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ビジネス目利きの見方

ビジネス目利き力がある人は事業を確実に成長させることができる

テレビ東京系列の人気番組「なんでも鑑定団」。この番組の醍醐味は何と言っても「目利き」と呼ばれる鑑定家たちが、依頼者からのいわくや思い出のつまったさまざまな骨董品や美術品をその場で鑑定し、価格を出すことだ

時にガラクタとしか思えない煤けた民芸品や巻物などが「想定外」の高値を付けたり、どう見ても立派な「美術品」と思える作品が「贋作」と判明してタダ同然の値が付いたりと、その意外性に驚くことばかり。それにしてもこうした鑑定家の目利きの力は凄いものである。

二けたくらい違うのでは?」と突っ込みを入れたくなるようなものでも、鑑定家たちは明確な理由を挙げて本物かどうかを証明し、値付けの理由をきちんと説明する。その説明も実に細かく、その当の作家ですら意識しないような「癖」を見つけ出したりする。本物を見分ける真贋力と、マーケットにおける現在価値をきちんと把握する力が備わっているからこそ可能なのだろう。

辞書によれば、目利きとは本来、「器物や刀剣、書画などの良否を鑑定すること。またその能力があることや、能力を備えた人のこと」を指す。まさに鑑定団の世界だ。しかし現代においては目利きと呼ばれる人は、ビジネスの世界にもいる。

同じような仕事をしているのに業績を伸ばして、事業を拡大させたり、新たな事業を軌道に乗せたりする人は、そのビジネスに対する目利き力があるからこそ。

「そんな目利き力は持てない。神様でもあるまいし」といいたくなる人もいるだろう。しかし今の時代、その分野で生き抜いていくだけの目利き力は必要だ。

たとえば素材を購入し、加工するメーカーであれば、まず素材の質を見極める目利き力が要る。ただし、いくらいいものであっても骨董品のように青天井に価格をつけるわけにはいかない。十分な利益が出る価格内で、きちんと使い切るだけの量を確保しなければならない。

もちろん手に入れた「いい素材」を良い製品にするための技術は欠かせない。自分たちが持っている技術が十分生かせるか、その目利きが求められる。さら生み出された製品の質を見極め、歩留まりを上げるために、どんな生産管理の技術が必要か、適しているかを見極める目利き力も必要となる。

何より企業成長のカギを握る人材においては、人事担当者、経営者の目利きが確かでなければ、その事業の将来は危ういと言っても過言ではない。事業家あるいはビジネスマン、産業人として生き抜いていくための目利き力は、誰にも求められていると言える。

元カリスマバイヤーの「目利き力」とは

一般に商売において目利き力が求められるのは、何かを仕入れる時だ。一流の目利き力を持つ仕入れ担当者を、最近では「カリスマバイヤー」などと称したりする。

その一人に元伊勢丹のカリスマバイヤーとして名をはせ、福助などの企業の再生事業にかかわり、テレビのコメンテーターとしても活躍した故・藤巻幸大さんがいる。藤巻さんは、その著書「目利き力」において現代における目利き力を次のように提示している。

「自分にとって本当に必要なものが何かを認識し、その上で本当に(今欲しいと思っている)それが(自分に)ふさわしいものを選びぬく目を持っていること」とし、「これはものを買うことだけの話ではない。働き方、ものの考え方、人との付き合い方、生き方、すべてに通じること」。

それは現代が「絶え間なくもたらされる大量の情報やあっという間に変化するビジネス環境のなか、多くの人が他人の意見や風潮、宣伝、流行に押し流されがち」だからであり、「だからこそ、自らの基準で判断できる力――『目利き力』が必要なのだ」と。

つまり全体を総合して「何かすごい、優れている」とかではなく、特定の分野で確実に凄いものが見いだせる、尖がることができる、そのための能力なのだというわけだ。

藤巻さんは日本人一人ひとりの意識が変わっていけば、日本は「一億総目利き」になり、生活が変わり、社会が変わり、日本が変わっていくはずだと言っていた。

藤巻さんのいう”自分らしい基準を持った目利き”になるには、どうすればいいだろうか?

