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【インタビュー】「おやさいクレヨン」は、親子の時間をデザインするために生まれた。【後編】

[インタビュイー]
mizuiro株式会社
代表取締役
木村 尚子さん

口に入れても安全な野菜と米油から生まれた「おやさいクレヨン」を開発したmizuiro株式会社の代表取締役の木村尚子さん。

藍染のインクのイメージから始まったおやさいクレヨンは、いま企業のCSRツールや、ギフトとして注目され、展覧会やワークショップを通じたアート活動などさまざまな分野へと広がりを見せている。

おやさいクレヨンの構想からおよそ10年を経て、木村さんはmizuiroをどこに向かわせようとしているのか。

おやさいクレヨンの開発販売を通じて得たこと、感じたこと、伝えたいこととは——。

おやさいクレヨンを使った
作品の展示会など
多彩なアート活動の支援も

BIZ●会社の社会貢献活動としてクレヨンを寄付しているそうですね。

木村●青森県内の学校なんですけど、量も料なので1校につき2つとかその程度なんですが。青森県から生まれた会社ということで、子供達に試す機会がひとつでも増えたらいいなと考えて。

BIZ●使用期限みたいなものが結構あるんですね。

木村●とくにはないんですけど、天然のものなので色落ちとかする場合があるんです。そういうものをまたサンプルとして、たとえばイベントの時に使ったりとかいろんな工夫で全部使うようにはしてるんです。県外からも問い合わせいただいて、提供できれば保育園で使ってもらったりなど、させていただいています。

BIZ●ほかにも展示会をはじめ、いろいろなアート活動の支援もされています。

木村●はい。過去3回青森県立美術館でクレヨン 画展を開きました。2016年と17 年では、クリエイター100名の方にクレヨンを渡してそれぞれクレヨン画を描いてもらいました。展示と参加無料のイベントにして、そこでクレヨンを使って色々楽しめる企画です。秋の連休に開催したのですが、親子連れの方がたくさんいらしてました。そういう県の文化活動の底上げもできたらいいなと思っています。一昨年は「おやさいクレヨンぬりえコンテスト」というのを開きまして、応募は全国からオンラインでも受付けました。いまはコロナでちょっとできませんが、また様子を見て開催できたらいいなと思ってます。継続的に続けることで、文化として根付いていくと思うので。また今後はYouTubeなどで作家さんにクレヨンを使ってもらった作品を紹介するようにして、プロが使うと同じクレヨンでもこんな風に表現できるんだといったことを紹介していければと思っています。あとはシンガポールなどで展示会のミニサイズを開催したり、海外にも活動を通じて商品を知ってもらえるようにしています。

BIZ●海外展開もしているんですね。

木村●少しずつ海外にも出すようにしてます。いまクリエイターを支援する世界的クラウドファンドのKickstarterの日本法人であるKickstarter in Japanで、日本でパートナーを組んでいる講談社さんにバックアップしてもらいながら「おやさいカルタ」のファンディングをしています。ファンティング達成後は「おやさいカルタ」を本格的に発売する予定となっています。いろはの文字の代わりにアルファベットのABCを入れて、野菜にまつわることを描いた絵札にして塗り絵もできる。そういったセットもこれから出していきたいと考えています。

BIZ●どんどん広がっているんですね。いまSDGsで環境にやさしい、サステイナブルな事業を推進する動きが世界中に広がっていますが、野菜を使ったクレヨンや文具は時宜にかなった商品ですから期待できそうです。

木村●そうですね。当社のクレヨンは野菜の端材などのフードロス対策の1つとして捉えられているようで、SDGsの流れにマッチしていると思います。その流れに合わせて、とくに環境面からの改善は続けています。たとえば、もともと透明な袋に入れていたものを簡易包装にしたり、バイオマス素材のプラスチックを使ったりすることを考えています。そういうところを大切にしていくことで、ブランドの意味を理解してくださる方が将来的に増えてくれればいいと思っています。

BIZ●ところで、mizuiroというこの社名はどこから出てきたんですか?

木村●最初の藍の色だったり、青森県なので青というイメージがあって、あと自分が1番好きな色で野菜にはない色、ということで社名にしました。

BIZ●それはパッとひらめいたんですか?

