ちょっとした工夫で、売上アップ!“あの企業”が取り入れた売上アップの工夫
「売上を上げるには、SNS対策が必至」と言われて頷く人は多いだろう。ネットや書店を見るとそんな「SNS対策」のオンパレードだ。ECサイトでは離脱を減らす工夫やマルチメディアからの導線設計に余念がない。担当者は日々、毎秒ごとに変化するデータをとりながら、様々な工夫を考える。実際、いまはちょっとした工夫が「大バズリ」する世の中。ただバズるには運もある。「たまたま芸能人が取り上げてくれた」「日本好きの外国人が商品を褒めた動画をアップした」など、担当者が意図的にバズらせることは難しい。しかし、知恵はあるものだ。そもそもSNSマーケティング以前に、「売上アップでなすべき基本的な工夫」をしているだろうか?ということで、おさらいも含めた気になるあの企業が行っている売上激増の工夫を取り上げてみる。

目次
■マクドナルドの「ポテトもご一緒にいかがですか?」
代表的なのが、マクドナルドの注文時の「ポテトもご一緒にいかがですか?」のセリフだ。この「◯◯もご一緒に」は販売におけるクロスセル手法と呼ばれ、対面販売では広く使われている。クロスセルとは「顧客が購入しようとしている商品・サービスに新たな商品・サービスを促すこと」で顧客単価(1人あたりの売上)を向上させるマーケティング手法のこと。
マクドナルドだけでなく、たとえば新車を買った購入者に自動車ディーラーがいう「カーナビはいかがですか?」のセリフなどがそうだ。カーナビ単体では数十万円の追加となるが、車自体は300万円と桁違いの金額なので、購買決断直後に提案されると通りやすい。同様に自宅などの不動産を購入するタイミングで、保険なども勧められると契約に至りやすくなったりするのと一緒で、高額商品でも使われる。
とりわけマクドナルドが優れているのは、この「ご一緒に」のタイミングが絶妙なことと、追加注文商品がそれほど心理的負担にならないことだ。つまりポテトのクロスセルが通りやすかったのは安いからだけでなく、①すでに購買モードの顧客に、②いま食べるものの延長にあるものを、③購買完了直前のタイミングで、④断っても気まずくない方法で提案したからだ。
クロスセルの話は販売促進の教科書にも出ているが、「いつ提案するか」はマーケティングで最も見落とされている変数だった。クロスセルの効果を上げる理論として近年話題となっているのが、「ナッジ」理論である。ナッジとは、日本語で「軽く肘でつつく」という意味を持つ英語のこと。つまり購買などの行動を後押しする理論であるが、その理論でも「つつく」タイミングはなかなか難しい。そこを嫌味なく、しかも店員の誰もがさらりと行っているのがマクドナルドの見事さなのである。
決断直後・会計直後・登録直後—「財布が開いている瞬間」を特定することが、あらゆる追加提案の前提になる。
■Amazonの「この商品を買った人はこちらも」
実は、このクロスセルをECサイトで実現したのがアマゾンである。購買履歴と閲覧履歴を組み合わせた協調フィルタリングアルゴリズムによるレコメンドエンジンを商品ページに実装した。「あなたにとって関連性の高い商品」を提示することで、探していなかった商品との出会いが生まれる仕掛けだ。Amazonの売上の約35%はこのレコメンド機能によるものとされており、検索ではなく「提案」によるECの可能性を実証した。
■ハインツ(Heinz)の「ケチャップボトル逆さ置き」
ハインツと言えば、日本でも馴染みのアメリカを代表する調味料ブランド。もともとは単独メーカーだったが、2013年に投資ファンドのバークシャー・ハサウェイと3Gキャピタルが買収、2015年にクラフトフーズと合併が実現してクラフトハインズの事業部となっているが、そのシンボルがケチャップ。しかし従来の瓶型ケチャップボトルには、ケチャップが出てきにくいという不満が長年あった。そこでハインツでは蓋を下にして逆さに立てるプラスチックボトルに変更。すると使い勝手が劇的に向上し、最後まで使い切りやすくなった。ケチャップの消費量が増えると同時に「使いやすいケチャップ」というブランドポジションが強化され、類似商品へのブランドスイッチが減少したのだった。形状変更という単純な設計変更が複数の効果をもたらしている。
