COLUMN ビジネスシンカー

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2018.06

1000年を見据える「千年持続学」から学ぶ 21世紀型資本主義・経営

飲料水より、生活用水より、仮想水が問題だ!

 千年持続学でもうひとつ注視しているのは水である。水は人間の生命に密接に関わる最重要資源である。飲み水だけでなく、生活用水、農業用水、工業用水として幅広く利用されている。

 ゆえに、人口増加や水質悪化などにより、水資源が不足すれば、食料やエネルギーの生産消費に大きな影響を与える。

 千年持続学の試算によれば、現在の南北格差をそのままとして、ダムなどの社会基盤整備で水資源を開発していけば、現在のライフスタイルを崩さずに85億の人口を養うことも可能だとしている。

 しかし、現状11億人が日々安全性に欠ける水を口にしており、飢餓や非衛生状態に置かれた人の生活レベルは改善されないままとなる。加えて、新興国の経済発展に伴いその獲得競争が激化している。

 一人の人間にいったいどれくらいの水が必要とされるかをはじき出すことは難しい。人間が必要とする飲み水は1日2リットル程度であり、従って年間で1m3あれば十分となる。だが、日本人の生活用水となるとその100倍となる。風呂、炊事、洗濯、トイレなどが主な用途だが、ほとんどが洗浄に使われている。

 水資源の問題で近年クローズアップされているのが、仮想水である。仮想水とは食品や農産物の形となるまで使われた水のことである。精米後の水1kgをつくるのに約8トンの水が要るとされる。また小麦粉1kgを得るのに4トンの水が使われる。こうした農産物の成長に使われる水を指す。穀物はさらに畜産の飼料となる。一般にこうした飼料は鶏では体重の4倍、豚が7倍、牛が11倍かかるとされる。 つまりこうした肉が輸入されているということは、形を変えて大量の水が輸入されていることになる。日本の場合、こうした間接的な水資源の消費量は、年間400 ~ 500億m3とされ、直接的な農業用水の使用量600億m3と合わせ、一人あたり年間1000m3を消費している計算となる。本来十分とされる飲料水量の1000倍の水が知らない間に消費されている。人類がこれから1000年先まで、十分な生活を確保していくためには、質の良い水資源を確保していくと同時に、こうした隠れた仮想水の使用をいかに減ら してくかという視点も必要となる。

 水は代表的な循環資源である。
何度でも再生が可能だ。しかし利用できる場所は偏在しており、その差は貧富格差の広がりを助長している。

 1960年代に遺伝子技術、育種技術の高まりでアジアを中心に緑の革命が起こり、単位当たりの穀物の収量は上がった。だがこのための灌漑や肥料、農薬の投入で土壌は劣化し、水資源が枯渇し、さらに森林資源も枯渇するなど、持続可能な未来からははからずも遠のいていった。

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