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生成AIを「いちばん優秀な新人」として迎える 使いたいけど踏みとどまっている人のための実践生成AI入門 その1

 生成AI(以下AI)が世にリリースされてはや4年。いまやスマホやパソコンと同じように日常会話にも頻繁に登場するようになったが、AIそのものをビジネスに利用している企業はまだ少ないようだ。
 「AIを使え」と言われても、何から手をつければいいか分からない―そういう人が、まだ多数派であり、そしてその壁となっているのは「最初の一歩の踏み出し方を誰も教えてくれない」ということなのだ。
 そして、はじめの一歩を止めているものが、もう1つある。焦りである。
 そこでこのシリーズでは、AIを使おうとしながら、立ちはだかる壁の前で足踏みをしている人がその壁を突破して、スマホのように使いこなすための、ポイントを紹介していく。今回はその第1回目。まず壁の乗り越え方から。

 「AIを使えないと取り残される」という空気は、いま日本中に広がっている。ところが焦りは、そのまま行動につながるとはかぎらない。むしろ逆が起きているのだ。
 帝国データバンクが2026年3月に全国2万3,349社に聞き、1万312社から回答を得た調査では、AIを業務で活用していると答えた企業は34.5%だった。ただし「非常に活用している」に限れば、4.4%にすぎない。規模別では、大企業46.5%に対して中小企業32.4%、小規模企業28.0%。従業員1,000人超の63.6%と、5人以下の29.6%では倍以上の開きがある。
 活用していない企業が挙げる理由も、調べられている。商工中金が2026年1月に3,892社(有効回答。対象は10,772社)に行った調査では、導入以前の段階でつまずく要因として「具体的な活用場面が不明」「自社業務になじまない」が上位に並んだ。この差は、会社の技術力の差ではない。
 不安が強い人ほど「まずきちんと習わなければ」と考え、有料講座を探し、資格を調べ、書籍を買い―始めないまま数か月が過ぎる。
 地方の企業に勤める若手にはこの傾向が強いという。身近に使いこなす先輩がいないぶん、情報が研修やセミナーの宣伝から入ってくるからだ。YouTubeやSNSではそういった広告が流れてくるし、書店の店頭はAI別、職能別の入門書、専門書がうず高く並ぶようになった。こうした圧を受けて、AIは「専門的に学ぶもの」という印象だけが先に育ってしまったのだろう。
 だが、AIは使うだけなら学校で習う類の技術ではない。費用も資格も要らない。要るのは、無料のアカウントを1つ作ることと、任せたい作業を1つ決めること。それだけである。
 今回はAIとは何をする道具なのか、代表的なサービスはどう違うのか、実際の手順はどうなるのか、踏んではいけない地雷はどこにあるのか―この4つを順に見ていきたいと思う。
 その前に初心者を立ち止まらせている2つの不安を分解してみよう。

■AIに対する不安の分解

不安1 「きちんと習わないと、使えないのではないか」
 まず習う必要はないと言える。
 AIの上達とは、プログラミングの習得ではなく、指示を出す技術の習得である。そして指示の出し方は、4つの要素に集約される。
 すなわち、①役割、②背景、③条件、④出力形式だ。有料講座で初心者が教わる内容の大半も、突き詰めればここにまとまる。あとは自分の仕事に取り入れAIとの往復を重ねるだけである。往復の回数が上達を決める。
 もちろん、入門書や実践書は役に立つ。複数冊買い込んで、休日に読み込むことは、きっとあなたの人生を大きく変えるきっかけになるだろう。
 だがそういった教材を買う前にやるべきことがある。無料のアカウントを作り、今週いちばん面倒だった作業を1つ投げてみることだ。それが最良の教材になる。
 使い方を調べる相手も、実はAI本人でいい。
 もしあなたが会社の経理担当なら、AIの画面に現れた四角い窓にこう入力する。
「私は経理を担当しています。AIで効率化できそうな業務を5つ挙げてください」
 するとどのAIを使うかにもよるが、ほぼ数十秒、長くて1、2分で自分の職種に即した候補が返ってくるはず。何ができるかを理解するなら入門書を1冊読むより、この1 問のほうが早い。

不安2 「入力した情報を、抜き取られるのではないか」
 「社内の資料をAIに入れたら、情報が抜き取られるのでは」。この不安には、正しい部分と誤解が混ざっている。
 入力した文章は、手元のパソコンではなくサービス提供者のサーバーに送信されて処理される。この時点で「社外に出ている」のは事実だ。ここは正しい不安である。