自分のスタイルを持つ

藤巻さんによれば、まず「自分のスタイルを知ること」だと言う。藤巻さんのいうスタイルは「個人の生き方や哲学から生まれてくる個別の様式」で「目的や生き方」から必然的に決まってくるもの、としている。その例として挙げているのが手帳だ。

スマートフォンやタブレット端末など登場で手帳を持つ人が減ってはいるが、やはりすぐにメモが取れ、電池の容量を気にしないで済む手帳はビジネスマンに欠かせない。手帳は業種や年齢、個人によって自分に使いやすいものに落ち着いていく。経理や総務など、会社内での勤務が多い人は大きめのものを選び、営業など外出の多い人は鞄の中に入る、嵩張らない大きさにするようだ。また新聞や雑誌の記者などは、ポケットからすぐ取り出させる小さい手帳を使っている。

 

仕事内容だけでなく、個人によって、色やデザイン、書きやすさ、見易さなど変わってくるだろう。そういった個々の要素を絞り込んでいけば、おのずと自分が求める手帳にたどり着く。

目利き力がつけば、何時間もかかっていたことが10分でできる

さらに藤巻さんはこのスタイルを考える時に「モード」という考え方を対比しているという。

モードとは、世の中の流行や風潮のこと。自分のスタイルがわかってない人は、このモードでものを選んでいるのだ、と藤巻さん。いわゆる流行に流されるタイプの人だ。

藤巻さん流の目利きの第一歩は、まず自分の手帳を自分のスタイルに則って選んだだろうかと問いかけてみることだという。自分のスタイルに気付いている人は、決して無駄なものを買わない。モードにつられて、店先に並んでいるものを漫然と買うということがなくなるからだ。そしてモノを丁寧に見るようになるから、その商品のこともよく知るようになるし、さまざまな周辺知識も付いてくる。するとますますモノを見る目が養われ、「目利き」に近づいていくという好循環が生まれるのだ。

スタイルがわかって、ものを見る基準ができて来ると、当然判断が早くなる。1時間で10個の価値判断しかできなかったことが20個、30個、100個の判断ができるようになる。何時間もかかっていたことが10分でできるようになる。

仕事はそういうものだ。慣れてくればたいがい早くなる。しかし、ただ漫然と仕事をしているだけでは、ある程度以上は短くならない。

藤巻さんはさらなる目利きになるためには、「軸をぶらさないことが重要」と説く。

自分の軸がぶれないために、独自のマトリックスを持つ

スタイルがわかっていたとしても、時代の流れ=モードなどによって、次第に自分の軸がぶれてくる場合もある。

また、自分が昇進や転身など新しいステージに入ったとき、もしくは年齢を重ねた場合などは、いままでのスタイルから脱皮する必要性も出てくる。変化や進化することを恐れていては、何も前に進めることができない。

軸がぶれないためにはどうすればいいのか。藤巻さんは、独自のマトリックスを持って確認していた。

フォーマル」。横軸に「シンプル」と「デコラティブ」という価値軸で、迷った時には対象をこのマトリックスに当てはめ、自分の位置を確認するのだ。藤巻さんの場合、仕事柄さまざまな服飾ブランドを当てはめてみて、自分のポジションに近いところのブランドを選択するようにしていた。

 

たとえ新しいブランドが上陸したとしても、自分が取り込んでいいのかマトリックスから判断できるので、迷いや誤りがない。

たまには敢えて軸をぶらす

けれども、「軸が決まっているかといって、必ずしもその位置が固定されているわけではない」と、藤巻さん。

「シンプルな人が時にはデコラティブなものを買う。そういう振り幅のある選択をすることが『目利きの特徴』」なのだと。

逆に軸がしっかりしているから、思い切ったぶらし方ができる。軸がぶれないから、違うステージに入っても素早い対応ができるのだ。

よく仕事のできる人は、新しい仕事や職場に移ってもそつなくスピーディにこなせるという。それはきっと自分のスタイルと軸をしっかり持っているからだ。

自分のスタイルを持ち、軸がぶれないということは、経営においてきわめて重要な意味を持つ。経営理念という軸と経営方針というスタイル。仮に経営環境というモードが変化しても、この軸とスタイルがぶれない限り、事業者としての目利き力は鈍らないはずだ。

自分を壊すこと恐れない

逆に変化の激しい今は、意図的にぶらして反応を見るくらいの余裕がないと時代の変化についていけない。藤巻さんは、「結局目利きへの道は自分を壊すことから始まる」という。現代は時に創造的な破壊をしなければならないのだ。だが自分を壊すことはとても勇気のいること。

