追加料金ゼロ、選択疲れゼロ!「全部込み」時代の到来 いま急拡大する「オールインクルーシブ」

目次
■「おまかせ」でいい、という気分の正体
「今日のランチはどこにする?」「オプションはどれにする?」「追加料金はいくらかかる?」—日常生活はもとより、旅の最中でさえ私たちは絶えず選択と計算を強いられる。その煩わしさにようやく声が上がり始めた。「もう全部込みでいい」と。
このような消費者心理の変化を追い風に、急速に存在感を高めているのが「オールインクルーシブ」という料金スタイルである。宿泊・食事・飲み物・アクティビティのすべてを1つの料金に包み込み、滞在中はお金の心配をしなくていい。そのシンプルさが、今にハマっているのである。
もともと日本は「パッケージ」消費が多かった。旅行ではいろいろなものを“それなり”に体験できるツアーが人気だったが、消費の成熟、個客化・個別化が進んだことから、個別プランが多様化していったのである。
■発祥はカリブ海。国内リゾートにも波及するオールインクルーシブ
昨今のオールインクルーシブの流れをつくったのは、カリブ海やメキシコのビーチリゾートだ。「Sandals Resorts(サンダルズ・リゾート)」や「Secrets Resorts & Spa(シークレット・リゾーツ&スパ)」、あるいは世界60カ国以上に展開する「Club Med(クラブメッド)」などのブランドが、数十年にわたり宿泊・食事・バー・マリンスポーツ・エンターテインメントをすべて一括料金に含めるモデルを確立してきたのである。ここでは「何もしない贅沢」と「何でもできる自由」が同時に成立する不思議な空間が出来上がっている。
この潮流は世界に広がっており、豪華リゾートホテルが林立するドバイでは、「Atlantis, The Palm(アトランティス・ザ・パーム)」などの超豪華ホテルが、プール・ビーチ・スパ・食事を一括にまとめたパッケージ展開に積極的で、中東リッチ層を中心に世界中からリピーターを確保している。
国内でもこの波は確実に広まってきている。
たとえば沖縄・石垣島のリゾートホテルでは、夕食・朝食・スパ・マリンアクティビティを込みにしたプランの人気が高まっており、ハイアット・リージェンシー・瀬良垣アイランド・沖縄等の国際ブランドのフルサービスホテルも、オールインクルーシブプランを積極的に展開している。
国内高級旅館の代表格である星野リゾートも、「界」などの高級ブランドでウェルネス体験や食事を組み込んだオールインクルーシブ的なプランを展開している。
東京・銀座にある「銀座ホテル by グランベル」では、スパやラウンジでのアルコール、食事がすべて追加料金無料のプランを用意している。
従来日本ではこうした宿泊プランはパッケージツアーとして成立していたが、これらのようなラグジュアリーブランドでも展開されているのは、増加する訪日外国人富裕層からの“日本ならではの高級オールインクルーシブ”ニーズに応えたためだ。
オールインクルーシブはホテル以外でも展開されている。代表的なのが客船クルーズ。世界的な富裕層人口の増加に伴い、クイーン・エリザベスや飛鳥などの豪華客船を使ったクルーズの人気が高まっているが、こうした客船を使った外国を巡るクルーズでは、食事やドリンク、エンタメ、フィットネス利用がすべて含まれるプランが多い。

