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2019.10

知っているビジネスがスムーズになる!? 癖や持ち物から
人を見抜くツボを知る

もう貧しさの象徴とは言わせない 世界が認めるアート、「襤褸= BORO」

「襤褸を纏う」」というと、貧しさ、みずぼらしさ、質の悪さの象徴のような表現だった。いま、その襤褸が世界の注目を集めている。それもみずぼらしさの象徴ではなく、ルイ・ヴィトンやコムデギャルソンなど有名ブランドが注目するファッション、アートと先端なって評価されているのだ。すでに世界中のテキスタイルデザイナーや美術コレクターがこぞって買い求めており、ヤフーオークションやメルカリやフリマアプリでも続々出品され、競り落とされている。

襤褸とは、布がなかなか手に入りにくい時代、主に東北地方などの家庭で、使い古した布を継ぎ接ぎして普段着や野良着として使っていた布、もしくはその衣類を指す。使い古しの布を使うため、一布の大きさや色、素材などには統一性はない。逆に作り手によっては個性が出てくる。サイズや仕上げ方もいろいろで、丹前として、作務衣のような作業着として、家族が一緒に包まる寝間着、ときに装身具や日用品として使われる。また布の柄、パターンもさまざまで、継ぎ接ぎをしながら何世代も使い回すので、その家や一族の思いや習慣、文化が色濃くにじみ出るウエアでもある。

とくに注目を集めているのが、北東北の青森などで長らく使われていた藍染めの襤褸で、その風合いは、まさにヴィンテージもののジーンズ、いや、それ以上の趣をもっている。

襤褸をBOROに変えたきっかけが、民具研究家でコレクターの民俗学者、田中忠三郎(故人)さんが集めたコレクションだ。青森県内に残る襤褸を40年かけ、約3000点を集めた。田中さんが集めたもともとのきっかけは、極寒の厳しい環境のなかで、モノを大切にしながら暮らす、その慎ましさ、心の美しさ、やさしさに心を打たれたことにあったという。

田中さんは襤褸のほか、古民具や古民家など約2万点を蒐集、うち786点が国の重要有形民俗文化財に指定され、520点が青森県の有形民俗文化財に指定されている。

血液、汗や涙、あるいは痛み、そして周囲の声援や思いなどがそこには染み付いている特別な布である。ボトコは夏に川で洗って、乾かして代々、どの家で繰り返して使う。そこには、生まれてくる子ども対して「一人ではないんだよ、みんなが見守っているんだよ」という思いも込められている。

田中さんのコレクションは、知る人ぞ知る存在で、映画監督の黒澤明、作家・演出家の寺山修司などが作品中に使っていたが、近年改めてその存在を世に知らしめたのが、写真家で編集者の都築響一さんである。2009年にペーパーバックの写真集「BORO=つぎ、はぎ、いかす。青森の布文化」を発表すると一躍、服飾、テキスタイルデザイナー、作家、芸術家、クリエーター、キュレーターなどの知るところとなり、その認知が高まった。

都築さんが作品集を出版した2009年には、東京・浅草の「アミューズメントミュージアム」が常設展としてBOROを紹介。その後は各地の美術館や博物館、アートギャラリー等での展覧会などが催され、2013年にはルイ・ヴィトンがコレクションに採用すると、世界中でブームが起こった。

2019年の今年は、世界初のBOROの展示ワールドツアー「AMUSE MUSEUM BORO World TourExhibition 2019-2021」がスタート、オーストラリアを皮切りに、北京、ニューヨーク、ストックホルム、モスクワを巡回する。

BOROを現代にリメイクした新たなブランドも立ち上がっている。「KUON」がそれである。東日本大震災後の復興支援プロジェクト「大槌復興刺し子プロジェクト」をきっかけに立ち上がったソーシャルカンパニーブランドで、Web通販のほか、現在世界12拠点で店舗販売を行っている。

襤褸の様々な素材パターンを組み合わせながら、ジャケットやパンツ、Tシャツ、帽子、コート、フード、バッグなどのアイテムを製造販売している。

青森人の「もったいない」精神は、さらに別の文化を生んでいる。それが裂織(さきおり)という技術である。襤褸は布切れを継ぎ接ぎし、何世代にもわたり使い回すので、そこでまた破け、ほつれる布も出てくる。この布を青森の人々はさらに、布として蘇らせる技を確立したのだ。破け、ほつれた布を裂いて糸のような細い布とし、それを緯糸(よこいと)にする。それに経糸とする麻糸などを使って織った織布である。

裂織の素材は襤褸としても使えなくなった余り布であり、1つの素材が身にまとうすべてをカバーはできない。したがってパッチワークやキルトのような柄が生まれるが、布の単位が細いため、より微細なグラデーションなどの表現が可能となる。

襤褸で注目されているのが青を基調した藍染めだが、裂織は赤や黄、緑、紫など、よりカラフルなバリエーションがある。素朴さとポップさ、懐かしさと新しさが融合するユニークでデザイインフルな素材として、トートバッグや室内履き、ラグなどとして商品化され、人気を集めている。

ボロ布のよう、疲れてボロボロだ......とかくネガティブで貧しい形容にしか使われなかった襤褸。これほど評価が逆転したアイテムも珍しいのではないか。

日本の地方にはまだまだ捨て置かれた宝石の原石が眠っている。黄金の国、ジパングなのである。

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