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続々取り入れられる「パワーナップ」

 午後イチの会議に出たら、睡魔に襲われ、つい船を漕いでしまって部長から「気合が入っていない!」と大目玉を食らった……。
 「だいたい部長のプレゼンが要点がつかめず、ダラダラと長いのが悪いのに」
 と、独りごちたアナタ、深く同情する。
 この場合、部長のプレゼンスキルの問題もあるが、午後一番に設定された会議にも問題があるだろう。
 つまり、昼食後はだいたい眠気が襲うものだから、だ。

午後眠くなるのは当然の生理現象

 食事をするとその消化のためにエネルギーが使われる。食事は生命のエネルギー源でありながら、それ自体にエネルギーを使うというなんとも効率の悪いシステムとなっている。だいたい平均で1600kcalを使うと言われている。どんだけ使うんだ!と驚かれた方もいるだろう。
 食後眠くなる原因の1つは、消化のために血が消化器官に集中し、脳に血が回らなくなることだ。もう1つは消化のため、とくにご飯や麺などの糖質がブドウ糖として血液を巡って血糖値が上がるからだ。ブドウ糖が脳や体のエネルギーとして使われ出せば血糖値が下がってくるので、眠気から解放される。
 つまり、昼食後の眠気は生理現象なのである。だから眠くなったときは無理に抵抗せず、寝たほうがいいのだ。学生時代、徹夜で試験に臨んだときに頑張った割に思った成績が取れなかったとしょげてしまうのは、体の生理現象に無理にあらがってパフォーマンスが悪いときに試験本番に挑むことになるからなのである。
 そこで注目されているのが、昼寝だ。

専用ボックスで「パワーナップ」ができる三菱地所

 昼寝はよく午睡などとも表記されるが、意味が違う。午睡はその意志もないのに、無意識に眠ってしまう「うたた寝」で、昼寝は自らの意思で眠ることだ。
 昼寝は、日がな農作業を行う農家や建設現場で働く人たちがよく行っている。主に体を動かす人や、そういった現場に多かったが、最近いわゆる事務系、営業系でも昼寝を積極的に取り入れる企業が増えている。
 たとえば、不動産デベロッパー大手の「三菱地所」では2018年から、就業時間中、30分の仮眠を認める「パワーナップ制度」を導入している。専用の仮眠ブースを男性用3ブース、女性用3ブースの計6ブースを設け、利用者はオンラインで予約し、利用する。ブースにはリクライニングチェアとアルコールティッシュ、耳栓が用意され、リクライニングチェアはほぼフラットにまで倒れる。また照明も調整でき、完全に消灯もできる。1日平均10人ほどが利用し、時間帯としては11時30分から13時30分が多いという。利用者はいずれもパワーナップ後の生産性の高さを実感しているとのこと。

GMOインターネットグループは昼休み時間、
会議室を昼寝室に

 またさまざまなインターネットサービスを提供する「GMOインターネットグループ」は、会議の少ない昼の時間に会議室を開放し、昼寝スペースとして活用している。
 「LOHAS studio」のブランドで自然素材を使用した、住む人や環境に優しい住宅づくりを提供する総合住宅建設会社の「OKUTA」でも「パワーナップ制度」を導入、「眠くなったら寝てもよい」というルールのもと、眠気に襲われたら自分の机や、営業中の車のなかなどで自由にパワーナップを取ることができる。

パワーナップを取り入れる世界的企業

 日本人はOECD諸国のなかでも睡眠時間が短いとされ、この短さが健康を損ねたり、生産性低下の一因となっていると指摘されていた。溜まった睡眠不足を「睡眠負債」という言い方をして、厚労省もその解消を推奨してきた。
 同省の2015年の「健康づくりのための睡眠指針検討会報告書」のなかでは「午後3時前の20 ~ 30分の短い昼寝でリフレッシュし、うまく午後の眠気をやりすごすこと」が推奨されている。
 昼寝は睡眠負債に有効とされてきたが、パワーナップは従来の昼寝とはいささか違う。日本語では「戦略的仮眠」と訳されるように、より効率的にクリエイティブに仕事を実現していくための人材活用術、事業活性化の一翼を担っているのである。

26分のパワーナップは認知能力を34%、
注力を54%向上させる

 パワーナップは、アメリカの心理学者ジェームス・マース氏が提唱して以来、「グーグル」や「P&G」、「NIKE」、「Zappos」など世界的企業では当たり前化している。
 一般にパワーナップを取り入れると
1)仕事の能率が上がる
2)前日の疲れが取れる
3)脳のクリエイティビティが向上する
4)ストレスが減る
5)病気のリスクが減る
などの効果があるとされる。
 NASAによる検証では、昼のパワーナップは認知能力を34%、注意力を54%上昇させるという結果が出ている。そのため、米国だけでなく日本企業、さらには学校などでも制度としての導入が増えている。

昼寝を導入した福岡の高校は
大学入試センターの成績がアップ

 福岡県の県立明善高等学校では、昼食後15分の昼寝を取り入れたところ、大学入試センターの成績がアップした。もともと明善高等学校は福岡県を代表する進学校で、大学入試センター試験の平均点は全国の1.14倍から1.16倍ほどだったが、昼寝導入後は1.20倍まで上昇した。
 また2020年には千葉県の千葉市立稲毛高校の生徒が千葉市長に対して、学校のカリキュラムに昼寝の時間を導入する提案をしたところ、市長賞を受賞している。こうしたパワーナップの浸透に従い、関連市場も拡大している。

パッケージを提案する西川、
立ったまま眠れる「ジラフナップ」の広葉樹合板

 寝具メーカーの老舗、「西川」では、企業に「西川のパワーナップ・パッケージプラン」として「ちょっと寝ルーム」の導入を提案、施工設計のサポートを行うほか、定期的な睡眠学習セミナーや睡眠のプロによるパーソナルフィット、睡眠環境アドバイスの提供を行う。このほか西川では、そのノウハウを生かしたパワーナップ専用のピロー「konemuri(コネムリ)」を発売、人気に伴いさらにブラッシュアップした「konemuri(コネムリ)+」を展開している。

 合板の販売を手掛ける北海道旭川市の「広葉樹合板」では、北海道大学との共同でなんと立ち姿勢で眠れる公衆電話ボックスサイズの仮眠ボックス「ジラフナップ」を開発した。胸の上にあたる位置に設定された小さめのテーブルの上に頭と腕を乗せ、尻と膝を支えることでほぼ立ち姿勢で仮眠ができるという。
 今年の8月には「ネスレ」とコラボで「ネスカフェ 睡眠カフェ」のイベントも開催している。

 パワーナップは30分以上の睡眠は深い眠りに陥るため却って逆効果になるとされる。そのためスキッと目覚めるために事前にコーヒーなどのカフェイン摂取が有効だとされ、ネスレ側はここに商機を見出そうとしている。
 またシェアオフィスを手掛ける「COMOTIZE」では、20分間のパワーナップ専用チェア「エナジーポット」を設置したシェアオフィスを展開している。エナジーポットは、アメリカ企業が開発したパワーナップ専用チェアで、人間工学を追求したシートやドーム型のバイザーなどのデザインで20分の仮眠を最高にできるという。

 着実に広がるパワーナップ市場。とりあえず会社として試し導入で効果を測ってみるのはどうだろう。

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