同様の工夫に、日本の味の素の例がある。味の素は従来の瓶サイズ(30g)より大きい8gサイズを1962年に発売したが、合わせて34個あった穴のサイズを大きくした。穴を大きくしたことで従来より、調味料が出やすくなって湿気による目詰まりが減った。結果消費量が伸びたが、穴を大きくしたのはあくまで目詰まりを防ぐ目的で、巷間言われるような「儲けるため」ではない。ただこうした消費者の不便を減らす工夫が、結果として購入頻度や購入単価のアップに貢献することはよくある。
また同じようなケースにシャンプーの「もう一度洗いましょう」表記がある。シャンプーは1度で洗い流すより、1度目で泡立てて髪や地肌に着いた汚れを落とし、リンス後、もう1度シャンプーを付けて洗うと泡立って洗浄力が増すと言われる。実際そういう実感を持つ消費者が多いが、ただこれも一般的には1回の洗浄で十分だとされる。顧客満足度を高めながら、巧みに使用頻度を上げる手法は、売上アップの定番となっている。
■スターバックスの「ショート、トール、グランデ、ベンティ」の呼称
日本にシアトル系コーヒーというジャンルをつくり、日本の喫茶店、駅前カフェ文化と一線を画したポジションを築いたスターバックス。地方ではスターバックスの有無がその地域のステイタスを表すベンチマーク的存在ともなった。スタバが他のカフェチェーンと違うのは、価格帯もさることながら、その独自文化を売ったことだ。一般にカフェチェーンやファストフードでコーヒーやラテを注文すると、サイズを聞かれるが、スタバは「S、M、L」ではなく、「ショート、トール、グランデ、ベンティ」で聞かれる。些細なことに思えるが、注文を繰り返していくと、客は知らず知らずに「スターバックス文化圏」の住民になっていく。このように、似たようなものでも他とちょっと違うフォーマットを利用すると、その店を利用するファンのなかで独自文化が花開く。そしてこういった人たちが、自称“アンバサダー”としてその素晴らしさを語っていくことになる。

こうした「他とちょっと違うフォーマット」では、制服や装飾品などでも見られ、その熱狂度が高まれば高まるほど、消費額も上がる。ただファンの熱狂度が高くなれば、「それ以外」との壁も高く、厚くなるので、どこまで改変すべきかは、それぞれの改変設計思想による。スタバはサイズ名の変更が新たな客の導入と文化圏構築の「ほどよさ」だったと言える。
■ローソンの「おにぎり具材正面向け陳列」
コンビニは販促のノウハウがぎっしり詰まった業界の代表。なかでもおにぎり、パン、スイーツの工夫は「よくぞここまで」と言わしめるほど限りない。ローソンでは、おにぎりを陳列する際、具材(鮭・ツナなど)が正面から視認できるよう角度を統一、あわせて具材名の文字を大きく濃く、わかりやすくした。従来の縦置きや雑然とした陳列では具材が見えにくく、顧客が手に取るまで中身がわからなかったからだ。一般に客の回遊性が高まると売上アップにつながる。しかしコンビニはその名のとおり、「コンビニエンス」が売り。短い時間で目的のものを買うニーズが高い。視認性の改善という単純な変更で、顧客は選択する楽しさが増し、かつタイムパフォーマンスが上がり、購買点数の増加につながったのだ。
■カルディの「無料店頭コーヒー」
輸入食品がところ狭しと並ぶ食料雑貨チェーン、カルディ。中に入ろうとすると店頭で砂糖とミルク入りのコーヒーを渡される。何気ないサービスだが非常に強力だ。まず、人は何かを受け取ると、その場をすぐ立ち去りにくくなる。心理学でいう「返報性」に近い。渡されるのが甘いコーヒーということも大きい。菓子とは違い、液体なので必然的にこぼさないようゆっくり歩くことになるので、店内滞在時間が自然に伸びる。また程よい甘さは、リラックス効果を高め、ゆったりと店内を回る気にさせる。さらに重要なのが香りだ。コーヒーの香りは、人間に「落ち着き」や「異国感」を与えやすい。カルディは、商品棚を見る前に、“気分”を作っているのである。

■Airbnbの「プロカメラマン撮影」「スーパーホスト」バッジ制度
いわゆる民泊の嚆矢「Airbnb」。創業初期、予約数が伸び悩む原因を調べたところ、ホストが撮影した写真の質の低さが主因と判明した。共同創業者が自らカメラを借りてニューヨークのホスト宅を回り、プロ品質の写真を撮影して掲載したところ、収益がアップした。平均でホスト収益が21%増、予約は19%増というデータもある。写真は商品説明の一部ではなく「商品そのもの」だという認識を改めた事例だ。