木村●色にちなんだ商品なので、色にちなんだ会社名にしようと考えて。自然に水色、青よりは水色という方が好ましいなあと思ったんです。

BIZ●パッとひらめいて何かをするっていう感覚は、日頃から大切にしているのでしょうか。

木村●会社という組織にはいろいろな人がいて、それぞれの役割があると理解しています。ひとつの物事に対して、人それぞれ色んな角度から捉え、考えたりする。そこが勉強になりますね。

BIZ●最近は以前に比べて起業のハードルが下がっていますが、木村さんはもともとそういう志向だったのですか。

木村●起業家になろうという考えはありませんでした。自分の生活スタイルを自分が働きやすいようにしたいというのが最初の目的で、結果として会社になったんですね。会社としての目標はそのあとに湧いてきたんですが、その時点では1個人としてのライフスタイルの問題だったんです。

BIZ●会社化するときに、どのような事業が発展していくイメージがあったのですか。とくに目標としている会社のイメージやロールモデルなどはありますか?

木村● 立ち上げて最初4年目ぐらいまでは、たとえば何か番組などで紹介されると次の日にECショップと卸売店舗様から大変な注文数を頂いて、それをこなすだけで精一杯だったんです。でも最近は前にお話したように企業さんからのコラボなどの別注依頼が増えて、企業さんが求めているのものが分かってきました。それでコラボ企画を提案したり、あとは卸の方にも販売のお願いをして販路を広げています。ただ企業さんから大量に別注を発注したいとなった場合、リードタイムが長くかかってしまうんです。そういう案件は短納期を求められますので。どうしても原料の調達、粉末加工などでリードタイムが長くなります。企業さんからの声がけも増えていますので、そこをなんとかしていきたいと思っています。また販促でいうと、クレヨンの使い方などをもっと伝える必要があるなと感じています。いまサイトをオウンドメディア化して、そこに子育てに関する記事を定期的に投稿していてます。認知度が上がり、ユーザーが広がっていけばと思っています。また動画サイトももっとうまく活用して、親子の時間の物語や先ほどのプロの方々の使い方など、mizuiroの世界観を分かりやすく伝えていきたいと考えています。個人的にはずっとクレヨンを使った絵本をつくりたいなとは思っているんですね。切り口を変えた何か環境に関するものだったり、当社だったらどんな打ち出し方ができるのかとか。考えながら取り組みたいと思っています。

BIZ●創業して10年近くになりますが、木村さん自身、mizuiroとしてのブランドや社会的な役割などで感じたり、考えていることはありますか。

木村●当社の商品は贈り物として購入されることも多いのですが、ただ贈るのではなく、そこには贈る人の気持ちが入っている。気持ちを贈っているわけですから、受け取った人にその気持ちが伝わるような商品がこれからの消費の目的になっていくと思っています。たとえばいま家庭菜園も増えているそうですが、贈ってもらったクレヨンでその観察日記で使ってもらうのもいい使い方だと思いますし、そんなふうにリアルな野菜の家庭菜園に組み込めることなどもできたら楽しいと思いますね。単にお絵かきするだけでなくて、会話や教育にも使ってもらえるとも思います。野菜がどんな環境で育っているとか、なぜこのクレヨンが端材を使ってるのか、そういうことに触れて、そこからもったいないとか、資源の無駄を減らそうとか、せめて給食は残さず食べようとか。そんな親子の対話の材料になってくれればいいと思っています。mizuiroの理念は「親子の時間をデザインしていきたい」です。製品を売るというよりは、いま言ったような親子で製品を使うシーンを提供したい。必ずしもお父さん、お母さんではないかもしれないけど、形はどうあれ、当社の製品を使って、わずかでもいいので、大切な人一緒に過ごしたりすることで、その経験が心に残り、親になった時、連鎖していく。そのきっかけになればと思っています。

BIZ●お子さんは木村さんの活動に何かを感じてるところはありますか。

木村●進路を考える時期になり、いろいろ迷ったようですが、美術系の学校に行きたいと意思を固めたようです。将来は、文房具のプロダクトや企画といったことができるメーカーに入りたいと言ってます。当社ではなくて(笑)、大手のメーカーさんに憧れています。間違いなく影響を与えたかなと(笑)。