 個人向けプランでは、入力内容がAIの改善―いわゆる学習―の素材に使われる場合がある。各社は、不適切な利用の監視や品質確認のため一部を人が確認することがあるとも説明している。「絶対に誰の目にも触れない」とは言えない。
 一方、誤解されがちなのがこの点だ。入力した文章がそのまま別の利用者への回答に出てくる―これは通常起きない。学習は個別の文章を丸ごと記憶する仕組みではないからだ。ただしゼロとは断言できない。だから結論は変わらない。機密情報は入れない。
 そのうえで、不安は管理できる。やることは3つだけだ。

1)設定を確認する。
 多くのサービスは、設定画面の「データ管理」「プライバシー」といった項目から、入力内容を学習に使わせない設定に変更できる。業務用・法人向けのプランでは、原則として学習に使われない。
2)入れていいものと悪いものを、先に決める。
 顧客名簿、未公開の数字、取引条件、人事情報は入れない。判断に迷ったら「この画面を取引先に見られても困らないか」を基準にする。
3)迷ったら加工してから入れる。
 社名を伏せる、金額を実額でなく前年比で渡す、固有名詞を記号に置き換える。それだけで、入力できる範囲は大きく広がる。
 不安の正体は、たいてい「何が起きているか分からない」ことだ。仕組みと設定が分かれば、あとは線引きの問題にすぎない。

■AIはいったい検索とどう違うのか

 もう1つ、最初につまずきやすいのが検索エンジンとの違いである。「検索エンジンでも組み合わせれば、きちんとした答えが出るのではないか」と。
 AIは膨大な文章を読み込み、言葉のつながり方の傾向を学習している。質問を受けると、「この文脈なら次に来る確率が最も高い言葉はこれだ」という計算を1語ずつ繰り返して文章を作る。だから出てきた文章は驚くほど流暢であり、同じ理由で平然と間違える。
 検索は「すでにどこかにある情報を探してくる」道具、AIは「その場で文章を作る」道具だということ。検索との違いはここにある。
 この違いは、そのまま使い分けとなる。
 検索が向くのは答えが1つに決まる問い―「この法律の施行日は」。
 AIが向くのは答えの決まらない作業―「この内容を取引先向けの丁寧な文面に直す」「この資料から、会議で議論すべき論点を抜き出す」。
 そして作る道具である以上、実在しない情報を創出する。この、「もっともらしい嘘を自信満々に語る現象」を「ハルシネーション(幻覚)」と呼ぶ。
 人間にたとえるなら、AIは「読書量だけは膨大だが、あなたの会社のことは何ひとつ知らず、知らないことも知ったふりで答えてしまう新人」である。
 読解力と作文力は極めて高い。しかし自社の事情は知らず、間違いを認める勇気もない。この新人を戦力にできるかは、上司の仕事と同じ条件―指示の出し方と、成果物の確認にかかっている。
 逆に言えば、ふだん自分が部下やあるいは取引先に出す指示が明確、明瞭であれば、出てくるAIのアウトプットの精度は驚くほど高く、爆速と言えるほど速い。

■嘘をつく機能と、生み出す機能は同じものである

 AIは、読んだ文章をそのまま持っているわけではない。傾向だけを残して、聞かれるたびにその場で作り直している。だから毎回、厳密には新しいものが出てくる。
 キャッチコピーを頼むとき、私たちはこの性質を期待している。既存のコピーをそのまま出されたら盗用である。ところが市場規模を聞くときは逆を望む。どこかにある根拠のある数字を、そのまま出してほしいと。
 AI側では、この2つがまったく同じ「それらしいものを作る」という処理になっている。違うのは正解の広さだけだ。キャッチコピーの正解は無数にあり、昨年の市場規模の正解は1つしかない。前者で歓迎される能力が、後者では捏造になる。
 つまりハルシネーションは、仕組み上生まれるもので、創造性の裏面であるのだ。この一致を頭に入れておくと、どちらの用途で自分が使っているのかを、その都度自分で判断できる。

