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妄想学がイノベーションを起こす?!

 いまのアナタに足りないのは妄想する力かもしれない―。
 妄想する力が注目を集めている。妄想は“推し活”をする人たちの原動力だったり、青春真っ盛りの中高生の背中を押すドライバーだったりする。だがビジネスで使うとあまりポジティブには受け取られないことが多かった。一般社会でも「被害妄想」など、ネガティブな用語として使われることが多い。

妄想力は混迷の時代を「突破」する「スキル」

 しかし、この妄想する力を鍛えることで、混迷の時代の突破口を開こうという試みがある。吉野家のCMOを務め、営業戦略や企画戦略のコンサルなどを手掛ける株式会社グリッドの代表の田中安人さんは、妄想こそが答えのない時代を突き進むための突破力となるといい、突破するための「スキル」だという。
 田中さんは『妄想力 答えのない時代を突き進むための最強仕事術』という本を出して、妄想力の可能性を説いている。
 従来の突破力は、論理的世界のなかから生まれてきたが、過去からいきなり“跳ぶ”までにはいたらなかった。シュンペーターのいうイノベーションはいわゆる技術革新ばかりを意味するわけではないが、過去の延長の先に見えてしまうような変化は、イノベーションとしてのインパクトに欠ける。
 企業経営が口を揃えるイノベーションは、破壊力のある、いわゆるディスラプティブなイノベーションだ。
 その震源となるのが妄想で、その力が強ければ強いほど、社会にインパクトを与えることができる。

妄想を体系化し、イノベーションにつなげる
「妄想学」プロジェクトも誕生

 その妄想力を学問として体系化し、効果的にイノベーションにつなげようという動きもある。
 東京都内に本部を置く「一般社団法人妄想からアイデアを共創する協会」と「情報経営イノベーション専門職大学(iU)」、「株式会社要」は、イノベーションを生み出すための「妄想学」を提唱。妄想学を通じたイノベーション創出を図る手法を確立する共同研究プロジェクト(PJ)を展開している。
 この研究PJは、3カ年計画で、①妄想学のカリキュラム化、②大学での授業実態と企業向け講座での実施を通じてケーススタディの蓄積、③妄想起点のビジネス創発とオープンイノベーション創出のためのコミュニティ形成を行うという。
 妄想学は妄想を起点に「アイデア発想法」と「コミュニケーション法」「コラボレーション法」、「妄想を取り入れるマネジメント法」、「妄想起点のコミュニティ形成手法」の5分野にまたがり、構築される予定だという。

人類のはじめに「妄想革命」あり

 イスラエルの人類学者、ユヴァル・ノア・ハラリは、その主著「サピエンス全史」において、われわれ人類が、その他の多くの類人猿から抜け出して地球に君臨する存在となり得たのは、人類が3つの革命をモノにしたからだとしている。
 3つの革命とはすなわち、500年前の科学革命、1万2000年前の農業革命、そして7万年前に起った認知革命である。ハラリの知がユニークで革新的であったのは、この7万年前に起こった「認知革命」というコンセプトである。
 認知革命とは眼前に存在しないモノや概念的なものを共通に理解する能力のことだ。代表的なものは現在に続くさまざまな神の存在である。
 1人が「神的なものがいるよね」と言って(言語とは限らない)、「うん、いると思う」とその概念が共有された時、われわれ人類の祖先がその他の類人猿から明らかに抜け出したのは確かだろう。つまりそこにない「虚構」「妄想」を共有する能力が備わった時、われわれの祖先の進化は加速したのである。ハラリ氏のいう認知革命は換言すれば「妄想革命」なのだ。
 本来羽を持たない人類が空を飛びたいと妄想し作り上げたのが、機械仕掛けの飛行機というものであり、飛行機が一旦当たり前となると、宇宙空間に行きたいと妄想してロケットを生み出した。
 川や海で濡れればなんとか移動できる人類が、濡れずに移動したいなと妄想してつくったのが船という存在で、それはやがて本来浮くはずのない鉄という頑丈な物質でつくりあげた巨大なタンカーや客船になった。
 何かと話題の多い、テスラの創業者のイーロン・マスク氏が目指しているのは、人類の火星移住であり、その先には銀河系の惑星に1兆人の人類が住むという妄想がある。だから、4万個の衛星で地球を覆い尽くすスターリンク構想も彼の妄想のごく一部に過ぎない。

 妄想力を鍛えて誰もがマスク氏になれとは言わないが、少なくとももっとビジネスシーンで妄想を語り合う場があってもいいのではないか。
 少なくとも義務感のように「イノベーション」の御経を唱えるくらいなら、まずは妄想を育てる空間をつくろう。なんなら妄想をまとめる「妄想部」を会社のセクションにつくってはいかがだろう。

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