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チャンスを活かす!ピンチを切り抜ける!大人が知っておきたい「ビジネスの法則」

 どんな業界にも「オキテ」や「マナー」といったものがある。しかし業界を超え、ビジネス全般に通じる法則があることもわかってきている。書店のビジネスコーナーを覗けば、「●●の法則」「▲▲のルール」と言ったタイトルの本が並ぶ。

 こうした法則は自然科学の法則のように、絶対的なものではない。それゆえ、「こうしたビジネス法則やルールはあてにならない」と決めつける人もいる。

 しかし自然科学のような厳格性はないにしても、よく耳にするものは長年にわたってビジネスのなかで”概ね妥当”と判断されてきたからこそだ。事実その法則を知ってるのと知らないとでは、ビジネスに確実に影響が出てくる。

またよく耳にしている法則でも、実はその内容がどういうものであるかは、よく理解していなかったり、その解釈が変わっていくものもある。ビジネスは時代に合わせて進化するが、不易流行という言葉があるように、変わるものと変わらぬもののバランスでできている。

 時代の先を見据えながら、変化に対応できるよう柔軟な思考を身につける上でも押さえておくべきビジネスの法則をいくつか紹介してみる。

①「パレートの法則」

「ニッパチの原理」として
日本製品の品質向上に貢献した
2対8の原理

 「パレートの法則」と聞いて、すぐ「アレのことだ」と分かる人は、日頃からビジネス書に親しんでいる人だろう。「2対8の法則」や「20対80の法則」などと呼ばれるものだ。

 パレートの法則とは、19世紀末に活躍したイタリア人経済学者、ヴィルフレド・パレートによって発見された法則。当時パレートが、ヨーロッパ諸国の所得や資産を分析したところ、どの国も上位2割の人々が国民全体の8割の富を専有していたことが判明したのだ。

 パレートがユニークなのは、その法則を自然科学や社会学的な視点でも検証していることだ。庭の「さやえんどう」を観察して、さや全体の8割に身が詰まっているさやえんどうは全体の2割にとどまっていることや、母国イタリアの国土の2割に8割の人が住んでいることなどを発見、2対8の法則性がさまざまな分野で適用できることを発見していったのだ。

 パレートが発見した法則をビジネスの世界で一躍有名にしたのが、アメリカの経営学者ジョゼフ・デュランだ。

 デュランは、経営に科学的な品質管理を導入した人として知られている。彼はパレートの2対8の法則が「発生頻度上位2割のミスが、8割の損害を与えている」という品質管理の法則にも当てはめられることを発見し、これをTQC(総合品質管理)の改善手法として多くの企業に説いて回った。

 日本では1950年代に導入され、「ニッパチの原理」として、当時低品質に悩んでいた日本企業の品質改善に大きく貢献した。つまりデュランは現在の「メイドインジャパン=高品質」の礎、ものづくり日本の基礎を築いたとも言えるのだ。

 デュランが説いた2対8のインパクトは、日本の産業界のみならず、当時の経営学の常識をも変えた。というのも日本企業は、デュランの「2対8」の品質管理によって、品質だけでなく生産性も上げたからだ。

 それまでの経済学では生産性を高めるには、1)資本の投下、2)労働の投下、3)技術発展のいずれかが必要とされていた。つまりお金をかけるか、人を増やすか、技術革新を起こすか(新技術を導入するか)のいずれかがないと生産性は上がらないというものだった。

 しかし日本では、1960年代に入ると設備投資が大きく伸びていないにもかかわらず労働生産性が伸びていったのだ。これは労働生産性向上のかなりの部分を品質管理が担っていたということができ、この成果によって品質管理の重要性が世界中に広がったのだ。

原因を2割解決すると8割の問題が解決する

 パレートの原則は、その後もさまざまな分野で応用されている。

 代表的なのは「売れ筋の商品の2割が、売上全体の8割を占める」、あるいは「売上の8割は全顧客の2割が占めている」という販売の法則だ。これはおよそBtoCのどの業界にもほぼほぼ当てはまる法則だ。もし売上をしっかり確保したいなら、2割の顧客に受ける企画やキャンペーンを展開したほうが効果的だということだ。いまはターゲット分析とそこへのアプローチ法がいくつもあるが、大きくはずれないという点ではもっとも有効な法則と言える。

 2対8の法則は、問題が起こった際の原因解明や効果的な改善策の原則としても使われている。

 たとえば、「苦情の8割は2割の顧客から出ている」といった法則や「企業で起こる問題の8割は2割の従業員が起こす」、「故障の8割は部品の2割に原因がある」という法則などだ。

 これらの法則は、問題の要因となる2割の対策をしっかり行えば、問題の大半となる8割が改善できることを意味している。さらに「2対8の法則」は次のような場でも適用、応用されている。