藤巻さんは元服飾のカリスマバイヤーらしく「普段の自分なら決して着ないような服を着て自分を破壊しよう」と提言している。

もちろん、服以外でもできる。たとえば……

 

など。

いままでの自分が体験したことのない、価値観の違う世界に身を置くこと。これまでの常識が通じない世界を体験することで、目利きとしての新しいステージに立つことができるのだ。

物事の両極を知る

また藤巻さんは1つのジャンルで両極のことを体験することも勧めている。

たとえばランチをいつもの定食屋さんやファミリーレストランではなく、高級住宅街での高級ランチにする。その一方別の日にはチェーン店の格安牛丼を食べる。食後のコーヒーもある日はセルフのコーヒーを飲み、また別の日には高級ホテルの高級喫茶など両極を味わうのだ。

大事なことはそうやって自分の世界を広げること。そしてその意義は観察力を高めることにある。観察力を高めるということは、つまり「気付き」を増やすことだ。

では気付くというのは、どういうことだろう。それは「差異がわかること」だ。差異がわかるのは、モノを知っているからだ。だが我々は意外とモノを知らない。

人間の脳は不思議なもので、意識して見ていないと、見えないものがある。たとえそれが目の前にあったとしても、だ。

脳科学者の苫米地英人さんによれば、フランス人が夏、日本の家屋にある風鈴を見たとしても気付かないという。それは、風鈴というものが何であるか理解していないからだ。フランスには夏に文化的に風鈴を飾るという風習がないため、脳が捉えきれない。結局脳に事前に情報がインプットされていないと、視界に入っても気付くことができないのだ。

日ごろから気付きを増やす習慣を

だから気付きを増やす努力がいる。簡単にできる方法には、次のようなものがある。

 

書店は最新の流行や異質な考え方を手っ取り早く知る身近な場。藤巻さんによれば、「雑誌の特集や本のタイトルを見るだけでも脳は活性化される」と。

また「美術館はあなたの感性を刺激してくれる」存在だし、人の話を聞くときには「仮説を立てて」聞くようにすると、話が弾み、いろいろな情報が得られると言う。ちょっと心がけておけば、気付きは増えるのだ。

目利きとは、もともと特定の狭い分野で発揮される能力だが、決してその世界だけで完結するのではない。幅広い世界を知っているからこそ発揮できるものなのだ。

人を選ぶときは「顔」で選べ

ほかにも世の中には藤巻さんのような「目利き」と呼ばれる人たちがたくさんいる。

たとえば「モノ」ではなく「人」を選ぶ目利きはどんなポイントで選ぶのだろうか。

500人以上の転職を手掛けたヘッドハンターで人材紹介会社経営の佐藤文男さんは、面接でものの5分でその人がその仕事にふさわしいかがわかると言う。

人材紹介業務は、厚生労働大臣からの許可が必要で、個人のプライバシーに関しては質問も調査もしてはいけないことになっている。本人が申告する書類以外の客観的情報はない。したがってヘッドハンターが人と会う時は、各々の経験と知識を総動員して人物を評定することになる。

佐藤さんが重視するのは「目線」。相手の目をまっすぐ見ながら話す人かどうか。自信がある人、正直に話す人は、目線に力がある。

次が「話し方」「聞き方」。1を聞いて、10を返す人はしゃべりすぎだと佐藤さん。そういう人はたいがい大企業の管理職の人が多く、自慢話のオンパレードになりがち。逆に0.5しか返さない人も印象が良くない。1に対して2から3くらい。具体的な話を入れるとさらに印象が良くなる。

またこのほかに重視にしているのが「態度」。能ある鷹は爪を隠すではないですが、できる人ほど謙虚な姿勢で臨む。

佐藤さんが最も重視しているのが「顔」。意外な気もしますが、やはり「『40過ぎた男は顔に責任を持て』と言われるように、それまでの人生の過ごし方や価値観が顔に表れている」ものだそう。もちろん、男性だけはない。女性も40過ぎたら責任を持つべきだ。仕事が好きで仕事に責任をもってきた人は顔が違う。