一方で写真の質が高まると、本当に期待通りの施設なのかが気になるものだ。逆に実際の部屋やサービスがイマイチだったりすると逆効果になる。そこでAirbnbは一定の基準(評価・応答率・キャンセル率など)を満たすホストに「スーパーホスト」バッジを付与する制度を設けている。ゲストにとっては安心して選べる指標となり、予約率が向上した。またホストにとってはバッジを維持・獲得するための品質向上インセンティブになっている。いわば料理店のミシュランのような制度だが、自社内でできるので、設計と運用がしっかりしていれば、コストパフォーマンスが非常に良い仕組みだ。
■Apple Storeの「触れる」展示スタイル
登場以来、世の中のイノベーションを先導してきたアップル製品。その人気はデザイン・機能はもちろん、売り方の演出にもあった。競合他社が商品をガラスケースに入れて管理している時代に、すべての製品を台の上に置いて誰でも自由に手に取って操作できるスタイルを採用した。触れることで製品の質感・操作感が伝わり、「欲しい」という感情が発生しやすくなる。体験することで購買障壁が下がる設計は、デジタル製品という機能価値を体験価値として具現化した手法として評価される。
■Booking.comの「残り1室」表示
いまや旅行や出張予約は旅行サイトやホテルの予約サイト経由が中心。ただ最近は比較サイトも充実しているので、場所と施設内容を吟味して、サイトにもどって予約しようとすると、「sold out」というケースも少なくない。その際、あと何室残っているかがわかると予約の「緊急」度がわかるので、判断の役に立つ。ホテルのプラン別詳細ページなどでは「あと1室だけ残っています」「今20人がこのホテルを見ています」というリアルタイム情報を表示する設計が導入されている。希少性と競合の存在を同時に示すことで「今決めなければ」という緊急感を生み出す。予約決断を加速させる効果があり、Booking.com・Expedia・Hotels.comなどOTA各社に広まった。ただし2019年にはオランダの消費者機関からこうしたサイトの表示について誇張が見られるとの行政指導があり、信頼性の担保が課題でもある。
■GoProのユーザー「動画シェア」戦略
スポーツやアウトドア向けの動画撮影カメラGoPro。小ぶりで機動性の高いハンディタイプのビデオカメラはそれまでもあったが、GoProはそれを1周りも2周りも小さく、またヘルメットやバイクのハンドルなど、どこにでも装着できる利便性の高さが人気となり、アウトドアスポーツ界のデファクトスタンダードとなった。ユーザーがGoProで撮影したサーフィン・スカイダイビング・登山などの動画を公式SNSやYouTubeチャンネルで積極的にシェアする仕組みを作った。撮影者は自分の映像が公式に取り上げられることを名誉に感じ、自発的にGoProを使用・宣伝する循環が生まれた。これによって広告費をほぼかけずに「アクティブな人が使うカメラ」というブランドイメージが世界中に広まった。
■IKEAの「迷路型店舗動線設計」
スウェーデン発祥のセルフビルド型家具販売チェーンIKEAの店舗は、ほぼ一方通行の回遊ルートが設計されている。入店から出口まで原則としてすべての売り場を通過する構造になっているので、購買予定のない商品との接触機会が最大化され、衝動買いが生まれやすい。さらに実際に生活空間のように家具が配置されたショールームを通過することで、「このソファが自宅にあったら」という想像が購買意欲を高める。またIKEAの組み立てマニュアルは、描かれているイラストを順に追うだけで、誰もが家具を組み立てられるようになっている。これは創業者のイングヴァル・カンプラードがディスレクシア(学習障害)だったことが大きい。弱点が大きなビジネスの起点となったのである。
■ユニクロの「立てかけ展示」
ユニクロはTシャツをたたんで棚に積む従来の陳列から、壁面にカラー展開を縦並びに見せる展示スタイルに変更した。たたまれた状態ではどんな色があるか一目でわからないが、立てかけると全色が同時に見え「ほかにも買おうか」という気持ちが生まれやすくなる。陳列の向きと見せ方を変えるだけで、多色展開という商品特性が初めてセールスポイントとして機能し始めた。
■岩手のスーパー「マイヤ」の「床の商品案内」