ラグジュアリークルーズを展開するリージェント・セブンシーズ・クルーズでは、究極のオールインクルーシブをコンセプトにした「スーパー・ラグジュアリー」を提供。寄港地観光や航空券、プレミアムドリンク、チップまでもインクルードしている。
ラグジュアリーなオールインクルーシブクルーズは鉄道でも展開されていて、そのきっかけを作ったのがJR九州が運行するクルーズトレイン「ななつ星in九州」だ。九州新幹線車両や駅のデザインも手掛けた、鉄道デザイナーの水戸岡鋭治さんが、積年のキャリアと思いを詰め込んだ外観と車内インテリアは、まさに走るラグジュアリーホテルと呼ぶにふさわしく、登場時には日本の鉄道業界に衝撃を与えた。ななつ星を利用したツアーでは食事やドリンクはもちろん、立ち寄り地での観光や体験、ホテル宿泊・食事、ホテルの送迎までがインクルードとなっている。このななつ星ツアーは国内だけでなく海外からの旅行者にも人気で、搭乗は抽選者のみで、毎回10〜30倍の人気となっている。
同様のオールインクルーシブプランは、他のJR各社でも展開しており、東日本はフェラーリのデザインも手掛けた工業デザイナーの奥山清行さんがデザインした「四季島(しきしま)」、JR西日本は建築家の浦一也さんがデザインした「瑞風(みずかぜ)」を走らせている。
また首都圏大手私鉄の東急は、水戸岡鋭治さんのデザインによる「THE ROYAL EXPRESS」を所有し、同グループの伊豆急のほか、JR東日本、JR東海、JR四国、JR北海道管内をツアーで走らせている。
こうした高級ホテルとレストランを兼ねた専用ラグジュアリー列車による旅は、まさに日本型オールインクルーシブの極致形態といえるだろう。

■旅だけじゃない!暮らしに広がる「全部入り」サービス
このオールインクルーシブの概念は旅行の枠を超えて「日常」にまで浸透しはじめている。
オールインクルーシブが先行しているのは、飲食のチェーン店だ。居酒屋での時間内食べ放題や飲み放題などはご存じの通り。しかしここでオールインクルーシブが注目されているのは、従来飲み放題では外されていた高級アルコールが含まれるようになったこと。もう1つが、飲み放題が従来採用されなかった高級店でも行われるようになったことだ。
たとえば東京・虎ノ門の「鮨KOUMEI」では「而今」や「新政」などといったプレミアム日本酒が飲み放題で提供されている。また東京・田町の「田町鮨 惠万」では「作」などの高級日本酒やワイン、焼酎が飲み放題で1万8000円、赤坂にある「鮨 若鱒」では、飲み放題で1万2000円など、鮨店で、とくに増えている。また東京・錦糸町の「炭火 成る」では、江戸前割烹に加えて希少な焼酎とプレミアムウイスキーの「山崎」や「白州」を含むコースを提供している。

一方、驚異の低価格で注目されているのが、大阪のdouble社が展開する「肉汁製作所 餃子のかっちゃん」。一部店舗で閉店まで、なんと999円(税別)で飲み放題が可能となっている。
住居分野でも進んでいる。定額の多拠点移住サービスを展開するアドレス社の「ADDress(アドレス)」や世界中のホステルやゲストハウスが利用できるKabuK Style(カブクスタイル)社の「HafH(ハフ)」、国内ホステルを自由に利用できるLittle Japan社が手掛ける「Hostel Life」などが、月額定額で国内、もしくは海外拠点を利用できる仕組みを提供している。
またコロナ禍をきっかけに家具・家電・Wi-Fi・光熱費がすべて込みの「家具付き賃貸マンション・アパート」の需要も急増しており、不動産会社のイチイコーポレーション、共立メンテナンス社などが展開しているほか、エンプラス社は海外からの赴任、就労者向けに住まいを提供している。こうした家具付賃貸物件は移住や二拠点生活を試したい層にとって「まず試せる」入口として機能しているようだ。
フィットネス領域では、月額定額で複数のジムやヨガスタジオを横断利用できるサービスが若年層に広まっている。世界最大級のネットワークを持つ「ClassPass(クラスパス)」は、月額プランでクレジットを購入すると、提携する約400施設のヨガ、ピラティス、ジム、エステを自由に使える。24時間利用を謳う「Anytime Fitness(エニタイムフィットネス)」は、月額会員となると、31日後から国内外の施設を利用できる。また都内を中心に展開しているRezony(レゾニイ)社のサブスク型フィットネスサービス「mozaiq(モザイク)」では、提携するフィットネススタジオが横断的に利用できる。
自動車分野では、保険・車検・ロードサービスをすべて包むサブスクリプション型カーリースやカーシェアが注目を集めている。前者ではトヨタの「KINTO(キント)」のほか、石油元売り大手のENEOS(エネオス)が手掛ける「ENEOS新車のサブスク」、後者では駐車場管理大手のTIMES(タイムズ)社が手掛ける「タイムズカー」、リース大手のオリックスが手掛ける「オリックスカーシェア」などが知られており、「乗ること以外の手間を丸ごとおまかせしたい」という層の選択肢になっている。
医療・健康分野でもオールインクルーシブ化の波が及んでいる。オンライン診療・健康相談等をセットにした「ヘルスケアサブスク」が実証実験中で、「身体の不調をおぼえたときにすぐ相談できる」という安心感が富裕層を中心に支持を集めている。子育て支援や介護サービスでも「定額複数回利用」型の対応が広がりつつあり、生活の「もしもの時」を一定額内に包含する発想は、領域を問わず浸透してきている。