いくら背伸びをしたり、経歴をごまかしても、見る人が見ればすぐ「人となり」がわかってしまうものだ。

偽物を見抜くためには「人を見抜く力」が必要

それでは贋作や偽物のまさに玉石混淆のなかで日々目利きしている古物商やリサイクル店はどうだろう。

高級バッグやブランドグッズの買い取りで知られる「コメ兵」。そこの目利きバイヤーはどこを観るのか。

ブランド品は人気商品であればあるほど偽物が出回る。そしてその技術どんどん進化している。重視するのは、消費者の目に触れにくい部分。たとえば金具やボタンの裏側だ。

「ファスナーなどの金具やボタンなどを裏返すと、そこにブランド特有の刻印や製造番号が打たれていることがある。革製品では裏地に打刻されていることもある。贋作は表面に見える部分はしっかり作ってるが、たいていは見えないところで手を抜く。その見えない部分にこそブランドのブランドたるゆえんがある」(コメ兵バイヤー)のだと。

コメ兵では、基本的に値付けは個々のバイヤーに任せている。価格に差は出るが、それが1,000円単位に収まるように定期的に勉強会を開いている。新作情報や販売情報を共有し、目利き力を組織で磨いているのだ。

さらに偽物を見抜くために必要な能力として「人を見抜く力」を挙げている。買い取りの際、お客様と会話し、そのなかから商品購入の背景を探り出して、真贋を判断するからだ。

「通常ブランド品は誰でも愛着がある。だから、いつ、どこで購入し、どのように使ってきたか、たいていはっきりした背景があるのです。疑わしい商品を持ち込まれたお客様には、この背景がうまく説明できないことが多い」(コメ兵バイヤー)

半年前ほどの新作でも「3年前に買いました」などつじつまが合わないことを言ってみたり、どこで買ったかもわからないものだったり…。

古物商は買い取った商品が盗品だった場合は、古物営業法上、商品を無償で元の持ち主に返却しなければならないことになっている。つまり違法な商品であることを水際で見抜けなければ、その損害費用はすべて会社の負担になってしまう。その価格の落差が大きければ大きいほど目利きと呼ばれる人にかかる負担は大きくなる。だからこそ勉強や日々の研鑽が欠かせないのだ。

作品から湧き上ってくるエネルギーを感じ取るセンス

一方古美術はどうか。こちらも価格差が大きく、相当な眼力と経験がないと務まらない世界。

「なんでも鑑定団」でおなじみの若手鑑定家田中大さんも「この業界では贋作は買ったほうが悪い」という掟があると言う。自身も1,200万円で買った古美術が10万円にしかならなかったこともあるとのこと。

しかもいまはデフレの時代。どんどんものの値段が下がるので、回転させるためにできるだけ売ったり買ったりをしなければならず、直感を働かせて瞬時に判断しなければならない、厳しい時代になっていると言う。

田中さんによれば「明治以前のものなら、99%は知識でなんとか真贋は判断できるが100%は無理」と言う。

「残り1%はどうしてもグレーゾーン。じゃそこを見極めるのは何か。それは作品から湧き上ってくるエネルギーをキャッチするセンス。それを身に着けた人が目利きと呼ばれる」と独自の分析をしている。

贋作にも存在価値がある!

田中さんは全国的なお宝ブームの引き金となっていることに多少なりとも憂いを持っている。値段を気にして、せっかく持っていた作品から愛情が引いてしまうからだ。田中さんは「贋作にも存在価値がある」と言う。

「資産なんて考えずに(本来の)道具として使って季節を楽しめばいいわけです。用途を変えれば立派なインテリアになるわけで、存在価値がある」と。

「今は(下手に)知識を得たために『作品そのもの』を味わってみることができなくなっている。あまりに真贋にこだわりすぎると、失う世界も大きい」

一時、ブランドものの偽物を、わかってわざと身につけて楽しむような人もいた。海外からそれをわかって持ち込むと違法だが、国内の骨董品なら別に違法にならない。むしろその差をわかって楽しむ余裕くらいないといけないのかもしれない。

ビジネスの最も身近な鑑定家はあなたの事業をどう見ているか

ではビジネスにおけるもっとも身近な目利きというと何になるだろうか。真っ先に浮かぶのが取引先の金融機関だろう。

通常の目利き(鑑定家)は秘蔵のお宝を評価し、金銭に変えてくれるわけだが、金融機関もある意味同じ。事業というお宝を評価して、金銭を提供するのだから。ではその「鑑定家」はどのような目利きを展開するのか。

最大の違いは、古いものを評価するのではなく、これからの未来、成長の可能性を評価することだ。

成熟分野でも新しいビジネスモデルの構築などチャンスがある

したがって既に成熟しているところより、成長途中、今度成長の可能性の高い産業のほうが有利になる。ただし成長産業はプレーヤーも集まってくるので、どの企業も有利になるというわけでない。

また成熟産業でも新しいビジネスモデルを開発したり、規制緩和や法改正で市場拡大が見込める場合は、融資が有利になっていく。

ではどんな産業がこれから伸びるのか?

