COLUMN ビジネスシンカー

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2018.06

1000年を見据える「千年持続学」から学ぶ 21世紀型資本主義・経営

サステイナブルと民主主義の原点「イロコイ族」

 こうした考えに対して出されてきた思想が、持続可能な=サステイナブルな経営である。

 サステイナブルという言葉自体は目新しい言葉ではない。この言葉が世界的に認知されたのは1992年、ブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットにおいてである。四半世紀以上も前のことだ。ここでは悪化する地球環境に対して世界各国首脳がはじめて手を結び、その打開策を探ったのであった。その結果さまざまな宣言が出されたが、その根本にある考え方は、現在生きている世代が、将来の世代の利益を損なわない範囲で環境を利用していこうというものだった。

 将来の世代とはいったいどのくらい先をいうのだろうか。1世代およそ30年か。あるいは3世代100年だろうか。

 ひとつのモデルがある。

 北アメリカの先住民であるイロコイ族。イロコイ族とは一つの部族ではなく、オノガンダ族、カユーガ族、モホーク族、セネカ族、オネイダ族の総称である。彼らが重要な事項を決定する際は、全員が納得するまで話し合う。そこで彼らが何より優先して考えなければならないことは、現世代のことではなく、7世代先の子孫のことであるという。これから生まれ来る世代が、自分たちより悪い環境で暮らすことがないよう、心を配り、決定を下す。

 イロコイ族のこうしたやり方は民主主義の一つの原点とされ、アメリカ建国のきっかけを与えたとされる。そしてこのやり方は1000年以上にわたって、いまなお続けられている。

アメリカインディアン・イロコイ族について書かれた「アシハヤ」

 悠久の歴史を紐とくと、世界には数多くの先人たちが、はるか後に生まれてくる子孫を慮ったシステムや構造物を生み出し、いまなお機能しているケースが多い。
 たとえば中国の四川省にある都江堰(とこうぜき)は、2300年もの長きにわたって、四川盆地に灌漑用水を供給し続けている。日本では山梨県富士川にある武田信玄が建てた信玄堤は、400年以上も山梨県の甲府盆地に住む人々を水害から守っている。

イロコイ族の思想を経営に取り入れたパタゴニア

 こうした手続きや思想を現代に持ち込むことは難しいかもしれない。だが積極的に取り入れている企業が存在することも確かだ。アメリカに本社を置く、スポーツアウトドアメーカーの「パタゴニア」はその代表だ。

 1965年に創業し、急成長を遂げたパタゴニアは、80年代経営危機を迎える。創業者のイヴォン・シュイナード氏はこの時、イロコイ族のこの思想に出会い、これを経営理念に採用したのである。

 パタゴニアでは社員が行きたいと思えば、いつだってサーフィンに行ける環境を持っている。これは社員一人ひとりが自立し、責任感を持っているからである。同時にいつでも最高の波が来た時に動ける融通性を持っていることと、他の仲間と協調性を持っていることが前提となる。イロコイ族が徹底した話し合いで全員が納得しない限り進めないというルールを共有しているのは、互いに個として尊重しあう文化を持っているからである。

イロコイ族の考えを経営理念に導入したパタゴニアの経営物語「社員をサーフィンに行かせよう」

 日本でもこうした考えを持つ企業はある。47期連続増収増益を続けた「年輪経営」を掲げる長野の伊那食品工業や、室町時代から続く和菓子の虎屋といった老舗企業にも、世代を超えたサステイナブルな経営指針が反映されており、自律した社員の姿が見て取れる。

 ただ、だからと言って、どの企業もこうしたサステイナブルな経営哲学やそれに基づいた実践を行えるとは限らない。

 多くの老舗企業はこれまで、数多くの経営危機を乗り越えながら、こうした経営哲学を体得してきた経緯があり、また7世代先の経営を掲げたパタゴニアも、そのタイムスパンからすればまだ駆け出しのベンチャーに近い。

 それゆえ現在の組織人に求められているのは、持続的な社会を明確な意思と意図をもって創り出す思考法である。
 その1つが「千年持続学」である。

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