COLUMN ビジネスシンカー

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2018.10

[明治維新150年にあたって考える]
大変革時代、明治の先人たちはどう生きたか
混乱の世で事業を成功させた企業家たち

電柱を広告メディアに使ってロングセラーを生み出した森下博

 小林と同じように広告の力を最大に活かした人物が、森下仁丹の創業者、森下博だ。

 森下仁丹は、その名の通りメイン商品が仁丹である。仁丹は1905年発売のロングセラー商品。この仁丹のパッケージは口ひげをたたえた大礼服の人物像で知られている。

 これは軍服のように見えるが、往時の外交官をイメージして描かれたイラストである。なぜ外交官かというと、仁丹を国内だけでなく海外にも広めたいという森下の強い思いがあったからだ。一方でこの大礼服は立身出世のシンボルとして当時の庶民の憧れでもあった。つまり仁丹を服用し続けるとこんな世界が近づくというイメージを植え付けていたのだった。

 森下は1869年に現在の広島県福山市で、神社の宮司からたばこ製造業に転じた家に生まれた。しかし家業が上手く行かず、森下は9歳で同業者の丁稚に出されている。その後、父親が亡くなり一旦実家に戻るが、15歳で大阪に出て再び丁稚として洋品店に奉職することになる。

 同時代の起業家と同じように、ダイナミックに変化する時代の空気と、海外から入ってくる見たこともない商品に刺激を受け続け、1893年に独立を果たした。掲げた看板は「森下南陽堂」。薬種商だった。

 なぜ薬種かと言えば、当時はまだまだ医療機関が不十分で風や食あたりなどでも症状を悪化させる例が多かったからだった。森下は商品の自社開発を図り、美容剤や梅毒薬など社会ニーズに沿った商品を売り出すも、なかなかヒットしなかった。売り上げが上がらず、苦慮していたところに今度は台湾への出兵要請が来た。

 この出兵が森下の転機となる。森下は台湾の人たちが何かにつけ服用する小さな丸い民間薬に注目、新商品のヒントを得たのだ。

 帰国後、さっそく新商品開発に乗り出す。学者に意見を求め、自ら中国大陸に渡って薬草を探すなどして、10年の月日をかけて開発したのが仁丹だった。

 森下は事業を起こすに当たって、「広告による薫化益世(くんかえきせい)を使命とする」を基本方針として掲げていた。ライオンの小林のように「広告は商品の柱で肥やし」であるだけでなく、広く社会に役に立つものでなければならないというのが、森下の考え方だった。

 仁丹の発売当初のキャッチフレーズは「完全なる懐中薬、最良なる毒消し」。ここでいう毒とは、コレラや梅毒を指していた。また別に「最良なる口中香剤」というフレーズも用意していた。

 この韻を含んだ巧みなフレーズを新聞や幟などを使って宣伝すると、果たして仁丹はたちまち大人気商品となったのだった。

 森下はさらに従来、誰もが目をつけなかったものをメディアとして活用した。

 街なかの電柱だ。電柱には町名の地番が付けられているが、森下はその町名地番のプレートに仁丹の広告をつけて貼り出したのだ。当時は全国で郵便事業が始まった頃。郵便配達員は必ず電柱の地番で確認していたし、また鉄道網の発達で人々の移動も増えていたので、その効果は絶大だった。

 さらに森下は古今東西の金言、格言を厳選し、電柱広告をはじめ、プロモーション用の紙コップ、新聞広告などに載せるユニークな広告も展開した。森下のこの広告は「金言広告(きんげんこうこく)」として認知され、全国の学校から感謝状などが贈られた。

 ライオンの小林も、仁丹の森下も、単に商品の認知度アップだけでなく、商品のプロモーションを通じた文化の醸成を図っていたところに、明治という時代の企業人が抱いた使命感を感じずにはいられない。

 ここにご紹介した企業人は明治という怒涛の時代に大きな足跡を残した人たちの、ほんの一握りだ。記したエピソードもごく一部だ。

 しかし怒涛のように波打つ時代に翻弄されながらも、たぎるような情熱で自分の信念を貫き、時に敏感に風を読み、ひらりと行動する姿には100年以上経ても学ぶところが多い気がする。

 ルールらしいルールがない時代だからこそ、果敢に挑戦できたとも言えるが、ルールや枠に囚われず、果敢に挑戦すること、まっすぐ向かっていくことが、事業成功の大きな原動力となっているような気がする。

 また機会があれば、この時代の企業人を紹介したい。


POINT

■ 混沌の時代は、遠くを見ながら目の前の変化に対応する

■ 時には時代に抗わず時代に流される

■ 商品を売るだけではなく、商品と文化を売る

■ 徳、公平な商売を心がける

■ 利益は会社、社会、社員に不公平なく分配する

■ 欧米では商人は卑下されない

■ 身分や枠に囚われずにやれることをやってみる

■ 財をなす人の多くは社会貢献や社会事業に対して強い関心を持っている

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