高齢化は地方の共通課題だが、地方では高齢者の利便性を考慮した工夫で、集客力を高めている。岩手県に本社を置くスーパー、マイヤでは、商品やレジ、トイレなどの案内シールを床に貼っている。高齢になると腰が曲がったり、視線が落ち気味になる。視線を落としてもスムーズに目的の棚にたどり着けるようにしたのだ。また、マイヤでは認知症の方々もゆっくり安心して買い物ができるように、特定日の特定時間帯を「スローショッピング」に指定し、専用レジの設置や、ヘルパーや介助の方も一緒に休憩できるサロンなども設置している。
■一蘭の「味集中カウンター」
ラーメン店には、意外と心理的ハードルがある。人によっては店員とのやり取りが面倒、周囲の視線が気になるなど。とくに女性一人では入りづらい。一蘭はそこに着目。仕切りを設けることで周囲の視線を遮断し、注文も紙で行うようにして店員との接触を減らした。一蘭は、味以前に、“恥ずかしさ”という摩擦を除去したのである。すると、「ラーメンを食べる」という行為そのものに集中できるようになり、初めての客も安心して入店できるようになったのだ。
■ドーミーインの「無料の夜鳴きそば」
日本のビジネスホテルのアメニティやサービスの充実ぶりは、外資系高級ホテルに引けを取らない。さすがに部屋の広さでは敵わないが、ほぼ手ぶらで宿泊しても困ることはない。とくにありがたいのが、無料の夜食サービス。有名なのがドーミーインの夜鳴きそばだ。宿泊者で希望すれば夜9時30分から11時まで、食堂で無料の夜鳴きそばを食べることができる。この時間帯は観光や仕事から戻って小腹が空く頃で、絶妙だ。また11時までに間に合わなければ、フロントで申し出るとカップ麺「ご麺なさい」をもらうことができる。朝食にこだわるビジネスホテルは多いが、深夜に注目したサービスは、ドーミーインが展開するまでは存在しなかった。ホテル側としては人手もコストもかかるが効果は大きい。豪華な部屋そのものより、「夜にラーメンを食べた」という体験の方が印象に残るからだ。しかも夜鳴きそばは、「なんだか得した」という感覚を生む。つまりドーミーインは、「誰かに話したくなる小さな記憶」を設計していたのである。この手法はあっという間にホテル業界に広がって、大手ではルートインホテルズやスーパーホテル、カンデオホテルズのほか、地方のビジネスホテルでも夜食サービスが展開されている。

■Uberの「到着まで〇分」リアルタイム表示
ライドシェアという新たな交通サービスで世界を席巻したUber。Uberが世界に広がったのはスマートフォンというプラットフォームの存在が大きい。予約したが「いつ来るかわからない」という不確実性を解消したからだ。Uberでは予約すると地図上でドライバーの位置と到着予定時刻をリアルタイム表示する機能を実装した。到着時刻が見えると安心感が生まれ、キャンセル率が大幅に低下した。小売や飲食店などでも待ち時間の短縮は課題だが、短縮だけでなく「見える化」だけで顧客満足度は向上したのである。
こうした売上アップのちょっとした工夫は、特定の企業や特定の店舗で始まり、いつしか業界の「常識」となっていく。常識化された「ちょっとした工夫」はまだまだある。とくにコンビニやスーパーは工夫の宝庫である。
■コンビニの「レジ前おでん・中華まん」
レジカウンターの直前またはその上に、温かいおでんや中華まんを配置する設計は日本のコンビニが確立した独自フォーマットだ。決済待ちの数秒間、視覚と嗅覚に同時に訴えることで、購買予定のなかった商品の衝動買いを誘発する。「ついでに買う」という心理が最も高まる瞬間に商品を置くタイミング設計の典型例で、客単価の底上げに継続的に貢献している。
レジ周りについで買いしそうな商品を置くことは、いまやコンビニだけでなく、スーパーや衣料チェーン、道の駅、土産物店など「レジ待ち」が起こる店舗の常識設計となっている。
また薬局では、絆創膏・風邪薬・胃薬など処方箋不要の薬を入口付近やレジ横のゴールデンゾーンに集積配置することで、「そういえば切れてた」という想起購買が促進される。薬局内での動線が最も集中するレジ近辺での接触は、想起率と購買転換率を高める。目的買い客以外の衝動購買を狙った陳列設計として、ドラッグストア業態で標準化されている。
■コンビニの「雨の日POP」
