COLUMN ビジネスシンカー

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2018.11

AI 時代を生き残るためにへ なぜ世界のビジネスエリートはアートセンスを鍛えるのか

目隠しをして美術作品を「聞く」、対話型鑑賞法

 一方、京都造形芸術大学では、ニューヨークの近代美術館(MoMA)が開発した「対話型鑑賞」という鑑賞法を授業に導入している。対話型鑑賞法とは他者の意見を参考に観察力を高める方法で、大学のみならず、企業研修などでも取り入れられている。同大学では、この研修を一般企業に向けても展開していて、人材派遣大手のパーソルなど多くの企業がこの研修を受けている。

 あるゴムメーカーでは、この研修を受けた理由を、経験値の高い人の考えを変えるきっかけにしたかったと説明する。製造業の現場では、経験があるほど自分の答えを持っている人が多く、部下の意見を聞かない傾向が見られるためだ。

 パーソルの対話型鑑賞研修では、ある作品に対して2人一組になり、1人がアイマスクをして、もう1人がその作品を口頭で説明するという「ブラインドトーク」というものを実施した。これを交互にさせることで、同じ作品でも見え方、見方が違ってくることを実感させるのだ。

 パーソルではほかにも、レゴを使った深層心理を探る研修や、地方の中山間部の村に宿泊して、地元の人とチームとなり、フィールドワークなどを体験して地域で生きることや、地域で働くということを五感で体験させる研修など、正解のないテーマに取り組む研修を全社的に進めている。

 また『西洋美術史─世界のビジネスエリートが身につける教養』の著者である木村泰司さんも、ワークショップや研修を開催している。

 大手航空会社のANAは、木村さんを招いて「絵は見るものではなく、読むもの」と題した研修会を開いた。募集定員70名に対して、応募者が120名を超える人気研修となったという。

 3時間にわたって行われたこの研修会では、西洋を代表する181点の作品を解説し、芸術作品に込められた意味やその社会背景などを考える新しい視点を宿している。

 たとえば、木村さんの本に挙げられている作品に、17世紀にオランダ人のフランス・ハルスによって描かれた「陽気な酒飲み」という作品がある。タイトル通り、酒に酔ったごきげんな紳士がグラスを片手にとろんとした目でこちらを見つめている。これは単に陽気な紳士を描いたわけではなく、その意図するものは「飲酒に対する節制」であった。当時のオランダはスペインからの独立を果たして、アムステルダムなどが貿易港として発達し、経済が発展。美術品もヨーロッパ各地から集まり、「黄金の世紀」と呼ばれるほどオランダが隆盛を極めた時代。オランダ人は経済的繁栄を背景に欧州一の大酒飲みとして知れ渡り、これを問題視する動きがあった時代でもあったのだ。

 この黄金時代を代表する画家が、光と影の魔術師と呼ばれたレンブラントとフェルメールだ。とくにレンブラントは、レオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロなどイタリアルネッサンスの画家の作風を意識した重厚な作風で、その存在をアピールした。従来、画家は王室や貴族などパトロンに支えられて生活していたが、レンブラントやフェルメールは独立して活動した最初の職業画家たちでもあった。

 またこの時期のオランダは、新しいジャンルの美術を生み出している。先の「陽気な酒飲み」と言われる作品は「風俗画」と呼ばれ、主にオランダで広がったもの。

 同時にオランダ絵画は、絵画のジャンルのヒエラルキーを確立させたことでも知られている。

 ヒエラルキーの最上位には聖書や神話を主題にした歴史画があり、次に人物画(肖像画)、その下に風俗画、その次に風景画、最も下に静物画が置かれた。歴史画がなぜ最上位かというと、画家がその主題を理解しなければならず、しかも画面には複数の人物を配して、ふさわしいポーズや感情を表現し、適切な背景を表現しなければならなかったからだ。歴史画を描くためには単に構成力だけでなく、古典建築などの知識も求められた。

 つまり、こうした様々な環境や背景が1枚の絵から読み取られていくのだ。もちろんこうした読み取りをするには、オランダの歴史をバックグラウンドとして持っている必要もある。

 しかし、歴史的背景の知識をそれほど持っていなかったとしても、この作品の主題は何か、あるいは同じ時代の別の画家の作品と見比べることで、いろいろなことが読み取っていけるようになるのだ。

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