■AIは、かごの中のりんごを数え間違える

 仕組みが分かると、苦手なことが論理的に導ける。だが毎日AIを使っている人でも知らないことがある。そこでできることよりできないことを先に知ったほうが、事故は減る。AIは何が苦手か。
 その1つは数を数えることだ。まさか!と思った人も多いだろう。これが最も意外で、最も事故が多いのだ。AIは、数を数え間違えることがある。
 具体的には次のような場合だ。かごに入ったりんごの写真を見せて「何個ありますか」と聞くと、7個あるものを「5個です」と迷いなく答えたりする。文字数も同じだ。「250字で」と指定しても320字で返り、「10個挙げて」と言えば8個や12個になる。
 理由は単純で、AIは数えるという処理をしていないからだ。「このくらいの分量だろう」という感覚で言葉を並べているだけで、指を折って確認する工程が存在しない。人間が果物かごを一瞥して「だいたい5、6個かな」と答えるのに近い。しかもAIは、その推測を断定口調で言う。
 だから、数はAIに聞かない。自分で数える。文字数はWordの文字カウントで確認し、「100件のうち何件が肯定的か」は表計算で集計する。AIに任せるのは「どんな論点があるか」であって、「何件あるか」ではない。

 苦手なこと2つ目は、計算することだ。というとまさかと思ってしまうだろう。だがAIは桁の多い四則演算、割合、税込み価格などを間違える。計算式を書くのは得意だが、計算そのものを間違えるのだ。原価計算や見積金額をAIに出させて、そのまま使用してはいけない。入力値・式・結果を必ず確認する。AIを使う場合は、関数や考え方を教わり、計算は表計算ソフトにさせるのが正解だ。
 苦手なこと3つ目は、「『知りません』と言うこと」だ。知らないことを知らないと言えない。これがハルシネーションの正体である。
 とくに危ないのが、ネット上の情報が少ない対象の場合だ。地方の中小企業、業界固有の慣行、社内の制度。こうした対象を尋ねると、AIはもっともらしい嘘を組み立てる。自社について聞けば、実在しない沿革や受賞歴を創作することさえある。「出典は」と聞き返すのは有効だが万能ではない。出典そのものを捏造することがあるのだ。最終的には自分で確認するしかない。
 苦手なことの4つ目は、最新情報と画像の細部である。最先端のイメージがあるAIだが、AIの作業自体には学習データの締め切りが設定されるため、それ以降のことは知らない。検索していない回答は数か月から1年古い可能性もある。法令改正、料金、他社の新商品は必ず一次情報で確認すること。画像の細部も苦手だ。位置関係、罫線をまたいだ数値の対応、手書き文字の判読。レシートや請求書を読み取らせるなら、金額の突き合わせは人が行う。
 苦手なこと5つ目は「尖ること」だ。
 AIが出すのは、学習した文章の平均である。平均は読みやすく、無難で、差別化にならない。キャッチコピーを作らせると、どこかで見たような案ばかり並ぶのはこのためだ。
 AIには型を作らせ、尖りは人間が入れる。後で出てくる壁打ち(自分の案をAIに叩かせる使い方)が効くのは、この苦手を逆に利用しているからだ。
 AIは、常に膨大なデータから確率で言葉を選ぶ。したがって同じ質問に毎回違う答えを返すのだ。
 これらのことをまとめれば、こうなる。
 数えること、計算すること、確定させること―この3つはAIに渡さない。
 読むこと、分類すること、書き出すこと―この3つは確認を前提に渡せる。

■代表的なAIと、それぞれの「性格」

 そして多くの初心者がつまずくのが、モデル名の洪水だ。数字と記号が並び、数か月ごとに更新される。だがバージョン番号を覚える必要はない。覚えるのは、サービスごとの性格だけでいい。
 ここで理解したいのは、これらのAIは優劣ではなく分業で選ぶこと。「どれが最強か」という議論は、いまやほぼ意味を失った。下書きはChatGPT、長文読解はClaude、社内資料はNotebookLM、事実確認はPerplexity―この使い分けが実務の生産性を決める。なお、どれも無料版で日常業務の大半は足りる。
 無料版で作業が止まることが多くなってきたら有料版へスイッチするといい。「メッセージの上限に達しました」「リクエストが多すぎます。しばらく時間を置いてからもう一度お試しください。」といったメッセージが何度も出て、作業に支障を来すな、と感じたときが目安だ。また各サービスは、汎用的なAIエンジンから高度な処理をするエンジンなど複数揃えていて、高度な処理をするエンジンを使うと上限に達するまでの時間は早くなる。使いこなすうちに、この程度の質問やタスクならこのレベルのエンジンでいいな、と判断ができるようにもなるので、まさに人間と同じように「適材適所」で使いこなすといい。
 各AIの性格の違いを知るには体感するのが最も早い。同じ質問を複数のサービスに投げてみる。一致した答えはほぼ世間の常識と考えてよい。割れた部分こそ、そのAIの特性であり、自分で考える価値のある論点だ。