雨の日に、「今日は雨なのでポイント2倍」「足元お気をつけください」と書くだけで、売上や印象が変わることがある。重要なのは、内容そのものではない。「自分の状況を理解してくれている」と人間が感じる点にある。これは心理学でいう“共感効果”に近い。人は、自分を見てくれている相手に好意を持ちやすい。たった一言のPOPでも、機械的な店と、人間味のある店の差は大きい。

■スーパーの「牛乳を奥に配置」
スーパーでは、牛乳・乳製品コーナーを店内の最奥部に配置していることが多い。狙いはIKEAの導線設計と同様に、多くの商品を見てもらうためだ。牛乳は生活者にとって必需品であるため、客は必ず奥まで歩いていく。その間に他の商品と接触する機会を増やし、目的品以外の商品を衝動買いさせるという仕掛け。
■スーパーの「花売場の入口配置」
花売り場を入口付近に置くスーパーは多い。これは入店直後に鮮やかな花を見ると視覚的に気分が向上し、購買意欲が高まるという研究結果に基づいた陳列設計。特売品や精肉・鮮魚コーナーを入口に置くケースもあるが、花は「購買モード」に入りやすくする感情的導入装置として機能するとされる。
■スーパーの「入口野菜」
スーパーの入口戦略はまだまだある。入口近くに野菜や果物を置く店も多い。これは単なる鮮度アピールではない。人間は、最初に健康的な商品を見ると、「今日はちゃんとした買い物をしている」という感覚を持ちやすい。すると、その後に菓子や総菜をカゴへ入れる心理的抵抗が下がる。これは行動経済学でいう“モラルライセンシング”に近い。最初に良い行動をすると、少し気が緩むのである。つまりスーパーは、入口で「健全な買い物気分」を作り、その後の購買量を増やしている。小さな配置変更だが、売場導線にはこうした心理設計が大量に埋め込まれている。
■スーパーの「試食」
「知ってもらう」広告より「使ってもらう」体験のほうが購買転換率が高い。これはほぼすべての業種で成立する。代表的なのはスーパーやデパ地下の試食だ。巧みな声がけ(ナッジ)と返報性の心理も働くので、かなりの確率で購入に至る。もちろん販売員の「ウデ」もあるが効果の高い定番手法だ。試食だけでなく衣料品店の試着、化粧品店のメイク体験、ホテルの宿泊体験など、使って体験することが購入に直結する例は多い。デジタルならフリートライアル・サンプル動画・デモ環境などがある。「まず使ってもらえる入り口は何か」という問いは、あらゆるビジネスで常に持っておくべき基本で、決してBtoCビジネスに限ったことではない。BtoBの世界では、サンプル提供やトライアル、パイロットプランなど「使ってもらう」工夫が定着しており、商品価格、プロジェクト規模が大きいほど、かけるコストや時間も大きくなっている。
■居酒屋メニューの「おすすめシール」
居酒屋でメニューを開くと飛び込んでくるのが、「おすすめ」「人気No.1」などのシールやアイコンだ。客にとっては、注文に迷った時の目安となるだけでなく、「他の人が選んでいる」という社会的証明がシンプルに機能するためで、体験価値が上がった気分になれる。店にとっては文字をメニューに追加するだけ。その商品の注文率が3倍になった事例が飲食店で報告されている。メニュー全体を刷り直すことなく特定商品の売上を操作できる点が実務上の強みとなっている。
■売りたい商品を売る、価格の「松竹梅」
人は絶対値ではなく比較で意思決定する。値引きせずに、売りたいものが選ばれやすくするためには、商品ラインナップを増やすことだ。ただあまりにラインナップが多いと人は迷って、購買に至らないケースもある。ECサイトならAIを使って合理的に比較することも可能だが、リアルショップではそうもいかない。ポイントはただラインナップを増やすのではなく、売りたい商品より高額な商品を出すことだ。2000円の商品と1000円の商品があり、2000円を売りたいなら、その上に3000円の商品を加えるのだ。するとそれまで高いと思っていた2000円が「お得」に思えるからだ。とくに日本人の場合は、最上ではなく、そのすぐ下の商品を選択するケースが多い。和食のそば店やうなぎ店などでみかける「松」「竹」「梅」はその心理を突いている。店側にとっては最上の「松」が多く売れるにこしたことはないが、最終的に利益を最大化すればいいので、回転率や手間、材料費などのファクターを組み合わせ、出した解が「竹」への集中なのだ。この手法は自動車メーカーの新車のグレード設定で使われてきた。売れるグレードは、最上位グレードの1つ下に集中する。したがって生産計画を立てる際には、最上位グレードの1段下のクルマの生産ボリュームが厚くなるように設計しているのだ。色や装備、内装などいまや1つのクルマの組み合わせバリエーションは数千とも言われるが、ことグレードに関しては大きく変わっていない。海外では価格は売り手と買い手の交渉という意識が高いが、こと日本の場合は、見えない心理設計が働いていると言える。

