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イマドキのリサイクル事情ってスゴイ!

SDGsがビジネス界を席巻している。SDGsとは、国連が提唱する持続可能な社会実現していくために企業、市民が取り組むべき目標として設定された17ジャンル、169のターゲット項目のことを指す。

17のジャンルだけでも大変なのに、169もの項目をクリアするなんて…。会社が倒産してしまう! と叫びを上げなくても大丈夫。このなかの1つでも2つでも会社の事業やふだんの生活などで取り組むことができれば、それだけでも十分SDGsの仲間として認められるので…。

逆に言えば、169もの項目を立てれば、何かしらできることはあるだろう、というのが、このSDGsの趣旨。

テーマとしては、貧困や差別、教育格差、ジェンダー平等など現代の人権問題、労働問題などが入っているほか、クリーンエネルギーや海の豊かさ、陸の豊かさなどといった、割と昔からの環境問題があがっている。

このエネルギー問題、環境問題は20世紀から引き継いだ割と古い問題で、ある程度すべきことは明確で、社会にも浸透している。

なかでも資源のリサイクルについては日本の取り組みは先進的であり、社会にも定着している。だからなんとなく、目新しい技術や事業など、ないのでは? と思いきや、リサイクルはどんどん進化している。しかも結構意外なカタチで。

いくつか紹介しておこう。

●デニムのサングラス「MOSEVIC」

多くのリサイクル事業でも衣類は、さまざまな企業がさまざまなカタチで取り組んでいるが、イギリスの発明家であり、スタートアップ「MOSEVIC」の創設者であるジャック・スペンサーさんは、デニムをリサイクルしてサングラスのフレームに利用するビジネスを開始した。彼は知人のデザイナーから、廃棄されるデニムをカーボンのように強化して洒落たサングラスに変えるアイデアを約10年ほど前に受け、デザインや強度など、納得できる商品にするまで、9年をかけてきた。

彼はいわゆるファストファッションを展開するブランドが、カーボン・オフセットに取り組んでいることを知ってはいたが、それだけでは、「地球やウミガメを救うことにはつながらない」と考えていた。

MOSEVICのサングラスは、廃棄されたデニムに樹脂を注入し強化したもので、デニムのタフさをさらにタフにし、ソリッド感を演出。レンズにはドイツのカール・ツァイスが使われて、デザインフルでラグジュアリーな商品になっている。

●旅客機の廃棄シートや
エンジンパーツから生まれた
デザインバッグや家具

コロナ禍で大きなダメージを受けている航空業界。飛ばない飛行機が空港に駐機したままの状態が続く光景を見るのは、物悲しい限りだ。再び世界中に自由に旅行できる日が待ち遠しい。そればかりか、このダメージを受け、日の丸ジェットとして進められてきた三菱航空機が開発を凍結した。航空機は日本のものづくりの新たな柱として期待されていただけに、今後の影響は計り知れない。

一方このタイミングで引退する現役機も多い。データ会社のシリウムによると2016年以降、引退してきた航空機は毎年400 〜500機程度だったが、2023年までに年間1000機に増えると予想している。

また同じくコンサルティング会社のNAVEOの調査では、運行しないまま、再開しない飛行機が2019年の680機から2020年には2000機に増えると予想している。こうして引退を余儀なくされた飛行機は、解体されて使える部品が中古市場に回っていくことになる。これはこれでリサイクルになるわけだが、客席のシートなどはリサイクルされるよりは、マニア向けのマーケットなどに放出されるか、廃棄処分される率が高い。

イギリスのファッション&インテリアメーカーのPLANEindustryは、その名の通り、飛行機のパーツを再利用してバッグや家具、時計などのセンスあふれる商品に生まれ変わらせている。

2016年にクラウドファンディングによって誕生したバッグは、飛行機の座席に使われたシートカバーを使用した、限定商品。気が利いているのが、いずれもどの機体のどこのシートを利用したという”出自”がわかるだけでなく、そのシートが何カ国、どのくらいの距離を移動し、どのくらいの高度で、平均時速何kmで飛行したという記録を表示したタグもついているのだ。