サービス(提供元)性格・得意なこと向いている場面
ChatGPT(OpenAI)
世界で最も利用者が多い汎用型。文章作成、企画立案、要約、画像生成、データ分析まで一通りこなす。迷ったら最初の1本。「とりあえず相談する相手」として最も守備範囲が広い。
Claude(Anthropic)
長い文書の読解・要約と、日本語の書き味に定評がある。文章の推敲や構成の相談に向く。長文資料の読み込み、原稿の推敲、企画書の論理チェック。
Gemini(Google)
Google検索やGmail、スプレッドシートとの連携が強い。画像・音声・動画の扱いも得意。Google Workspaceを使っている職場。画像や動画を扱う業務。
Microsoft Copilot(Microsoft)
Word・Excel・Outlookの中に組み込まれ、普段の画面の中で使える。Microsoft 365を全社導入している職場の日常業務。
NotebookLM(Google)
自分が指定した資料だけを読んで答える。ネット上の情報を勝手に混ぜない。社内マニュアル、議事録、過去資料の整理。誤情報が最も出にくい。
Perplexity(Perplexity AI)
出典リンクを付けて調べ物の結果を返す。裏取りの手間が減る。市場調査、競合調査、法令や統計の確認。
[表1]主なAIサービスと性格

■基本手順─どのAIでも共通する5つのステップ

 では初心者はどのようにAIを使っていけばいいのか、その基本手順を示そう。

STEP1
アカウントをつくり、学習設定を確認する

 必要なのはメールアドレスだけだ。所要3分ほど。登録したら、前述した設定確認を済ませる。ここを飛ばして仕
事の情報を入れないこと。スマートフォンのアプリ版もあり、通勤中に触れるのが実は最も定着が早い。

STEP2
「AIで何かやろう」ではなく「この作業を任せよう」と決める

 初心者が最も失敗するのが、目的を決めずに触り始めることだ。1週間の仕事を振り返り、「毎回30分かかっている、あの作業」を1つ特定する。対象を1つに絞ることが、定着のコツだ。

STEP3
指示(プロンプト)を書く

 プロンプトという言葉はAIとセットで語られる。これが大きな壁となってもいるようだが、なんのことはない指示文のことだ。特別な呪文ではない。あなたが会社に入ってそれなりの日にちが過ぎているなら、プロンプトは新人に仕事を頼むときの言葉と同じである。ただし次の4つの要素をプロンプトに入れると精度が跳ね上がる。
 ①役割―「あなたは取引先向けの文書を書く広報担当です」。立場を与えると、その職種の語彙で書く。
 ②背景・目的―「納期遅延を伝え、関係を悪化させずに次の提案につなげたい」。誰に何のためかを伝える。
 ③条件―文字数、文体、読者、禁止事項。「400字以内、です・ます調、言い訳がましくしない」。
 ④出力形式―「3案を箇条書きで」「表にまとめて」。形を指定しないと、長々とした文章で返ってくる。

惜しい指示効く指示
「お詫びのメールを書いて」「取引先に納期が5日遅れることを伝えるメールを書いてください。相手は5年来の付き合いのある納入先の課長です。400字以内、です・ます調。言い訳がましくならないよう、原因の説明は1文に留め、代替案を2つ提示してください」
「アンケートをまとめて」「以下は社内研修後のアンケート50件です。評価が高かった点と低かった点に分け、それぞれ論点を5つ抽出し、各論点の代表的な声を1つずつ添えて、表にまとめてください」
[表2]同じ依頼でも、指示の書き方で結果は変わる

STEP3.5(STEP3の補足)
きれいな指示を書こうとしない

 4つの要素を並べると、身構える人がいる。毎回これを全部書かなければいけないのか、と。
 書かなくていい。「5,000円で日帰り旅行がしたい」と投げてかまわない。それでも答えは返ってくる。足りない条件は、AIが聞いてくるか、仮に置いて示してくる。
 指示の詳しさは、段階で考えるといい。

