COLUMN ビジネスシンカー

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2020.02

いま世界が注目! SDGs時代に考えたい 日本人の知恵「三方よし」

お客様第一主義が横行する時代だからこそ三方よしのガバナンスが効く

ところで「三方よし」という言葉じたいはいつ頃からできたのだろうか。実は三方よしの言葉は江戸時代にはまだなかった。広まったのは、明治に入り大正を過ぎて昭和になってからだ。

経済倫理を専門にしている麗澤大学経済学部教授の大野正英さんによれば、三方よしが近江商人の理念として登場するのは、「近江商人の研究者である故小倉榮一郎滋
賀大学教授が1988年に出版した『近江商人の経営』が最初であり、それ以前には近江商人関連の文献には登場しない」という。

したがって「江戸時代の歴史小説などに『三方よし』が出てくるのは誤り」と指摘している。また三方よしという言葉自体は、昭和初期に麗澤大学の創立者である廣池千九郎がすでに使用しているという。

廣池は、江戸時代末期の1866年に現在の大分県中津市に生まれ、地元で教員生活を送った後上京し、独学で東洋法制史という学問分野を拓き、東京帝国大学からは法学
博士号を授与された人物だ。

その後、大病をきっかけに道徳研究に入り、「モラロジー(道徳科学)」という概念を提唱した。廣池によれば、精神を重視した質の高い道徳を最高道徳とし、最高道徳の実践による人間の品性完成の重要性を説き、一方で道徳は経済と一体のものではならないとしている。モラロジーはこの2つを骨格とした科学として進展してきた。廣池がモラロジーで展開する三方よしは、「自分よし」「相手よし」「第三者よし」である。

大野教授によると、近江商人の三方よしの世間が、「買い手の背後に存在する他国の社会全体」を対象としているのに対して、廣池の「第三者」は、現代経営のマルチステークホルダーにあたるという。株主のみならず、社員、仕入先、販売先、需要者、一般社会などを含む利害関係者である。

とかく経営者のなかには、三方よしの関係性を自社、顧客、株主の「三方」で構成する三角形で理解する人もいるが、そうではない。

大野教授はその解釈論は別として、三方よしは、十分現代にも通じる理念であるというが、とくに三方よしの考え方で優れているのは、「世間よし」、あるいは「第三者よし」だという。

現代のサプライチェーンでは、とかく顧客重視経営が見られるが、顧客満足度を高める経営は、世間や第三者に過度な負担を押し付けかねないからだ。

たとえば、良い品物を安く売ることが、仕入先や社員を苦しめることになり、結果品質を損ね、収益を損ねることに繋がっていけば、地域社会は潤わず、疲弊していく。

とかく現代は目に見えやすい直接的な取引や短期の時間軸でビジネスを捉えがちだが、地球や社会がサステイナブルな発展を目指すのであれば、いかに見えないステークホルダーを捉え、長時間の時間軸で事業を考える必要がある。

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