COLUMN ビジネスシンカー

  • SHARE
  • LINE
2020.06

【new comer&考察】
苦肉の策か新市場か
コロナで広がるリモート・オンラインビジネス

コロナ禍という言葉が定着しつつある昨今。逆境をチャンスに変えようとする人たちもいる。キーワードは「リモート」と「オンライン」だ。

まず、思い浮かぶのが「オンライン呑み会」である。最近は代表的オンライン会議ツール「Zoom」を接頭語につけた「Zoom呑み」も一般化しているが、このオンライン呑みをビジネス化した会社もある。

東京のWebサービス会社「1010(じゅうじゅう)」は、オンライン呑み会サイト「たくのむ」を提供している。もともと遠く離れた人をつなぐツールを考えていた社長の清瀬史さんが、新型コロナウイルス感染症による自粛要請を受け、急遽サービスを開始した。

特定のツールに依存することなくパソコンやスマホがあれば、登録して時間になったらURLをクリックするだけですぐに使える。お開き時間も設定でき、8人まで無料だ。

緊急事態宣言が明けても、コロナの終息宣言が出ない限りは、居酒屋なども平常運転とはいかないだろう。とくに人との距離が近い狭いスナックなどは常連でも敷居が高くなっているのではないか。さらにスナックにつきもののカラオケも、あまり大声で歌うことが憚れるご時世、利用しにくいだろう。そういったスナックのママの救世主となっているのが、「オンラインスナック横丁」だ。手掛けたのは地域のブランディングなどを手掛ける「Make.合同会社」の五十嵐真由子さん。自ら「スナック女子=スナ女」として、全国のスナックを回るスナック通。知り合いのスナックの惨状を見て急遽このプラットフォームを起ち上げたという。もともと楽天でPR部門を担当していたこもあり、ノウハウはあったが急ごしらえでどうなるかは不安だったようだ。

料金は2500 〜3500円で、予約制。プランも「ママと1対1」、他のお客様との相席の「フリー」、「貸し切り」がある。事前にサイトのカレンダーに予約を入れてクレジットやPayPayなどのキャッシュレス決済などでチケットを購入する仕組み。オンラインだけに北海道から九州までと日本各地だけでなく、アメリカなどのスナックも出店しているのもオンラインらしい。

サイトにはママや店主の顔と店の様子などがわかるので、スナック初心者でも割と気軽に入店しやすいようだ。酒は自前となるが、酒が飲めない人でも、スナックの雰囲気を楽しめる。敷居が低くなった分、さまざまな人が入店できるようになったが、あまり雰囲気を乱したり、迷惑な行為をする人については、店からの追い出し機能もある。

出店しているママは、アフターコロナの状況を見てリアル店舗に戻す予定だというが、週末など曜日を限定してオンラインスナックを続けたいというママもいる。アフターコロナではスナックのリアルとバーチャルの融合が進んでいくかもしれない。あるいはママとちいママがリアルとオンラインをシフトを変えながら店を回していく、というケースも出てくるかもしれない。

一方、馴染みのアノ店に行きたいが、外出が憚れるという人に対しては、馴染みの店の食事と空気感を自宅で楽しめるサイトも出てきている。アプリ開発を行う株式会社iTANと、東京にこだわらない働き方を支援するシビレ株式会社は、家にいながら飲食店の味や空気感を体感できる「イキツケ」を開発。全国各地の飲食店の逸品を自宅で楽しみながら、実際のお店と同じようにお客さんと交流できる、新しい体験を提供している。

イキツケでは、登録して予約すると予約した時間までに食事や飲み物などが届き、オープンの日時に、オンラインで他のお客と一緒に食事などを楽しむことができる。飲食店が中心だが、陶器店やプログラミング講座などイベントなどの店もある。

政府や東京都の「Stay Home」の掛け声で進んだ自宅のリモートオフィス化。会議や打ち合わせをZoomやMeetなどの専用アプリを使ってリモートで行うスタイルは、かなり定着しつつある。ただ自宅にこもって仕事をし続けるのは、慣れないとうつにもなりかねない。気分転換にどこか別の空間で仕事をしたい、というニーズもじわじわ出てきている。こうしたニーズを取り込んでいるのが、ホテルや旅館の「テレワークプラン」だ。

東京渋谷に本社を置く、温泉コム㈱は、貸し切り温泉のある温泉旅館を紹介するサイト「貸切温泉どっとこむ」を運営しているが、「温泉テレワーク」と称した特集を組み、テレワークが可能なWi-Fi環境の整っている旅館を紹介している。紹介する宿の温泉は貸切であるため、密を避けることができる。旅館やホテルのリモートオフィス化は各所で進んでおり、老舗旅館でもWi-Fi設備を謳うところが増えてきている。

緊急事態宣言下では県をまたいでの移動制限を要請していた自治体も多く、地方の宿泊施設は大ダメージを受けた。リアル宿泊は無理でもオンラインなら気分は味わえる......ということで、オンライン宿泊を始めたのが、和歌山県のゲストハウス「WhyKumano」だ。

1泊1000円。先の「オンラインスナック横丁」と同様に予約を入れ、予定の時間になると実際にあるラウンジに集まったような感覚で、画面上でオンライン呑み会が始まる。定員は1日6人ほどで、話題性もあって連日満員という。宿泊代には実際に宿泊時に使えるワンドリンクがついている。いずれ、当地を訪れてほしいという願いもこめられた価格だ。オンライン宿泊の試みは神戸など全国でじわりじわり広がりつつあるようだ。

医療機関でもオンラインが広まっている。オンラインでの診療である。オンライン診療は厚労省が進めていた医療改革の一つだが、新型コロナで一気に広まった。オンライン診療は、患者が直接医療機関に行かず、スマホやPC、電話などを通じて医師の診察を受ける方法。医療機関によって初診は直接足を運ぶ場合と、初診からオンラインで対応する場合がある。診察を受ける患者は事前に予約を入れ、診察券や保険証のコピーをFAXまたはメール添付する。診察時は医療機関側から電話やオンラインアプリなどのアドレスが送られ、それをクリックすると診察が始まる。診療後は薬が必要な場合は処方箋、または薬を問診票に書いた住所に郵送されることになっている。薬の到着には若干時間がかかるが、クラスターになりやすい病院などに直接出向かなくても受診できることは、かなり安心だ。

スポーツでは、プロや専門家の指導のオンライン化が進んでいる。こちらも前出のスナック同様、ハードルが下がり、オンライン化することで授業や指導を受けやすくなっているようだ。サッカーや野球、テニス、陸上、バスケットなど人気競技はもとより、ふだん馴染みのない居合などもオンライン指導がなされている。ただ居合の場合は、人気アニメ「鬼滅の刃」の影響も色濃いようだ。

新型コロナで進む「オンライン化」「リモート化」。総じていろいろなサービスや体験がこれまで以上に間口が広がりアクセスしやすくなっていることは、一般消費者にとっては歓迎すべきことだろう。

一方企業側や団体側の視点に立てば、事業のオンライン化、リモート化はいずれ起こる新たな大災害時の新たなBCPとして捉えていいし、事業の新たな柱として育つ可能性もある。

オンラインやリモートの半仮想空間での体験は必ずリアル体験を求めてくる。その導線だけはしっかり引いておいたほうがよさそうだ。

  • LINE