まる。
■身体感覚を研ぎ澄まし、気づき力を鍛える
気づき力は、単に観察眼や思考力だけで育つわけではない。気づきセンサーの本体である身体の感覚、「身体感覚」を鍛えることも重要だ。呼吸、皮膚感覚、微細な身体の変化といった五感と内なるセンサーを磨くことが、より深いレベルの気づきを可能にする。ここでは、誰でもすぐに始められる身体を使った気づき力強化法を紹介してみよう。
1呼吸
呼吸は、無意識に行われる生命活動の中心だ。だが、意識的に呼吸に注意を向けることで、感覚は飛躍的に敏感になる。たとえば次のようなことだ。
① 背筋を伸ばし、椅子に腰かける
② 鼻からゆっくり息を吸い、吐く
③ “いま、吸っている”“いま、吐いている”と呼吸に意識を集中する
④「1 分間だけ、ただ呼吸の流れを感じ続ける」
重要なのは、コントロールしようとしないこと。「呼吸が存在する」ことを、ありのままに感じるようにする。これを習慣化すると、普段無意識にスルーしていた「心と体の微妙な変化」に敏感になってくる。結果として、外界の小さな違和感にも気づきやすくなる。
2瞑想
現代人の脳は、常に過剰な情報にさらされている。この雑音(ノイズ)を少しでも鎮めることで、本当に重要な変化が見えてくる。たとえば次の「1 分間マインドフルネス瞑想」などは有効だ。
①目を閉じ、姿勢を正す
②呼吸に注意を向ける
③ 浮かんでくる雑念には抵抗せず、気づいたら「戻る」とだけ思う
④ 1 分間、ただ「今ここ」に集中する
「瞑想」と聞くと大げさに構えてしまうかもしれないが、たった1 分、雑念を見送りながら呼吸に戻るだけで十分だ。雑念に飲み込まれるのではなく、「気づく」練習を続けることで、日常でも「今、何かがズレている」と瞬時に感知できるようになる。
3皮膚感覚
皮膚は「外界との接点」だ。温度、湿度、風、布の感触、人の気配─すべてを皮膚が最初にキャッチしている。この皮膚感覚を意識的に使うことは、気づき力を高める強力な武器になる。たとえば以下のような「皮膚スキャンニング」訓練は感度アップには効果的だ。
① 目を閉じ、意識を身体に向ける
② 頭皮→顔→首→肩→腕→手→胸→腹→脚と、皮膚の感覚を順番に感じ取っていく
③ 「どこかピリピリしている」「冷たい」「暖かい」「重い」など、微細な感覚を拾う
これを繰り返すと、身体の内外のわずかな変化に敏感になる。結果として、人間関係の空気の変化や、現場の異変にもすばやく気づけるようになる。
■フレッシュマンの気づき力は「吸収力」と「質問力」から始まる
「仕事は小さなこと、些細なことに気づくことから始まる」と技術コンサルタントの田中進さんが言うように気づき力は、仕事の根幹を成す能力の一つだ。
とりわけ新入社員、いわゆるフレッシュマンにとって、気づき力は社会人としての成長を左右する重要な土台になる。気づける人は、自分が置かれた環境や先輩たちの動きから多くの情報を吸収でき、それが仕事スキルの習得スピードの差となり、出世の差となる。気づけない人は、指示された作業をそのままこなすことに意識が集中するため、背景や文脈を読み取る余裕が持てず、大きな変化への対応や本質を捉えることができなくなる。
新入社員がまず意識してほしいのは、「先輩の動きや発言を観察し、意味を考えること」だ。たとえば、会議前に上司が資料を読みながら一言つぶやいた内容、電話対応のトーン、指示の出し方の違い──それらはすべて“現場の知恵” であり、観察対象としての価値を持つ。
さらに、新入社員の気づき力を育てるうえで欠かせないのが「質問力」である。疑問に思ったことをすぐに聞くのではなく、「なぜこのやり方なんだろう」と一度考えたうえで質問する癖をつけることで、理解が深まるだけでなく、相手の視点にも立てるようになる。質問の質が高まると、気づき力も自然に向上する。
もう一つ大切なことが、「仕事翻訳力」を高めることだ。「教わったことを自分の言葉で整理する」のだ。メモを取るだけで終わらせず、帰宅後に“今日気づいたこと” “今日の仕事のなぜ” を自分の言葉で書き出す習慣をつける。これを繰り返すと理解が深まり、次回同じ場面に遭遇したときの反応が早くなる。これは「行動の先読み」ができるようになることであり、まさに気づき力の成果といえる。
■気づき力が確実にアップする「コンビニ違和感トレーニング」
最も手軽に気づき力をアップさせるには、コンビニをウォッチするという手がある。通勤時にコンビニに立ち寄る人は多いだろう。コンビニは日々の生活者の嗜好の変化を色濃く反映するもっとも身近な社会インフラだ。その変化をウォッチすることで、誰もが確実に気づき力をアップさせることができる。
