COLUMN ビジネスシンカー

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2018.10

[明治維新150年にあたって考える]
大変革時代、明治の先人たちはどう生きたか
混乱の世で事業を成功させた企業家たち

歯磨きのテーマソングで衛生大衆運動を喚起した小林富次郎

 明治は大衆文化とマスメディアが一気に広がる時代でもあった。成功した企業人のなかにはこのメディアの扱いに長けた人もたくさんいた。阪急の小林一三はその代表だろう。もともと作家志望だったこともあり、人を引きつけるキャッチコピーの打ち出し方は時代の先端を行っていた。

 ほかに宣伝、広告の威力を知っていた人物に歯磨き製品や石鹸などで知られるライオンの創業者小林富次郎(こばやしとみじろう)がいる。

 ライオンは初代小林富次郎が1891年に独立して、石鹸とマッチの取次販売業を興したことに始まる。

 当時衛生関連商品では歯磨き粉が勃興しつつあった頃で、資生堂など複数のメーカーが商品を出していました。小林は他社の人気歯磨き粉が自社の石鹸の倍以上を売り上げていることを知ると、歯磨き粉の成長性の高さに注目、自社製造に踏み切った。

 後発で参入したライオンは、市場を取っていくために宣伝に力を入れる。「宣伝は商品の肥料」という信念のもと、「ライオン歯磨き」と書かれた幟を多数掲げ、当時流行していた軍歌の歌詞を変えた「ライオン歯磨き宣伝歌」を演奏しながら街なかを練り歩いた。馴染みの曲に載せた斬新な歌詞は、たちまち人々に浸透し、ついにトップシェアを取っていく。この初代富次郎の成功は、二代目社長である二代富次郎にも受け継がれ、ライオンは売り上げを超えるほどの宣伝費を投入することも少なくなかった。

 初代と二代富次郎らは、商品を普及させるために「衛生」という観念を社会に打ち出し、雑誌や音楽(衛生唱歌というジャンルも築いた)などを通じて、それを大衆運動にまで高め、市場を広げ、付加価値をつけていった。

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