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位置情報×オルタナティブデータで広がるニュービジネス

「リモートワーク」「オンライン会議」「黙食」……新型コロナが流行してからは、さまざまな”新語”が定着している。「人流」もその1つだろう。

「人流」で注目された位置情報サービス

 人流は字面通り、人の流れを表すが、感染症対策においては流れもさることながら、その量、もっと言えば密度が問題となる。従来こうした人の流れ、量を測定する方法としては目視によるチェックが一般的だった。街角の交差点などで見かける交通量調査がその代表だ。しかしながら、ターミナル駅周辺の膨大な「人流」を手作業で測ることは現実的ではない。ではどうやって大量の人流を測定しているかというと、一定エリアにいるスマートフォンなどモバイル端末ユーザーの「位置情報」を拾い上げ、割り出しているのである。
 いまこの位置情報を使ったサービスが注目を集めている。位置情報はスマートフォンやクルマ、船、航空機などの移動体に搭載されているGPS=Global Positioning Systemから特定した位置にかかわる情報を指すが、人や移動体などの位置が分かるということは、安全性や運行管理面などの利便性が高まり、さらには新たなサービスの可能性を広げるからだ。
 たとえばもはや一般化している、登下校中のこどもたちや遠隔地にいる高齢者の位置を確認する「見守りサービス」はその代表だ。
 コロナ禍のなかでは、人流データをビジネスに活用した動きが目立っている。オフィスビルのテナントとして入っている、あるレストランチェーンでは、オフィスビル内で仕事をする数を位置情報から把握し、仕込み量に活かしているという。
 また大型ショッピングモールの店舗担当者は、別のショッピングモールの店舗ごとの人流を把握し、イベント企画や店舗の入れ替え計画などに使っていると話す。

建設機械の位置情報にエンジン回転数やオイルの汚れ、旋回の様子をセンサーでモニタリング。
コムトラックスで中国シェアを伸ばしたコマツ

 見守る対象が人ではなくトラックや重機などの”働く機械”となれば、盗難防止になるし、さらに稼働状況がわかれば、効率的な配車によって作業効率や生産性を高めることができる。
 この位置情報技術を活かして成長を果たした企業の1つに世界的建設機械メーカーのコマツがある。コマツは自社の建設機械にさまざまなセンサーを取り付け、機械の位置だけでなく、オイルの温度、振動、エンジンの稼働時間などのデータを分析できるようにしたシステム「コムトラックス=Komatsu Machine Tracking System」を開発。このコムトラックスにより、ユーザーはオイル交換や消耗品の適切な交換時期、あるいは保守の適切なタイミングが把握できるようになり、故障による作業停止時間を減らすことができた。コムトラックスが秀逸なのは、故障が起こった場合、ユーザー企業より前にコマツ側に情報が飛ぶことだ。どこにある機械のどの部品がどのような状態で故障したという情報が最寄りのサービスセンターにいち早く届くので、コマツのサービス担当者は短時間で故障現場に向かうことができるのである。
 作業単価の高い重機の稼働は、停止時間が長引くほどユーザーにとって痛手になる。もとより重機の稼働現場は人里離れた場所にあり、海外ではアクセスするだけで数日かかることもザラだ。その時間を減らすメリットは極めて大きいのだ。
 さらにこうした位置情報ビッグデータによる適切な予防保全が行われた機械は状態が良いため、下取り時にも高値がつく。
 またエンジン稼働時間分析から、機械の適切な配置も可能となる。エンジンは稼働しているものの、積み込みや掘削などの本来の作業が行われていない機械が多いとなれば、余剰な機械を別の作業現場で使ったり、あるいは他社にレンタルすることも可能になる。
 このコマツの位置情報と稼働分析の力を見せつけたのが、リーマンショック後の中国市場だった。当時世界中の建設投資が手控えられるなか、同社が販売したGPS機能付き建設機械が中国で盛んに稼働していることがわかり、中国での販売を強化。コマツのシェアは大きく広がったのである。