それを見極めるのが金融機関の目利き力とも言えるが、1つの参考になるのが、国が成長産業や成長戦略に組み込んだ技術分野などだ。

たとえば環境関連の産業や医療・介護の市場、アジアを中心とした海外からの観光客を当て込んだ観光産業、宇宙開発関連産業、ロボット産業、震災を受けての新エネルギー関連産業など。ほかにクールジャパンとして話題のアニメやファッション、日本料理、映画なども国が積極的に後押しする産業だ。

また最近では水など資源・インフラ関連の輸出産業も注目を集めている。

ものづくり系技術では、ナノテクノロジーや通信機器デバイス分野、バイオ、ヒトゲノム分野、新素材などは今後も有望だろう。

 

売り上げの増大、利益率の向上、事業としてROAの拡大を見る

もちろん成長分野だからといってすべての企業が有望でない。

個々の企業については鑑定するのが金融機関だから、当然財務諸表は見る。そのなかから収益増大に関する目標、すなわち売上の増大、利益率の向上の要素を検討していく。

たとえば売り上げの増大では、

 

などを見ていく。

また利益率の向上については

など。

その上で事業全体の効率性をみていく。これは総資本に対する利益率=ROAの拡大ができるかどうかでみる。ROAはさらに2つの視点から検討される。すなわち、バランスシート=B/Sのスリム化とキャッシュフローの改善だ。

B/Sのスリム化では、

など。

工場では5Sを必ず見る

一方製造業の場合はどうだろう。製造業では工場などの生産設備を持っていることが多いと思うが、工場にも当然金融機関の「鑑定家」はやってくる。特殊な機械が並んでいたり、研究開発部門とセットになっていたりと専門性が高すぎて、さすがの鑑定家も十分な経験を持っていないと目利きは発揮できないように思うが、きちんと見ているという。事前に製造工程や組織図、人員体制、配置を把握し、課題や検討事項を見つけ出していくのだ。

どの工場でも共通してしっかり見ているのが、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」のいわゆる「5S」。もちろん現場担当者のようにどこ
が汚れているとか、細かくチェックはしない。「鑑定家」が見るのはその5S活動が各工程でどの程度、目標に対して反映されてるか、ということだ。この5Sの改善なくして、生産性の向上は望めないからだ。

実はこの5Sの徹底が企業の「裏の競争力」の強化につながると言われているのだ。5Sの徹底が現場の「ムダ取り」、「カイゼン」や「かんばん」につながり、そのためのルールやツール、教育システムの導入を促し、現場の結束力を高めていくからだ。いわば企業内部の運用ソフト力とも言える。この「裏の競争力=企業内部の運用ソフト力」が強いのが最も強いのがトヨタ。トヨタのカンバン方式やカイゼンは、多くの企業で導入されているが、その割になかなか定着しないのは、この裏の競争力を理解しないまま進めているからだと言われる。

在庫は減りやすい在庫と残る在庫がある

どの工場でも「鑑定家」がきわめて高い関心を寄せるのが「在庫の問題」だ。市場の動きが早い現代では在庫はリスクとなる率が高まっているため、どの企業も在庫を減らす傾向にある。しかし東日本大震災で分かったのは、「減っている在庫」と「減りにくい在庫」があることだった。

ふだんでも在庫はあるのに欠品や納期遅延が起こったり、毎年在庫処分をしてもまた増えるものがあったりするが、震災はそれを鮮明化した。これは回転率の悪い商品の在庫に手をつけず、回転率の高い在庫の率を下げたために起こるものだ。

また製造は適正だったのに販売が追いつかないために在庫がだぶついたりすることもある。「鑑定家」はこのあたりの要素をシビアに見ていく。

会議の時間ややり方にも踏み込む鑑定家

「鑑定家」はさらに会社内での会議時間や内容についてもチェックする。

一般に会議がやたら多い企業は、経営がうまくいっていないと言われ、その短縮化、効率化に取り組む企業は増えている。一方、会議の代わりにITシステムを導入し、面と向き合う時間がほとんどなくなったために、社員間の意思疎通が滞る例もある。

