COLUMN ビジネスシンカー

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2021.01

曖昧で不安なコロナ時代を生き抜くための
2つの思考法
アート・シンキングと
ネガティブ・ケイパビリティ

詩人で医師だったジョン・キーツが創出した
ネガティブ・ケイパビリティとは

アートシンキング、あるいはアート思考はこの数年話題になり、いくつもの書籍が出ている。書籍だけではなく、実際に美術館や博物館などで社会人やビジネスパーソン向けの講座が開かれていたりする。実際に研修や講座に参加した人もいるだろう。

アートシンキングは、端的に言えば画家や音楽家のような視点や思考法でビジネスを見つめ、その解決策の緒を探ることだ。

一方ネガティブ・ケイパビリティは、あまり聞き慣れない言葉だが、概念として誕生したのは結構古い。ネガティブ・ケイパビリティは18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍したイギリスの詩人のジョン・キーツ(1795 〜1821)が創出したコンセプトで、答えの出ない事態に対して耐えうる力、どうにも答えが出ない、どうにも対処しようがない事態に対して耐えうる能力をいう。

まさに先の見えない混沌とした現在に求められる能力と言って過言ではないだろう。

その歴史を簡単に振り返っておこう。

ジョン・キーツはイギリスのロンドン生まれ。父を若くしてなくしており、また母親もアルコール中毒という恵まれない家庭環境のなかで育った。キーツには2人の弟がいたが、3人はアルコール中毒がひどくなると母のもとを離れ、祖母に育てられるようになった。キーツは祖母の計らいで医師の助手として奉公することになり、その後病院などで医学を学び外科医と薬剤師の資格を得ている。キーツは医学生の頃から詩作に傾倒し、解剖実習などの授業を受けながら詩作の発表を続け、画家や編集者との知己を得て、ますます創作に励むようになった。

20歳の時に自分の創作した詩が雑誌に掲載されると、若手の有名詩人の勧めもあって、やがて詩集を出版する。出版した詩集はそれなりの反響をもたらすものの、大きな収入にはつながらず、医学生であるキーツの生活は次第に困窮していく。キーツがネガティブ・ケイパビリティを創出したのはこの頃だった。結局キーツは困窮から抜け出せず、恋人とも結ばれず、残念ながら若くして病に斃れしまった。

このキーツの創出したネガティブ・ケイパビリティとは、「エーテルのような化学物質」で、想像力によって、錬金術のような変容と純化をもたらし、"個別性を打ち消す"というもの。キーツによれば、この個別性を打ち消す能力をひときわ持っているのが詩人であり、創作家であると捉えていた。とりわけこのネガティブ・ケイパビリティを有していたのが、イギリスの文豪シェイクスピアだという。

シェイクスピアは、対象を同一化して、作者がそこに同化していないような境地に立つという感覚に優れており、「不快なものでも霧消させることができる想像力をもっている真の才能の持ち主である」という。

このキーツがこのような概念にたどりつくことができたのは、キーツが医師であったことも大きい。キーツは医学生時代に詩作を始めたが、その紡ぎ出すボキャブラリーを増やすきっかけとなったのも医学の専門知識だった。人の状態や器官を表現する医学用語はキーツを最大の対象である人にさらに向かわせ、感覚を研ぎ澄ませていったのだ。

しかしキーツの創出したネガティブ・ケイパビリティはそのままは広がらなかった。

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