どこを走ればお客が拾えるかを教えてくれるKDDI、トヨタ、ジャパンタクシー開発の「配車支援システム」

 トラックを主体とする運輸会社にとって、この位置情報サービスはもはや必須のシステムとなっている。運輸関係者向けの位置情報サービスでは、走行位置、効率的配車、効率的配送ルートなどがわかり、またこうしたデータがそのままクラウドに溜まるので、ドライバーが配送終了後、日報を書き込む手間も不要だ。顧客側にとっては荷物の到着時間が読めるため、前後の作業を無駄なく準備できる。
 人を乗せるタクシー業界でも位置情報サービスは革新を起こしつつある。いまやスマートフォンから最寄りのタクシーを呼ぶ、配車アプリは一般化しているが、タクシー会社側の乗車需要予測システムも進化している。
 タクシー会社のジャパンタクシーと大手通信キャリアのKDDI、トヨタ、コンサルティング会社のアクセンチュアは、一帯のイベント情報や人口動態情報をかけ合わせ、タクシー需要を予測してタクシーに配信するシステム「配車支援システム」を開発している。
 タクシー車内に搭載されたタブレットの地図上に、予測される乗車数が表示されるほか、周辺一体の空車台数なども表示されるので、タクシー会社は需給の状況を見ながら配車を進めることができる。このシステムにはタクシー需要に影響を与える気象状況やバスなどの公共交通の運行状況、大規模イベントの状況がデータとして取り込まれて、場所や天気、時間帯に応じた需要に的確に対応できる。東京都内で行ったテストでは、実に需要予測94%の精度を実現したという。

クルマのプローブデータが、道路状況や周辺環境、気温などを知らせる

 またKDDIとトヨタ、地質調査会社の応用地質は、KDDIのスマートフォンを持つユーザーの位置情報、トヨタのコネクティッドカーのプローブデータを組み合わせ、国・自治体向けに災害対策情報支援システムを開発した。災害発生時にKDDIのスマートフォンを持つユーザーがどのような経路でどこに避難したかがわかるだけでなく、トヨタ車のプローブデータにより、災害でどの道が行き止まりになっているかが判明するので、災害時の救援物資の迅速な提供、あるいは災害後の復旧を加速させる。プローブデータとはクルマのさまざまな個所に組み込まれたセンサーから得られるエンジンの回転数や振動、外気温、ワイパーの使用状況などのさまざまなデータである。ワイパーが動いていれば雨や雪が降っている可能性があり、また外気温などがわかれば、雪か雨かの判断などもつく。
 こうした位置情報を使ったサービスは、災害時の安全確保やビジネスの生産性向上以外でも活用されている。たとえば㈱ポケモンとナイアンティックが開発した「Pokemon GO」はその1つ。スマートフォンの位置情報にVR技術を融合し、人気アニメ「ポケットモンスター」のキャラクターをハントするバーチャルゲームは、子どもたちから大人までも熱狂させ、世界中で大ヒットした。地域限定のキャラクターをハントできることから、Pokemon GOを使った地域活性化や観光振興にも使われた。
 位置情報に掛け合わせるさまざまなデータを、一般的に「オルタナティブデータ」と呼ぶが、もともとは投資用語で会社のIR情報や国や行政機関が発表している公開データ以外のデータを指す。例を挙げると決済情報や混雑度の目安となる入り込み数、あるいは店舗における駐車場の利用状況、工場内の電力の使用量など、企業にはこうしたオルタナティブデータが蓄積していると言われ、この活用がIT・デジタル社会においては企業の成長を左右するとされる。またタクシーの需要予測のように、「イベントがあると客が増える」というような従来から定説となっていることを改めて検証するツールとしても有効だ。
 位置情報のビッグデータとあなたの会社に眠っているオルタナティブデータが、新しいビジネスの扉を開くかもしれない。

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