どのくらいの時間やタイミングが適正なのか、時間と成果についてチェックすることも必要だろう。

もっとも難しいのが経営者の目利き

最後に鑑定家が最も注意深く見るポイント―それは経営者そのものだ。

金融機関だから当然、信用できる人物か、誠意ある人物かという人柄が求められる。それだけではなく、経営者が持ってるリーダーシップやそれを裏付ける人望も見ている。社員やその家族、地域社会、取引先からも慕われているかどうか―。

もちろん経営者は百人百様。コミュニケーション能力の高い経営者もいれば、自分の意見をあまり言わない寡黙なトップもいる。

その経営スタイルも、カリスマ的なリーダーシップを持つタイプ、仁徳でまとめていくタイプもある。一見人格者のように見えても、人格者たらんとして、経営がだめになるケースもある。

いずれにしても、鑑定家の経験と経営者とのコミュニケーションが決め手になっていく。

こうしたさまざまな目利きに共通しているのは、モノやコトだけを見ているようで、実はその背景にある人間を見ているのだということだ。人はどの仕事でも目利き力は求められる。常に目利きとしての自覚をもって仕事に臨みたいものだ。

【参考文献】

●『伸びるビジネスが診えるようになる』 石毛宏[きんざい]
●『「製造業」に対する目利き能力を高める』 株式会社アットストリーム[金融財政事業研究会]
●『目利き力』 藤巻 幸大 [PHPビジネス新書]
●『目利きになろう!』 セオリービジネス[講談社] ほか

【POINT】

■ 目利きの基本は「気付き力」
■ 自分のスタイルを知る
■ 自分の軸を持つ
■ たまには軸からぶれる
■ 自分を壊すことを怖れない
■ 贋作にも存在価値がある!
■ 贋作を見極めるには「人を見る力」も必要
■ 金融機関は工場で5Sを必ず見る
■ 金融機関は「売り上げの増大」「利益率の向上」「ROAの拡大」を
要素分析する
■ 裏の競争力が強い「トヨタ」
■ 人材は「顔」で選べ
■ 在庫は減りやすい在庫と残る在庫がある


newscomer & 考察 AIでは仕事は奪われない?! 続々生まれる新しい職種(1)

【インサイド・セールスパーソン】

外回りの営業にいかずに、ネットなどのオンライン上で販売営業をする人。最近はこうしたサービスに特化した企業も生まれている。男性営業マンが筋肉を見せて「It’s OLD営業」とやるやつなどがそう。

【データ調査官】

「データマイニング」という言葉が流行っているが、AI時代の企業成長を左右するのはAIの能力もさることながら、集めるデータの質による。どんなデータを集めてどう分析して、しかるべき企業や人に届けるかが問われる。そこでこうしたデータを探し、分析し、その企業や人に打つべき手や動向を提供する。

【話し相手・散歩仲間】

社会が成熟すれば「お一人さま」が増えていけば、その場所も必要になる。お一人様ビジネスはすでにいくつも誕生しているが、お一人様が常に「お一人様状態」に耐えられるわけでもない。それなりに人と交わっていかないと精神のバランスは保てない。昔はそういう寄り合い所的なものがあり、自然とそういうところに集まってきたものだが、そこではそれなりに気を使う。特定の人がその人のペースにあわせて、相槌を打ち、孫の話や娘の旦那のぐちを聞いたりする。高齢化社会には必要なイキの長い仕事だ。元俳優や接客業の人などが向いているかもしれない。

【エバンジェリスト】

自分の会社のサービスや業界団体の内容について熟知し、社外に向けて啓発活動を行う人。依頼を受けて、SNSや企業サイトなどで情報発信を行うほか、イベントを主催したり、セミナーの講師なども務める。

【ピープルアナリスト】

旧来の人事担当のようにこれまでの知見だけでなく、客観的なデータを踏まえて科学的な人事配置を考える人。どの部門がどのような人が欲しがっているというだけでなく、その部門担当者が気づかない部分をカバーし、組織全体のシナジーを最大化する人事を行う。職種ごとに応募数と内定率の相関関係を調べたりして、内定者が少ない場合は、その募集広告がミスマッチではないかと考えて改善策を出したり、採用時の選考過程の歩留まりなどをチェックしてプロセスや方法を変えたりする。