段階指示に足すこと各レベルで足りる仕事
0
やりたいことだけ
「5,000円で日帰り旅行がしたい」思いつきを広げる。雑談、アイデア出し
1
前提を足す
+どこから出発するか、何が好きか自分用の調べもの、下見
2
条件を区切る
+5,000円に交通費を含むか、誰と行くか、何時に帰るか人に見せる案、簡単な提案
3
出力の形を決める
+3案を表で、比較する軸を指定、避けたいこと社内で共有する資料
4
検証できる形にする
+費用の内訳、数字の根拠、雨天時の代替案数字や法令が絡む、責任のともなう成果物
[表3]指示の5段階

 最初から段階4に立つ必要はない。上の行から、あるいは途中から順に投げて、返ってきたものを見て、違うと思ったところだけ足していけばいい。
 大事なことは、その先。AIから返ってきた質問を読めば、自分が何を決めていなかったかが分かるのだ。出発地、交通費を含むかどうか、誰と行くか。旅行なら影響範囲は本人と家族、友人でとどまるが、これが売上分析や契約書なら、そのまま判断の抜けとなり、その影響は甚大だ。
 またこうした指示の繰り返しは、その仕事の重さを測るきっかけにもなる。返ってきた質問は、自分が決めていなかった条件を見つける手がかりになる。
 注意すべきは、AIは黙って前提を置く癖があることだ。ラフに投げたあと、「この依頼を正確にこなすために、私に確認すべきことを挙げてください」と1問足し、AIを質問させる側に回すのだ。返ってきた質問の一覧が、そのままその仕事のチェック項目になる。
 ただし、AIが投げてくる質問は平均的なものにとどまる。自社固有の事情は聞いてこない。締め日の扱いも、あの取引先の慣行もAIは知らないので質問にすら現れない。返ってきたリストはたたき台であり、そこに自社特有の項目を足していく。その差分が、その会社のノウハウそのものなのだ。
 これら4つの要素は、一発で書くための型ではない。往復しているうちに、自分が何を準備しておくべきかが見えてくる。その結果として身につく引き出しだと考えよう。

STEP4
1回で完成させようとしない

 ここが最大のコツとなる。初心者は1回目の回答を見て「思ったのと違う」とそこで諦めてしまう。しかし本領はそれからだ。「もっと短く」「2案目の書き出しだけ3パターン」「専門用語を減らして」。この往復こそがAIの使い方であり、回数が成果物の質にそのまま比例する。
 AIは検索窓ではなく、会議室のテーブルに座った相手だと考えるといい。ラリーが増えれば理解や課題が明確化するのと同じである。

STEP5
うまくいった指示文(プロンプト)を貯める

 ここを実行する人としない人で、半年後に差がつくことになる。うまくいった指示文は保存し、共有フォルダに貯める。次に使う人は条件を差し替えるだけで同じ品質に届く。習熟度の差は才能ではなく、蓄積量の差である。

■できることの見取り図─3つのレベル

 さて、冒頭で紹介した壁の1つである「何に使えるのか分からない」だが、これは全体の見取り図を見れば崩れる。
 AIの用途は3つのレベルに整理できる。重要なのは、レベルが上がるほど価値が大きくなる一方、順番は飛ばせないという点だ。

レベル何ができるか効果の現れ方
レベル1
毎日の作業
(初日から)
メールや文書の下書き、長い資料の要約、議事録の整理、翻訳、予定表を渡しての事前準備、Excelの関数相談人にもよるが、1日あたり数十分から数時間の短縮。効果が即日出るので、習慣化の入口として最適。
レベル2
考える作業
(1か月目から)
顧客の声の分析、競合比較の枠組みづくり、企画書の雛形、販促案の量産、商品開発の切り口出し判断材料がそろう速度が上がる。週単位・月単位の意思決定の質に効く。
レベル3
人と組織
(3か月目から)
ベテランの暗黙知のマニュアル化、標準作業手順の整備、研修教材の作成、自己学習、経営判断の壁打ち人が育つ速度と、属人化の解消。効果は遅れて出るが、最も大きい。
[表4]AI 活用── 3 段階の見取り図