■向いている人、気をつけたい落とし穴
じわじわと広がるオールインクルーシブモデルだが、もちろんすべての人に最適な選択肢というわけではない。「元を取りたい」という心理から食べすぎ・飲みすぎてしまうリスクや、リゾート内に行動が限られることによる「外の世界」との断絶感、また単品で手配したほうが実は安上がりな場合もある、といった側面も見逃せない。
向いているのは、予算管理を明確にしたい人、初めての海外や不慣れな旅先で「想定外の出費」を避けたい人、そして何より「判断する手間から解放されたい」と感じている人だ。子育て中の家族、多忙なビジネスパーソン、シニア層の夫婦旅行—状況や旅の目的によって、その価値は異なる。
一方で、地元の食堂に飛び込んだり、地図を持たずに街を歩いたりする「偶然の出会い」を旅の醍醐味とする人には、オールインクルーシブの「閉じた完結性」が物足りなく感じられることもあるだろう。企業であれば、なんとなく「まるっとなんでもついてくるサービスや商品が便利でお得」というわけではないだろう。福利厚生でいろいろな施設やサービスが使い放題と思って入ったものの、ハイシーズンの利用には制限があったり、使わないメニューのほうが多かったりする。込み込みだから安い、という話ではなく、目的に応じて選ぶべきものなのだ。
■「全込み」の未来はどこへ向かうか
とは言え、オールインクルーシブの進化は、まだ途上だ。次のフロンティアは「パーソナライズされた全込み」だと言われる。進化するAIが個人の好みや健康状態、過去の旅行履歴を把握し、食事・アクティビティ・移動を最適化した形で提供する「あなただけの全込み」が現実味を帯びてきている。
また、サステナビリティとの融合も始まっている。食事を一括管理することで食品ロスを減らしたり、カーボンオフセットをプランに組み込んだエコリゾートが登場したりと、環境意識と全込みモデルが交差する動きは今後さらに広がるとみられている。
参考
【WEB】● Club Med ● Sandals Resorts ● MSC クルーズ ●リージェント・セブンシーズ・クルーズ ● Atlantis The Palm(アトランティス・ザ・パーム)●サンタニ・ギリ・リゾート ●ハイアット・リージェンシー ●星野リゾート ●銀座ホテル by グランベル●鮨KOUMEI●田町鮨 惠万 ●鮨 若鱒 ● ADDress(アドレス)● HafH(ハフ)公式 ● 星野リゾート ● JR 九州「ななつ星 in 九州」公式サイト ● JR 西日本 ● JR 東日本 ●東急 ● JR 北海道 ● ANA ●イチイコーポレーション ●共立メンテナンス● KINTO ● ENEOS ●Anytime Fitness ● Little Japan ● ClassPass ● Rezony など各公式サイト ● PRTIMES ●観光庁「旅行・観光消費動向調査」(2024 年) ●日本経済新聞 ● VOGUE JAPAN ほか
ビジネスシンカーとは:日常生活の中で、ふと入ってきて耳や頭から離れなくなった言葉や現象、ずっと抱いてきた疑問などについて、50種以上のメディアに関わってきたライターが、多角的視点で解き明かすビジネスコラム