いま感じていること、
なぜそう思うのか
定期的に「思い」の棚卸しをする

BIZ●じゃ、学生や起業家志望の方向けに講師をお願いしますといった依頼などもあるでしょうね。

木村●多少いただいています。講師というより、経験したことをお話しするだけなんですが。クリエイターを養成するような場があって、そこで講師ではないですが、やらせてもらうことになりまして。そこにいる人たちは将来フリーランスになって何かを作るとか、webサイトを作るとか、モノを作る世界に進みたいと思っている人がいて、そういった方々が新しい事業などを生み出せるように、できる限り協力したいと思っています。と言ってもテクニックや理論はそんなに持っていないので、最初の一歩を踏み出すマインドなどは、共感していただくことがあると思っていて。とくに同じような立場の女性からは、どうやって最初に仕事を獲得したいのかとか、自分もそのような働き方をしたいけれども何から手をつけていいのかわからないとか、そんな話を聞きたいという声が届きます。自分も同じような気持ちだったので、よく分かります。そこを伝えたいなと。

BIZ●でも同じように頑張っているんだけど、どうしてもうまくいく人とそうじゃない人がいたりします。遮二無二前に向かってる時は、頑張れるでしょうけど、失敗が続くと流石に気持ちが折れたりします。

木村●あります。自分で事業を大なり、小なりやってる人は必ず当たる問題だと思うので。

BIZ●そういう落ち込んだ時の立て直す方法って、ありますか。

木村●そうですね、一つはもう壁があると割り切ることですね。あとはなるべく客観的に現状を見ていく。資金の流れはどう管理してるのか、その計画の根拠はどうなっているのかなどを見て、時代に合っているのかどうか、あるいは地域にニーズがあるのかどうかを分析していく。あとは根本的にその商品やサービスに対しての気持ち、好きとか、愛情があるかがすごく大事。何でもいいから儲かればいいという考えだとモチベーションが続かないし、淘汰されてしまうと思います。周りの社長さんを見ていると、本当に熱意で動いている人が多いので、最終的にそこなのかなと。何か失敗や落ち込むことがあっても、立ち直れるのかは、「それが好き」という熱量しかないのかなと思いますね。

BIZ●ただ人によっては自分の思入れが強すぎると、客観的に自分が見えないので失敗するという人もいます。商品に対して思い入れがないだけで、むしろ客観的に見えるとか。

木村●それもありますね。それでうまくいく人もいます。ただ余りに畑が違うことに手を出してチンプンカンプンだったりする人もいるので、自分が知っている、関心がある分野を深堀りした方が事業として伸びる可能性は高いと思います。

BIZ●木村さんは野菜をクレヨンにするというユニークな視点で事業化を実現しました。そういう他の人と違う、差異性を見出すポイントはどうやって身につけたらいいでしょうか。

木村●結構自分がそういった視点や可能性を持っていても気が付かないことってあると思うんです。やはりどこかで自分の武器というものを棚卸しする必要は、さまざまなタイミングであると思いますね。その上でたとえば会社経営者だったら別の企業経営者など、同じような立場の人から、「いまはこんなものを持ってるんだけど、どう活かせるかな」など、意見をもらったりするといいと思います。私も自分の価値観に固執するのを避けるためにいろんな人の話を聞くようにしています。

BIZ●定期的にそういった自分の棚卸しをやったりもしているのでしょうか。

木村●はい。現実に自分がこうしたいと思っていても、なかなか頭で考えている部分と本当の心理って違ったりすると思うんです。そこを乖離がないように、棚卸しをして解消することは必要だなって最近思いはじめています。それでよくスマホのメモ帳などに、いま感じている気持ちや感情がなぜ起きるのかといった疑問や内容を入れるようにしているんです。まだ訓練中ですが、それがいったいどこから来る欲求なのかを探っていくことで、これからどういうことをしなければいけないのかを定期的に整理しています。マインドフルネス的な時間ですかね。

BIZ●へぇー、面白いですね。ちょっと活用させてください。

木村●昔は創業とか起業というとハードルが高くて、特に主婦や女性にとってはなかなか厳しかったりしたと思うですが、いまは逆にそういう人の方がアイデアを持っていたりします。SNSなどを見ていると、みなさんセルフプロデュース力が10年前とは比べものにならないほど向上している。そこで自分のアイテムとか発表できるとあっという間に売れるようにもなるんでしょうし。事業は誰でもできる時代になったと日々、SNSを見ながら感じています。

BIZ●いまはいろいろな働き方や家庭環境の違いもあったりしますから、その差異性を活かしながら、時間にとらわれずに自分の好きなことが新しい価値として社会に生み出せるようになると、世の中もどんどん変わっていくでしょうね。

木村●そういうお手伝いができればと思っています。

BIZ●ありがとうございました。期待しています。

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