 初心者向けにレベル3を見せるのは、ゴールが見えないとレベル1を続けられないからだ。「メールの下書きが少し速くなった」だけでは、人はやめる。その先にベテランの技術を継承する使い方があると知っていれば、意味が変わる。
 同時に、順番を飛ばした人は用途を広げにくい。レベル1を経ずに応用へ行こうとすると、何を任せられるのかも、指示の出し方も分からない。結果、「使ってみたが大したことはなかった」に落ち着く。この落ち方をする人が、いま非常に多い。
 次にレベルごとの具体的実践を挙げていこう。

■レベル1の実践─毎日の作業

 効果が確実で、今日から始められるものを挙げてみる。どれも1分の指示で済むものばかりだ。

▶メール:定型化しているメールは「型」を一度作らせる。日程調整、資料送付、催促、断り――それぞれ1度作って保存しておけば、以後は要点を箇条書きで渡すだけで完成する。
▶予定:明日の予定表を貼り付け、準備リストを出させる。「以下は明日の私の予定です。各予定について、事前に確認すべきことと持参物を3つずつ挙げて」。抜け漏れの発見率が目に見えて上がる。
▶資料からの抜き出し:長い資料は、要約させるより「探させる」。「この資料のうち、来期の予算に影響する記述だけを抜き出して」。全体要約より、目的で絞ったほうが実用的だ。
▶議事録:議事録は「決定事項・保留事項・宿題(誰がいつまでに)」の3項目に整理させる。1時間の会議がA4で1枚になる。
▶英文メール:AIの英訳機能はもはやまったく違和感ないほど進んでいる。ただ英文メールは、直訳させずに関係性を伝えたほうがいい。「相手は初めて連絡する海外仕入先の担当者。丁寧だが堅すぎない英文で」。そのまま訳させるより自然な文面になる。
▶エクセル関数:Excelの関数は、エラーメッセージごと貼り付けて聞く。ただし計算そのものはさせない。
▶自分の文章:自分の文体を覚えさせる。過去に書いた文章を3本渡し、「この書き手の文体を分析して」と指示し、以後はその分析結果を読み込ませ、「この文体で書いて」と指示すると、手直しが激減する。

■レベル2の実践─考える作業

 1か月ほど毎日触った人が次に進む領域。指示の往復に慣れていることが前提になる。

▶顧客分析:顧客の声を分析する。アンケートやレビューを匿名化して渡し、「肯定的な声と否定的な声に分け、それぞれ論点を抽出し、代表的な声を添えて」と指示する。数百件が数分で整理される。ただし件数は信用しない。
▶課題抽出:「まだ商品になっていない要望」を抜き出させる。「不満ではなく、こういうものが欲しいという趣旨の記述だけを抜き出し、内容ごとに分類して」。商品開発の起点になる。
▶競合比較:企画書も競合比較も、中身より先に「枠」を作らせる。「この企画を通すために必要な項目を、決裁者の関心順に並べて」「競合を比較するとき、見るべき軸を8つ挙げて」。埋めるのは自分の調査である。
▶洞察:フレームワークの当てはめは速いが、洞察(インサイト)は出ない。3CでもSWOTでも枠は瞬時に埋まるが、中身は平均的な内容にすぎない。埋めさせたあと「この分析で見落とされている点は」と続けて聞くこと。
(レベル3は、次回以降で)

 レベル3は、ベテランの暗黙知のマニュアル化、標準作業手順の整備、研修教材の作成、自己学習など、最も価値の大きい領域となるが、扱う内容が多いので、改めて紹介しようと思う。
 1点だけ先に書いておくと、この領域では、AIが知識を作るのではないということ。人が持っている知識をAIが引き出して、形にすることだ。口で説明するのは得意でも文章にするのは苦手、という人は多い。その間を埋めるのが、この道具の本領である。