ファッション性だけでなく、誕生した時から語るにふさわしい「物語」が染み込んでいるのだ。同社では、ほかに機体の部材を使った時計やテーブル、ライトなどをソリッドでレトロフューチャーなテイストで創り出している。

●廃棄野菜から生まれた、
食べても安心なクレヨン

食品の廃棄ロスに対する関心がさまざまなカタチのビジネスを創り出している。青森県に本社をおくMIZUIROは、廃棄される野菜からカラフルなクレヨンを開発し、国内だけでなく海外でも展開している。

創業者の木村尚子さんは、地元青森のデザイナー。子育てをしながら仕事をしている時に、地域の農家との交流などから野菜の魅力を広げたいと考えたこと、子どもと一緒に楽しめる時間をつくりたいとの思いから、青森県の藍染の技術にヒントを得て、野菜の煮汁を使ったクレヨンを思いついた。商品開発や事業化などについては全く知識がなく、手探りでの開発だったが、青森県の助成金を得て、2人のスタッフを雇用して試行錯誤を繰り返していた時に出会った名古屋のクレヨンメーカーで事業化が大きく前進、製品化にこぎつけた。

MIZUIROの原材料は加工時などに廃棄される皮や外葉、規格外品で、特産のりんご、とうもろこし、ごぼう、キャベツ、ねぎ、人参、カシスなどが使われている。同社では現在、野菜だけでなく、米や花を使ったクレヨン「おこめのクレヨン」「おはなのクレヨン」、野菜を使った粘土「おやさいねんど」などを販売している。

●入れ歯のリサイクルで、
世界の子どもたちを救う

今でこそ少ないが、昔のお金持ちは金歯を入れる人が多かった。今は……。昔ほどではないが、入れ歯は貴金属の宝庫だ。宝庫というと言い過ぎかもしれないが、かなりの量が含まれている。金や銀、バナジウムなど、レアメタルが部分入れ歯で平均5g入っているという。

ざっくりいうと1個当たり2,500円ほどの価値がある。しかしその多くが持ち主の死去とともに「死蔵」されたり、あるいは廃棄されることが多かった。このためこれをリサイクルしようという動きが2000年代から高まった。2006年にNPO法人、「日本入れ歯リサイクル協会」が設立され、そのリサイクルが進んでいる。同協会は各自治体にリサイクルボックスを設置するほか、協力する歯科医院にも置いてもらっている。同協会では貴金属精製会社に持ち込み、これを現金化し日本ユニセフ協会などに寄付している。現実的には1個あたりの精製コストは収益を上回るが、これを一度に大量に集めてコストダウンを図り、収益化している。

ユニセフによれば、1個あたり入れ歯の収入で、マラリアから身を守る蚊帳が4張、寒さから身を守る毛布7枚、勉強するためのノートと鉛筆を約46人分などが購入できるという。

入れ歯だけでなく、虫歯の詰め物や被せ物などに使われる金属も貴重な資源となる。歯はいろいろな意味で大切なのだ。

●使用済み紙おむつは
リサイクルで新品に

紙おむつは、現在ほとんどの乳幼児を持つ親が使う定番アイテムとなっているが、子どもが一人でトイレに行けるようなると途端に不要になる。だいたいお母さん、お父さんはスーパーやドラッグストアで数十着入のお値打ち品を買っているので、紙おむつが余ってしまうことが多々ある。そういった紙おむつなら、メルカリで売れば確実に売れるだろう。これはリサイクルではなく、リユースだ。日本はリサイクル技術、文化は進んでいるが、リユース文化はヨーロッパに比べて進んでいなかった。そこでというわけではないが、環境省が使用済みの紙おむつのリサイクルのガイドラインをつくり、再利用を促した。背景は、子ども向けの紙おむつ消費の問題より、大人向けの紙おむつ問題があった。少子高齢社会を受け、年々大人向けの紙おむつの消費は上昇しているが、その9割が焼却されているという。使用済み紙おむつは水分を含んでおり、そのため焼却には通常使用しない助燃剤が使われる。また紙おむつは吸収性を高めるため、プラスチックなどを使用。これが焼却の際に炉を痛めるという問題があった。

