COLUMN ビジネスシンカー

  • SHARE
  • LINE
2021.06

【new comer&考察】
自信があるからできる?!”あたりまえ化”するか
「オープンシェア革命」

去る4月14日の夜、NHKの「クローズアップ現代+(プラス)」(クロ現)を観た後、ネットの書き込みが一気に増えた。聞き慣れない言葉だったが、そのキャッチーさに納得した人が多かったからだろう。

クロ現が取り上げたのは、MLBでサイヤング賞候補にも挙がったダルビッシュ有投手と、箱根駅伝の常勝軍団に育てあげた青山学院大学の陸上部の原晋監督である。

ダルビッシュ投手は、かねてよりツイッターやYouTubeなどで積極的に発信している野球選手として知られるが、彼の武器はその多彩な変化球で、持ち球は11種もあるとされる。その秘密をすべて解説入りで紹介している。


また青山学院大学では、その独自トレーング方法を「青トレ」という本にまとめ、出版している。こうしたトレーニング方法やコツなどは、通常は門外不出か、有償で提供されるものだった。しかしダルビッシュ投手も原監督もほとんど無償で提供している。

原監督は「いつの間にか他のチームが強くなってる実感がある」と話し、「しれっとやっていたほうが勝ち続けることができるかもしれない」と本音を語る。‘‘しれっと‘‘せず、メソッドやノウハウをオープンにすることで、「陸上競技全体が底上げされているという実感がある」と述べている。

ボールの握りや投げ方を積極的に明かすダルビッシュ投手に影響を与えたのが、同じMLBのトレバー・バウアー投手だ。

バウアー投手は、ボールのデータにハイスピードカメラでで撮影した映像を重ねる練習法、「ピッチデザイン」を編み出し、有名選手の決め球を徹底的にコピーしてモノにしていったのだ。バウアー投手が画期的だったのはピッチデザインという練習法を編み出したことではなく、コピーしものにしていくまでの映像とデータを公開したことだった。そうすることで投手全体のレベルアップに繋がり、野球全体の成長を促すことになるからだ。

一方打者の打ち方も進化している。この数年野球界で起きているのが、「フライボール革命」。

向かって来る球に対して角度は30度で、打球速度158km/hでバットを当てると、ホームランが出やすくなる。多くのバッターがこのゾーンを狙うようになり、リーグ全体のホームラン数が年間で6,000本を超えたのだった。この画期的なフライボール革命は、実はプロが生み出したものではない。リチャード・シェンクという1人の野球マニアの情熱によって生まれたのだ。シェンク氏は元バーのオーナーで、ホームランの世界記録保持者であるバリー・ボンズのファン。そのホームラン量産の秘密を探ろうと打法を趣味で分析し、判明したのだった。

マニアだからできた、というより、それだけデータ解析がが身近なことになったと言え、機器やソフトを使えば、大概のことが分析できる時代となったということだ。つまり、いま持っている技能やメソッドもいずれ分析され、キャッチアップされる運命にあるなら、早めに公開し、業界全体の成長につなげたほうがメリットが大きいという考え方だ。

先の青山学院大学の原監督も、こうしたオープンシェア革命によってサッカーや野球に行くような有望選手が陸上競技に入ってくるようになったと言っている。

企業もスポーツも、レベルが上がれば、そこに入りたいと思う人、ファンが増え、全体が活性化する。

クロ現では、さらにデータ解析によって人材育成や試合戦略など図っていくデータ解析チームを持つプロ野球の横浜DeNAベイスターズを取り上げている。

横浜DeNAベイスターズでは、データを分析してチームづくりや戦略に活かす、データサイエンスのプロやAIのプロなど数十人の規模の専門チームを持っている。いずれも元自動車メーカーや大学で研究職などについていた専門家で、ほとんど野球経験がない。いわば素人がプロにそのチームづくりや練習法、試合戦略、成長戦略などをアドバイスしているのだ。

こうしたオープンシェア革命は、高校野球の世界にも取り入れられている。広島県の私立武田高校の硬式野球部では、部員が140km/hの球を投げられることを目標に、そのための運動能力基準を設定、そこから導き出された部員一人ひとりの練習メニューに沿って自主的にトレーニングをこなしている。

このやり方では、何を得るためにトレーニングをしているのかという目的・目標が明確になるので、無駄な練習がなくなり、効率よくレベルアップが図れている。部員たちはデータを与えると自分自身で解決策を考えるようになっていったという。ある部員は上半身の筋力をつけるために食事内容を見直し、食後にサプリメントを摂取するようになった。その部員は取り組みを開始してから2ヵ月で条件をクリアした。

資本主義社会では参加プレーヤーが競争することで、市場や社会全体が発展していくという前提があった。しかしそれは時に業界内、企業内での足の引っ張りあいなどに繋がり、成長や発展を阻む要因にもなっていた。考えてみれば、個人のものだと思っているノウハウやメゾットも、誰か先人が生み出し、引き継ぎ、改善し続けたものなのだ。

個人が抱え込む時代は去りつつある。いかにいい情報を共有し、実践に反映していけるか。データを共有し、そのズレや事象の原因を探り、課題を解決し、成長に導くためにも、オープンシェアの思考はますます求められていくに違いない。

  • LINE