■やってはいけない3つのこと

 AIが不得意なことがあるように、仕事で使う際はやってはいけないこともある。次の通りだ。

禁止1 機密情報個人情報を入力しない
 個人情報保護委員会は、本人の同意なく個人データを含む指示文を入力する場合、そのデータが機械学習などに利用されないことを十分に確認するよう求めている。
禁止2 出力をそのまま使わない
 特に危ないのが、数字、固有名詞、法令、そしてURLである。AIは存在しないURLを平然と作り、実在しない書籍や判例を引用することもある。米国では、AIが作った架空の判例を裁判所に提出した弁護士が制裁を受けた例がある。事実として世に出す情報は、必ず一次情報で裏を取る。AIの出力は「よくできた下書き」であり、「確認済みの成果物」ではない。
禁止3 広告表現の法令のチェックを人が手放さない
 業界には固有の表現規制がある。化粧品や健康食品なら薬機法と景品表示法、金融なら金融商品取引法、不動産なら宅建業法。
 AIは「効果があります」「改善します」といった表現を、ためらいなく書く。使えない表現が流暢な日本語で大量に生成されてしまう。対策は、指示の段階で禁止表現を明示し、最終確認は必ず人間が行うこと。AIは、あなたの業界の運用実態を知らない。
 著作権はどうか。学習の段階は著作権法30条の4により広く適法とされるが、生成物を使う段階は、通常どおり依拠性と類似性で判断される。既存のキャッチコピーに酷似した文章を販促物に使えば侵害になり得る。特定の作家を名指しして「◯◯風」に書かせるのは避けたほうがいい。

■AIに任せる仕事、人間がやる仕事

 AIに任せていいのは、下書き、分類と要約、整形、壁打ち。「時間はかかるが、正解の幅が広い」仕事である。人間がやらなければならないのは、何を語るかの選択、誰に届けるかの判断、それは本当かという検証。「間違えると取り返しがつかない」仕事だ。
 そしてもう1つ、AIの中に絶対に存在しないものがある。まだ記録されていない現場の情報だ。お客様が漏らした一言、現場の職人が言葉にしない勘。これらはインターネット上にないから、AIは学習しようがない。AIが優秀になるほど、誰でも手に入る情報の価値は下がり、現場でしか得られない情報の価値は上がっていく。
 AIの進化は速く、その進化のスピードが人類社会を壊してしまう論さえある。議論の行方はわからないが、少なくともAIは早くはじめたほうが、優位となる。もっと言えば、ここで書いている内容すら、半年後は陳腐化する。だから躊躇しているくらいなら、アカウントをつくることだ。
 改めて言っておこう。はじめの一歩を止めているのは、たいてい「きちんと習わなければ」という思い込みと、情報への不安だった。前者は不要であり、後者は設定と線引きで管理できる。

 今日、無料のアカウントを1つ作って、学習設定を確認する。明日の朝、いつも15分かけて書いているメールを1本、下書きさせてみる。始まりは、それで十分。
 その1本の延長線上に、顧客の声を読み解く仕事があり、ベテランの技術を次の世代へ引き継ぐ仕事がある。講座に申し込む必要はない。今日の15分が、そのまま教材になる。

POINT
■AIを使うには費用も資格も要らない。必要なのは無料アカウント1つと、任せる作業を1つ決めることだけ
■情報への不安は管理できる。学習に使わせない設定に変更し、入れていいものと悪いものを先に決め、迷ったら社名や実額を伏せて渡す
■AIは数を数え間違える。画像のりんごの個数も、指定した文字数も、件数も外すことがある。数えるのは人か表計算の仕事
■プロンプト(指示文)は、①役割②背景・目的③条件④出力形式を与えると、アウトプットの精度が格段に上がる
■うまくいった指示文を保存し、アップデートを繰り返す
■用途は3段階。レベル1は毎日の作業(初日から)、レベル2は考える作業(1か月目から)、レベル3は人と組織(3か月目から)
■きれいな指示を一発で書こうとしない。足りない条件はAIが聞いてくるか、仮に置いて示してくる
■返ってきた質問の数が、その仕事の重さを測るきっかけになる。返ってきた質問は、自分が見つけていなかった条件の手がかりになる

参考
【書籍】●『仕事時間は1/100に成果は200%になるClaude仕事術』佐藤傑 [SBクリエイティブ]●『部下としてのAI』牛尾剛 [文藝春秋]●『AI経営講座』東京大学松尾・岩澤研究室PwC Japan グループ[集英社インターナショナル]●『生成AIタスク爆速大全』宮崎学[かんき出版]●『「最高の発想」を一瞬で生み出す56の技法 AIを使って考える全技術』石井力重/著・加藤昌治/監修[ダイヤモンド社]●『小説を書く人のAI活用術』山川健一今井昭彦・葦沢かもめ[インプレス]
【WEB】●帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」(2026年5月公表)●商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年3月公表)」●文化庁「AIと著作権について」(まとめページ)ほか

ビジネスシンカーとは:日常生活の中で、ふと入ってきて耳や頭から離れなくなった言葉や現象、ずっと抱いてきた疑問などについて、50種以上のメディアに関わってきたライターが、多角的視点で解き明かすビジネスコラム

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