やり方としては、
①コンビニに入ったら、まず棚の「変化」を探す
②気づいた変化に「なぜ?」を3 回問いかける
③ 週に1 回、売れている/売れていない商品を仮説メモする
④月に1 回、店全体の空間の変化をまとめてみる
これを1カ月続けるだけで、街を見る目、商品を見る目、社会を見る目が劇的に変わるはずだ。
■気づき力は「組織の文化」を変える
ここまで営業の現場、製造の現場、サービスの現場、それぞれで起きた小さな違和感にどう向き合い、どう行動が変わり、どんな成果につながっていったかを見てきた。さらに、若手、ミドル、経営層といった立場ごとの気づきのあり方、鍛え方、活かし方にも触れてきた。気づき力は、立場や業種にかかわらず、すべての働く人にとって「未来へのヒントを見出す力」として存在している。
もう一つ伝えたいことがある。それは「気づき力が組織の文化を変える」ということだ。一人の気づきが共有され、対話され、仕組みに昇華されていくことで、それは個人の能力ではなく「組織の感性」になる。そうなったとき、その職場には、変化に強く、学びに貪欲で、誰もが安心して声をあげられる空気が生まれる。気づき力は、人を動かすだけでなく、場を耕し、未来を育てる。
気づきには「正解」がない。だからこそ、おもしろい。違和感に名前をつけようとする力、サインの意味を考えようとする姿勢が、新たな可能性を生む。気づきは小さな波紋だ。だが、その波紋は、誰かの気づきと交差したときに、大きなうねりとなって変化をつくり出す。あなたの毎日の中には、どんな気づきがあるだろうか?
それを拾い上げ、考え、動いてみたら、何が変わるだろうか? 未来を変えるのは、いつだってそうした小さな一歩なのだ。
【書籍】●『気づく力』畑村洋太郎、高田明和、大前研一、カルロス・ゴーン ほか[PRESIDENT BOOKS] ●『「気づく」とはどういうことか』山鳥重[ちくま新書] ●『一勝九敗』柳井正[新潮文庫] ●『鈴木敏文の統計心理学』勝見明[プレジデント社] ●『「気づき力」が組織を変える、仕事を変える―業務品質を高め成功要因を生みだすためのヒント』田中進[22 世紀アート] ●産業保健21 82 号 ●文部科学省「今、求められる力を高める 総合的な学習の時間の展開」 ほか
【WEB】●オージス総研「気づき力を高めるために必要なこと」/Exploratory「気づき力─意思決定の精度を上げるための3 つの提言」●「アンケートハガキを毎日1000 通読む! “ 超現場主義” 現場に成功のカギがある」(お店ラジオ)アキナイLABO ●トヨタエンタープライズ「トヨタ式研修の強み─カイゼン」● OJT ソリューションズ「トヨタの危険予知訓練「4RKYT」とは?危険予知能力を高める重要性も紹介」 ●資生堂 ● Panasonic「Switch Times」 ●セブン- イレブン・ジャパン ●日本の人事部 ●GLOBIS「 CAREER NOTE」●「気づきとは? 気づき力を高める方法や効果、英語表現を紹介【キャリアコンサルタント監修】」oggi.jp ●「見えない課題を察知する『気づく』力でリーダーシップを強化| 2 つの意味と英語表現も確認」Domani ●「リーダーとして大事な『気付く』力」MEDICOM by WEMEX ほか
POINT
■ 仕事の基本は「気づくこと」。でないとただのワーカーになる
■ 成長をつづける企業には「気づき」を涵養する仕組みがある
■ 気づきをブロックする人間心理と環境に着目せよ
■ DXの進展でシミュレーションが発達、製造業の「気づきセンサー」が劣化
■ まず、感じた「違和感」をメモする
■ 製造業向けには「観察トレーニング」と「余白の会話メモ」
■ サービス業には「表情・空気読み取りリスト」
■「 三現主義」に学ぶ、気づきの原点とその応用
■ 社歴が長いと気づき力は「鈍化」することも……
■ 気づきを潰す「NG行動」
■ 身体感覚を研ぎ澄まし、気づき力を鍛える「呼吸」「瞑想」「皮膚感覚」
■ フレッシュマンの気づき力は「吸収力」と「質問力」から始まる
■ 気づき力が確実にアップする「コンビニ違和感トレーニング」
ビジネスシンカーとは:日常生活の中で、ふと入ってきて耳や頭から離れなくなった言葉や現象、ずっと抱いてきた疑問などについて、50種以上のメディアに関わってきたライターが、多角的視点で解き明かすビジネスコラム