こうした要請を受け、業界トップのメーカー、ユニ・チャームは2015年から事業化に取り組んでおり、2019年に再利用できるまでの技術を開発。現在業界全体に普及すべくコンソーシアムの設立を進めているほか、この10月には、2030年まで、全国10 ヵ所のリサイクル拠点の実現する予定だ。

●腐りかけた残飯をつかった
廃棄物ビール

フードロス対策が話題だが、イギリスのクラフトビールメーカーのNorthern Monk Breweryが生み出したビールは、食べ物の残飯。しかも腐りかけた洋梨や賞味期限のクロワッサンなどを使ったもの。もともと同社オリジナルの発想ではないようで、賞味期限の食品を提供するプロジェクトThe Real Junk Food Project(TRJFP)がオープンさせたカフェに感銘を受けて、「WASTED(廃棄物)」を発酵させて完成させた。醸造過程で出るホップや麦芽カスは、農家に寄付して堆肥などとして使ってもらう。完全クローズドのリサイクル。

製法からすると洋梨を使ったエール。味は、非常にバランスが取れており(信じられないくらい)、ほのかな果実味を感じる、とイギリスの保守系メディアのガーディアンが報じていた。それにしても原材料に堂々と「廃棄物」「残飯」と印字されたビールを出されたら、誰が飲むだろう? 感覚としては日本の納豆を「腐った豆」と紹介する外国人のようなものだろうか。

日本でもできそうだ。

●廃棄野菜を染料にした
「フードテキスタイル」

一方、スポーツシューズブランド、コンバースは廃棄野菜を染料に利用してカラフルなスニーカーを商品化している。この染料を提供しているのは、名古屋市の豊島という繊維商社。同社は野菜から抽出した染料を使った素材や商品を「フードテキスタイル」ブランドとしてメーカーに提供している。現在までに15の農家や食品関連企業と提携、靴や衣類をはじめとするさまざまなファッションブランド商品として世に送り出している。フードテキスタイルの魅力はなんといってもその色の数。50の食材から500色のバリエーションを生み出している。

●ナイキのスニーカーは、
廃材でつくられる

グローバルブランドのナイキは、ある意味最もSDGsに敏感な企業の1つかもしれない。ナイキの工場はベトナムやインドネシアなどの低賃金国に置かれており、その従業員待遇が劣悪で、NGOなどに指摘され大きな問題となっていた。現在、ナイキは労働環境改善などに積極的に取り組んでいるほか、「Move to Zero」をスローガンに掲げ、炭素排出と廃棄物ゼロを目指した「サステイナブルな商品開発にも意欲を見せている。今年8月には自社工場から出た繊維などの廃材を50%以上使ったブランド「ナイキ スポーツウエア リサイクルド キャンバスパック」のシューズやウエアを発表した。全体的にアースカラーが目立つ、落ち着いた色だが、カラフルな色に慣れているファンには好評のようで、クールとの声も挙がっているようだ。

●卵の殻を徹底的にリサイクルする
キューピー

食品リサイクルは、さまざまな企業がいろいろな商品や事業で展開している。マヨネーズで知られるキューピー。製造工程で残った卵の殻は年間で2万8千トンもあることから、早くからその卵の殻の利用法にはアイデアを絞ってきた。

キューピーでは殻が含む高いカルシウム成分に着目。土壌改良材として提供するほか、またカルシウム強化材として乳幼児向けの栄養食品の原料に使っている。またその色から石灰の代わりにグランドに線を引くためのフィールドライン、エコチョークなどに商品化。エコマーク認定やグリーン購入法適合商品ともなっている。

このほか、砕いてスタッドレスタイヤやゴム底靴の材料などの工業製品原料としても使われている。また近年は殻の多孔質構造に着目した壁材としても利用されている。

さらに卵の殻の内側の卵殻膜は、アミノ酸など成分を豊富に含んでおり、コクを出すために同社のドレッシングなどにも使われている。

卵に限らず、生き物が生み出すものは、ほとんど無駄がない。アイデア次第で、まだまだリサイクル利用できそうだ。

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