【インハウス・エディター】

会社内で編集者として情報発信を行う。社内を飛び交う情報を集めて整理し、社内のみならず社外にも発信する。広報的な役割を担うが、素材の加工、編集を伴い、どういったターゲットにどのような手法や編集で魅せるかを考える。社内事情や業界事情、業界外とのコネクションも広い人。

【デベロッパー・リレーションズ】

自社のサービスと外部の開発者との関係を構築する人。自社のリソースが限られている中小企業にはとくに必要だが、大手でも当然求められる。大企業と外部のベンチャーなどの組み合わせではスピード感や文化や意識が違うため、その双方を取り持つ理解力・翻訳力の高い思考の柔軟さがある人が求められる。

【エンジニアリング・マネージャー】

エンジニアの採用や評価を総括して行う組織の長。あるいは専門役員。エンジニアリング全般に詳しいだけでなく、個々のスキルや事業やプロジェクト、組織全体に必要な技術と方向性を見据えることができる。

【UI / UXリサーチャー】

スマホやPC上のアプリソフトの使い勝手をチェックし、改善提案を行う人。ユーザー目線に立てるかだけでなく、問題の構造の把握ができることがのぞましい。

【ドローンパイロット/ドローンマネージャー】

いまや当たり前となったドローン。目的に応じて正しく操縦できる専門家は当然求められるが、さらにその管理運用ついての専門家も必要とされる。専門家は専用の地図などを読み込み、適切なルートや法令にも熟知する必要がある。小売や運送会社などでは有資格化されると思われる。

【経験デザイナー】

普段行われていることや、思考していることなどを疑似体験や体系的な学び、遊びとしてデザインしていく人。たとえば、茶を飲むということを学びや修行として新しい経験価値として体系化し、茶道具や茶室、茶庭、茶会などの体験空間を生み出していった千利休などはその代表だ。現代ではそれをネットやバーチャル技術などを組み合わせることで、実現できるようになっている。子どもの職業体験テーマパーク、キッザニアなどもこの経験デザインによって生み出された空間とも言える。後に紹介するノスタルジストなどとの親和性も高く、過去の自分に戻っての追体験や、これから起こることなどを体験できるしくみなどをつくる。

【ビッグデータドクター】

ビッグデータアナリスト、あるいはデータサイエンティストは一般化しつつあるが、同様に患者の病歴や生活習慣、家族関係などさまざまな情報から診断治療を行う医師。

【ノスタルジスト】

年齢を重ねると過去の良き時代、よかった思い出に浸ることが多くなるが、過去の良き時代を思い起こすことは脳の活性化を促す。気持ちをポジティブにすることも医学的に証明されている。ノルタルジーに浸れる空間やそういうイベントの演出、あるいは思い出や写真や動画などを再現する専門家が生まれる可能性も。AIの技術は必要とされるが、その中味のストーリーそのものをつくり出せるわけではないので、AIに仕事を奪われない。

【リモート外科医】

外科手術サポートロボット「ダ・ヴィンチ」などすでにリモートで外科手術ができるようになっているが、遠隔地からの外科手術は一般化していくだろう。医療機関がない過疎地だけでなく、名医の手術を海外から行うことも可能になる。あるいは災害などの緊急手術でもこうしたニーズは求められてくる。また外科医だけではなく診療ベースでは内科、耳鼻咽喉科などさまざまな診療科が対応してくだろう。

【自裁林業家】

従来の林業家は森林組合などに管理してもらい、組合で伐採し、出荷してその手数料を引いた部分が手に入る仕組みだった。自裁林業家は自分で山の権利を持って自分で管理伐採して、工務店など最も高値で売れる客に提供して稼いでいく。大規模な林業地を必要とせず、300万円から500万円の元手で自裁林業家としてやっていける。管理にはITを活用することでコストダウンが図られるようになった。また林業機械も進化し、人手もかからないようになったことが大きい。

【多様化マネージャー】

多様化社会の進展によって、企業の多様化はますます求められる。国籍、民族、主言語、性別だけでなく、文化、慣習などさまざまな要件がミックスしてこそ多様性とそのミックスによるシナジーが期待できるというもの。個人の情報をどれだけ吸い上げられるかにもよるが、今後は遺伝子レベルでの組み合わせなどが、その企業にとって最適な人財構成をつくりだすことになる。

さて、いかがだろう。「!」とくる未来の職業や職種はあっただろうか?もっと別のもの……もちろんあるだろう。それは皆さんがつくり出す職業なのかもしれない。

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