COLUMN ビジネスシンカー

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2018.10

[明治維新150年にあたって考える]
大変革時代、明治の先人たちはどう生きたか
混乱の世で事業を成功させた企業家たち

【newcomer&考察】
サステイナブル社会への布石
捨てられる野菜を救え!広がるオルタナティブ野菜マーケット

 べ物の廃棄問題については、先の「統計データの見方のキホン」でも触れた。

 日本の流通に乗っている日本人1人あたりのカロリーと、実際に消費されているカロリーのギャップが700キロカロリーもあるということだった。その理由の1つが、日本人のダイエット志向と野菜消費へのシフトだった。

 付加価値の高い高級野菜が増えることは、農家の収入も上がり、若い世代の農業への関心、就業にもつながり、好循環が生まれるきっかけとなる。好ましいことでもある。

 一方で、野菜に対する目も厳しくなり、味や栄養分はもとより、見栄えに対する厳しさも増してくる。結果規格外の野菜が生まれやすくなる。 

 農家を悩ませる1つの種がこの「規格」問題だ。

 野菜は、天候や土地の特性によってサイズや形が変わっていく。農協を主な販路にする場合消費者に受け入れられて、それなりの収益を上げていくためには農薬を使って「決められた通り」に栽培し、決められたサイズと形に収まるようにしなければならない。この決められた規格から外れた野菜は、農家自身や地元の知人などで分かち合って使うなど、いわゆる自家消費で対応せざるを得ない。

 さらに台風や災害などで傷ついたりした野菜は、自家消費のレベルを超えて大量廃棄されることになる。

 台風や豪雨、雹などで手塩にかけて育ててきた野菜が収穫の目前で大量廃棄となったときの報道に際するたびに、農家の方々の気持ちを思い、胸を傷ませる人は少なくないだろう。

 こうした様々な禍難を受けて、廃棄される野菜を活用するオルタナティブな動きが各地で生まれつつある。

 2009年に開始した東京・原宿の表参道にオープンした「ファーマーズマーケット」。ここでは農家が自分で作った野菜に自分で値段をつけて販売している。道の駅などでも見かける仕組みだが、違いはファーマーズマーケットで売れ残った野菜を買い取り、周辺レストランに提供している組織が野菜の廃棄を防いでいることだ。それが「Re-think Food Delivery」というプロジェクト団体。スーパーで売られているものよりも新鮮で、なおかつ信念を持って作られたこだわりの野菜を食べる機会を提供している。参加レストランは渋谷区内に限られており事務局に事前にお金を預けることになっている。が、その日どんな野菜が届くのかわからないという。それでもこの仕組が続けられているのは、単純にここの野菜が美味しいからだ。野菜はその本来の価値である鮮度、美味しさ、栄養分とは離れたところで評価されがちだが、ここではいわば一番欲しがる人たちが、もっともリーズナブルな価格で入手できる、いわゆるWin-Winの関係が成立している。

Re-think Food Delivery紹介するプロジェクトメディア
『サンクフードニュース』

 長崎県のアイルという会社は、規格外の野菜と寒天使った野菜海苔「VEGHEET(ベジート)」を昨年開発した。原料は、野菜と寒天のみで、ペースト状に圧縮して余分な水分を取り除き、シート状に乾燥させた。VEGHEETを使った春巻や海苔巻きなど、新しい料理のバリエーションが展開できるほか、水で戻すと野菜の食感と味を楽しめる。開発に20年を費やしている。賞味期限は常温で2年と長く、災害時の備蓄食材としてのニーズもある。いまのところ人参を使った「ニンジンシート」と大根を使った「ダイコンシート」の2種類だが、今年6月から「イトーヨーカドー」で本格販売がスタート。さらに国内のみならず、フランスやイタリアなどの海外の星付きレストランでも使われ出している。

 廃棄野菜をTシャツにするビジネスも立ち上がっている。「FOOD TEXTILE(フードテキスタイル)」を展開する名古屋の繊維商社「豊島」が、昨年クラウドファンドで創り出したのが野菜の染料で染め上げた着る野菜Tシャツ「vegeco(ベジコ)」。かねてより女性農業者との協業を模索していた豊島が、農水省が推進する「農業女子プロジェクト」に参画したことがきっかけで出来上がった。豊島が国内外で特許を持つ特別な技術で野菜を繊維の色素に変換、天然染料80%を使いながら堅牢性をクリアした。

 ほかに廃棄野菜を使ったバッグや、赤ちゃんのよだれかけ、ソックス、コーヒー豆を使ったTシャツやエプロンなども展開している。

自然な色合いの野菜Tシャツ(豊島社 公式サイトより)

野菜染めのバッグ(豊島社 公式サイトより)

やさしい色合いのよだれかけなどの赤ちゃん向け商品
( 豊島社 公式サイトより)

野菜を使って生まれた「おやさいクレヨン」。10色のほか16色がある。
(mizuiro社 公式サイトより)

 捨てられる予定の野菜や果物をクレヨンに変えてしまった会社もある。「おやさいクレヨン」がそれだ。世界に類を見ない「クレヨン」を開発したのは、青森県のベンチャー「mizuiro(みずいろ)」。地元産の野菜をパウダー加工し、主成分のワックスには米油であるライスワックスを使用。すべて、"食品"が原料であるため、子供が舐めても害はない。特徴的なのはクレヨンのラベルには色の名前ではなく「きゃべつ」や「りんご」といった素材の名前が付けられていることだ。使うとほのかに野菜や果物の香りまで漂う。2014年の発売以来、3年間で約10万セットを売り上げるヒット商品となっている。全国のデパートのほか、ネット販売も行っている。

 「みずいろ」は、"親子の時間をデザインしたい"と思った、ある1人の子育て中の女性デザイナーが立ち上げた会社。その思いはさらに広がり、廃棄野菜を使った工作用粘土「おやさいねんど」や花を原料とした「おはなのクレヨン」、米を使用した「おこめのクレヨン」など、子どもたちが安全に安心して使える商品を続々と開発している。

 さまざまな理由から捨てられていく野菜。そこから生まれたオルタナティブ野菜商品。その原点は、つくり手である農家の人々の思いに寄り添っていったことにあったに違いない。

 廃棄される食品に対して、まだまだできることはありそうだ。

同じく野菜を使って生まれた「おやさいねんど」。(mizuiro社 公式サイトより)

お米を使って生まれた「おこめのクレヨン」。(mizuiro社 公式サイトより)

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