COLUMN ビジネスシンカー

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2021.01

曖昧で不安なコロナ時代を生き抜くための
2つの思考法
アート・シンキングと
ネガティブ・ケイパビリティ

答えは質問の不幸であり、好奇心を殺す
性急に答えを出す態度に疑問を持つ

その究極の1つの形がマニュアル化である。

マニュアルは「何もわからない」状態の新人などの教育には非常に効果をもたらす。できなかったことがスムーズにできるようになり、作業時間が圧倒的に短縮され、生産性が上がる。しかし、一方でマニュアルに慣れきった脳は、マニュアルにないことに遭遇すると途端にパニックに陥り、思考が停止し判断ができなくなったりする。

ビオンは精神分析医学界に存在するいわばマニュアル化された画一的なものの見方に疑問を持ったのだった。

マニュアル化の弊害として帚木さんが挙げた医学界の事例が、胃潰瘍の原因となるピロリ菌の発見だった。ピロリ菌は学会で認められるまでに何度も医師が「見つけていた」。しかし、1950年代に病理学の大御所が1000人以上の胃を調べ、「酸性の胃のなかで生きている細菌は発見できなかった」と発表して以降、「そんな細菌はない」ことが医学界の事実となってしまった。だがその後2人のオーストラリアの医師が1987年に人の胃袋から螺旋状の細菌、ピロリ菌を発見し、その事実が否定された。大御所の発表以降もそういった現象があったはずなのに、それを人工産物とみなして、その事実から遠ざけたことがその発見を遅らせたと容易に推測できるという。つまり、性急にわかりたがる脳がそれ以上の追究を停止させたのである。

現代社会を動かす専門家や優れたエリートは、このわかりたがる脳の特性を生かし、マニュアル化によって迅速な対応、ときに拙速な対応をし続けてきた人々である。だがVUCAの時代にあっては、誤判断や間違いを起こしやすい状態にあるということでもある。

VUCAの時代には、「拙速な理解ではなく、謎を謎として興味を抱いたまま、宙ぶらりんのどうしようもない状態を耐え抜く」ネガティブ・ケイパビリティが必要なのだ。

このネガティブ・ケイパビリティを涵養するには、まず答えを出そうという態度そのものを疑う必要がある。

前出のビオンは「答えは好奇心を殺す」と表現して、警鐘を鳴らした。また作家で精神科医のモーリス・ブランショは、「答えは質問の不幸である」という過激な言葉を残している。

ではネガティブ・ケイパビリティが自分のなかに宿り、広がっていくとどうなるのか。共感の感度が上がっていくのだ。

すでに多くの識者が指摘するように、VUCAの時代に大切なことは共感力だと言われる。そしてその共感力を育むのが絵画や音楽であるというのだ。

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