AI、VR … 先端テクノロジ全盛時代だからこそ 人を伸ばす丁稚奉公・徒弟制度が活きる!
世界的コンサルティング会社でも弟制度を採用
意外なようだが徒弟制度は、先端の理論を駆使するような経営コンサルティング会社や大学などの研究機関、医者の育成などでも生きている。
たとえば世界的コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)。BCGは戦略系コンサルティング会社の老舗で世界中に顧客を持っており、またそこで働く人は世界中のエリートが採用されている。世界的企業の顧客を相手にするだけに、一旦採用されると、たとえ若手でもそういったトップを納得させるだけの経営ノウハウと業界に精通した緻密な戦略が立てられなければいけない。それを30代、あるいは20代のコンサルタントが行うのだから急激とも言えるほどの成長が期待される。
しかしながらそこにはやはり、ものづくり職人と同じように「成長したい」というマインドが宿っていない限り、いかに優れた人財でも思いの外成長が加速しない。
「成長は能動的なプロセスだ。『成長したい』が『成長させてほしい』となったとたん、その人の成長は鈍化し、最悪の場合は止まってしまう」(『BCGの特訓』)
そのためにBCGが採用しているのが、同グループの若手成長の「秘伝のたれ」と呼ぶ、アプレンティスシップ=徒弟制度である。
ただ、この徒弟制度は従来の日本の徒弟制度のように、「教えない」ことからモチベーションが上がってくるのを待つのではなく、師匠や先輩が積極的に後輩や若手の状況を観察して問題点を認識し、あるべき姿とそこに足りないものを気づかせる、というものだ。
したがって育成のうまい上司、先輩は「質問上手」でなければならないとしている。
企業の現状がどのような状態にあり、その真の課題を見出して、そのソリューションを導くコンサルティング会社でも、その問題を浮き上がらせることはそうたやすいことではない。とくに各方面から優れた人財が集まってきているコンサルティング会社ではなおさらだ。
そこで同社では若手が気づくような質問を与え、そのパターンに応じてさらに質問を続けていく。
そのキラークエスチョンが「最近どう?」という質問だという。
意外な気もするが、「育成においては万能」らしい。しかもこの質問に対する反応はだいたい2つのパターンに分かれるとのこと。
1つは、「順調です」という返事。そこで普通の上司は納得してしまいがちだが、「何がどう順調なの?」と続けることがポイントになる。そうすると「実は順調な根拠が実は曖昧であったりする」ので、そこを突き詰めていくと、課題が見えてくるのだ。
2つめが「課題が多いです」という返事。これに対しては「どんな課題があるのか」と列挙させる。するとそこから2つのパターンが見えてくる。
1つは、課題を誰かに指摘されたというパターン。指摘されたのが別の上司ならまだしも、お客様から指摘されたのなら、大きな問題だ。またお客様でない外部のメディア関係者から指摘を受けたりする場合も、本人にその問題の重要性を気づかせる必要が出てくる。つまり当事者意識が不足しているということだ。
もう1つのパターンは、「自分で設定した目標に対して、◯◯%達していない」というように目標とのギャップを数値化して答えるタイプ。このタイプではその達していない原因を環境や他人のせいにしていなければ、概ね軌道修正に入っていると考えていいようだ。その際に気をつけたいのが、「できていない」ことに対して、「なぜ出来ないのか?」と訊かないこと。「何をやっているのか?」と訊いたほうがより本質に近づけるとのことだ。
ポイントはいずれも本人の"気づき"を促すことだ。我慢しきれずに先回りして答えを言ってはいけない。逆に気づきができていないとすれば、まだその仕事を任せることは早いのかもしれない。
その視点は1400年の歴史をもつ世界最古の建設会社「金剛組」の若手育成と同じだ。「『なぜこの作業をしているのか』『完成するとどうなるのか』常に自分だったらと考えながら作業をします」(『創業一四〇〇年 世界最古の会社に受け継がれる一六の教え』)
そして、一人前の大工には、自分の弟子がやったことすべてに責任が持ててはじめてなれるのだと。「最後の責任はワシがとるから、やってみい」(同書)
徒弟制度は、決して旧態依然の非効率な人財育成法ではない。
速さ確実さ、そして感動を与えることができる一流の責任のある仕事人を育てるために、不確実性の高い、AI、IT万能のいまだからこそ、徒弟制度は求められているのではないだろうか。
【POINT】
■ 奉公を過ぎると誰もが独立できる徒弟制度
■ ヨーロッパは徒弟制度が充実している!
■ 教えない教育の代表「徒弟制度」
■ 「職人は教え下手の育て上手」
■ 丁稚時代の掃除や雑務が仕事の気づきの芽を育てる
■ 徒弟制度は学ぶ意欲を引き出す
■ ドイツ型の「デュアルシステム」が日本でも導入
■ 「できた職人」をつくるには徒弟制度がベスト
■ できた職人は、プレゼンもトークもうまい
■ 優れた職人になるには、まず"バカになる"
■ 器用な人間は諦めやすい
■ 女性もバリカンで坊主の秋山木工に入社希望者殺到
■ 丁稚4年、奉公4年、計8年で全員退社の秋山木工
■ 優秀な職人が10人いたら会社は潰れる!
■ 世界的コンサルティング会社BCGでも徒弟制度を採用
■ 「最近どう?」の質問で若手の課題に気づく