■スーパー、量販店の「きりのよくない価格」
スーパーや量販店は仕入れ価格と販売数、在庫率、景気、鮮度などのファクターを解析しながら、利益が最大になるように販売価格を設定している。当然1円、あるいは数銭単位の計算になるため、細かい端数が出やすい。店にはこうした端数をそのまま残した価格が並ぶ。しかしながら、これは厳密な利益計算から導かれるだけではない。人間の心理としては「3000円」「20000円」「45000円」といったきりのいい数字より、「2898円」「20266円」「46220円」といった数字に惹かれる。そのほうが「正直な価格」と思えるからだ。さらに「3000円」より「2898円」、「20000円」より「19980円」、「45000円」より「44800円」のほうが売れやすい。前、あるいはその前々の桁の数字が下がっているので実際より「お得感」が出やすいからである。
■スーパー銭湯の「漫画コーナー」
スーパー銭湯で漫画コーナーを拡充した施設は、滞在時間が大きく伸びる傾向がある。漫画そのものはそれほど高くない。けれども長居できると、飲食、追加サービスの機会が増え、再来店が増えることがわかっている。近年ショッピングモールの通路にゆったりとしたソファーやチェアが置かれているが、これはこうした検証から導かれた施策だ。この「長居の仕掛け」はモールだけはなく、現代商業施設全般に共通する。書店、カフェなどでも長居できるような仕掛けが増えている。店は単に商品を売るだけではなく、「時間を過ごせる場所」へ進化しているのだ。モノ消費から時間消費への移行である。
■飲食店の「最後に温かいお茶」
和食店などで、会計前に温かいお茶を出す店がある。原価は極めて低いが、満足度への影響は大きい。人間の記憶は、「最後」に引っ張られやすい。心理学でいうピーク・エンドの法則である。食事全体が普通でも、最後が心地良いと、「いい店だった」と感じやすい。逆に、料理が良くても、最後の会計や接客が雑だと印象は崩れる。これは非常に重要で、多くの成功企業は「出口設計」がうまい。最後にどういう感情を残すか。そこに小さな工夫を入れているのである。
■ホテルの「チェックアウト11時」
ホテル業界では、チェックアウト時間を少し遅らせるだけで満足度が大きく変わることがある。例えば10時と11時。この1時間の差は、実際以上に心理効果が大きい。朝、人間は時間制限に強いストレスを感じやすい。「急がなければ」という感覚が宿泊満足度を下げるからだ。逆に11時だと、「朝食後に少し休める」「準備に余裕がある」と感じやすい。つまりホテルは、部屋の豪華さだけでなく、「急かされない感覚」を売っている。これは日本のビジネスホテルが非常に得意としてきた、小さな快適性の編集でもある。
参考
【書籍】●『ダン・S・ケネディの世界一賢い価格戦略』ダン・S・ケネディ[ダイレクト出版] ●『脳科学マーケティング100 の心理技術』ロジャー・ドゥリー[ダイレクト出版]●『この1冊ですべてがわかる 販促手法の基本』岩本俊幸[日本実業出版社]
【WEB】●スターバックスコーヒージャパン ●ローソン公式サイト●セブン- イレブン・ジャパン ● スーパーマイヤ ● ユニクロ ● 一欄 ●味の素 ●クラフト・ハインツ ●ドーミーイン ●共立リゾート●スーパーホテル ●アップル ● Airbnb ● Uber ●朝日新聞デジタル ●プレジデントオンライン ほか
POINT
売上激増の8か条
■迷わせない
■不安にさせない
■待たせない
■試させる
■語らせる
■限定する
■用途を変える
■欠点を個性にする
ビジネスシンカーとは:日常生活の中で、ふと入ってきて耳や頭から離れなくなった言葉や現象、ずっと抱いてきた疑問などについて、50種以上のメディアに関わってきたライターが、多角的視点で解き明かすビジネスコラム