●日常着ている服の8割は、お気に入りの2割で構成されている
●仕事で効果的な時間の使い方は、自分が最も得意とする2割の仕事に集中し、ほかの8割の仕事を他人に任せる
●自分の役に立つ人脈は、全体の2割にすぎない
●ながら勉強で学ぶ語学で耳に残っていくのは全体の2割
●売れる営業パーソンは商談の時間の8割を聞くことに専念し、2割で質問する

 さらにはこんな2対8もある。

●ビールと泡の割合は、8対2が一番美味しい
●蕎麦は蕎麦粉が8割、小麦粉が2割の二八蕎麦が美味しい

 このあたりは人によっては異論が出るところだが、ここまで来ると2:8の比率が森羅万象に通じる科学の法則にも思えてくる。

 もちろん2対8の法則は、必ずしもその割合で現れるというものではない。1.5割対8.5割であったり、3対7であるかもしれない。

 実際パレートが19世紀末にヨーロッパ諸国の富の偏在に気づいた時には2対8だったが、21世紀を迎えた今、その偏在はより偏っていることは周知の通りだ。稀代の天才経済学者も現在のような富の偏在を想起することはできなかった。代わってトマ・ピケティのような学者が活躍するわけだが…。

 ただビジネスや社会において「少数の原因が多数の結果を起こす」、あるいは「たくさんの事象も元は少数の要素から生まれている」ということは、かなりの確度で言える。

②「2:6:2の法則」

パレートの法則から発展。
普通の従業員にフォーカスを!

 パレートの法則がこれほどまでに浸透した理由として、この法則を敷衍して別の法則を生み出しているところにある。それが「2:6:2の法則」だ。

 「2対8」の原則では、「2割のすぐれた社員が8割の売上を生み出す」というものであるが、この8を分解すると、6が平均的な売上で、残り2割はあまり売上に貢献しないという法則となる。これはある程度の規模に達したどんな集団にでも当てはまる法則と言われている。経営者には押さえておきたい法則の1つだ。

 つまり経営がはかばかしくないからと仮に下位の2割を辞めさせたとしても、残った社員にのなかに2対6対2という集団が形成されてしまうのだ。これは逆も言えて、上位の2割が辞めても残った8割のなかで2:6:2の集団が生まれてくる。

 2対8の法則では2割の対策・対応に集中することが大事だと言われている。効果を上げるのであれば、よくできる2割の能力をさらに引き出すのか、ダメだと言われる2割を引き上げるのか、ということになる。

 しかしある経営学者は最も多い6割の人材を活用することが重要だと指摘している。というのも、この層は企業に対する忠誠心が高く、会社内外で揉め事を起こすことも少ない。とくに不況時には、「組織の心臓と魂の役割」を果たすと言われている。

 さらにこの6割は、企業の困難時に業績を安定させて、その回復に最も貢献する人たちだ。よって彼らを無視すると、自分たちの価値を疑いはじめ、勤労意欲が低下することが多いとされている。

 したがって経営者は、この6割に対してより高い関心を持ち、彼ら彼女らがどれだけ業績に貢献できるかを考えて、中間層の6割に対して、仕事上の短・長期的目標と具体的な役割を与えなければならないといわれている。

2:6:2の比率を変えようとしてはいけない

 農耕民族である日本人のメンタリティを考えると、確かにこの6割の中間層に対してどうするかを考えることが重要かもしれない。実際「できる人」は、ある程度の環境をつくっておけば、どんどん新しいことに取り組んでいくものだ。また逆にどうしても伸びない人や馴染まない人は、自然とその職場を離れていく。ただ変化の激しい現代においては、こうした平常時では「お荷物」と思われる人材が、有事になると能力を発揮したりする。故事では「奇貨居くべし」という言い方がある。つまり変わったもの、一見役に立たなさそうなものでも使う時が来るものだという喩えだが、会社が従来と違った局面に来たり、ユニークな事業を求められた時にこうした人たちは能力を発揮する。

 間違ってもこの2:6:2の比率を、より効率的で効果的な集団にするために、4:4:2とか、5:3:2にしようなどと考えたりしないことだ。2:6:2が支持されているのは、そういった試みを繰り返しても、2:6:2に落ち着いてしまうからだ。もちろんこの区分け自体を恣意的と見る人もいる。何をもって平均的なのか、どこからダメなのか。基準をどこに置くかというポイントもあるだろう。

 人間の能力や可能性は多様だ。だからこそ価値軸をたくさん用意して、活用できる場をつくっていくことが、経営者の大きな役割だと言える。

③「ロングテールの法則」

2:8の原理はネットには通用しない?

 パレートの法則はネットビジネスにも影響を与えた。その一つが「ロングテールの法則」だ。パレートの法則では8割の売上は2割の商品で構成されていることだった。これは主に小売店舗においては、スペースに限りがあるので、できるだけ回転率の高い商品を取り揃えることが、売上アップ、収益アップに繋がるという理由があるからだ。

 しかしネットビジネスでは、店舗スペースは無限。なので回転率の悪い8割の商品をできるだけ他種類揃えておけば、ニーズがある限り売れるので、結果として大きな売上に繋がるというもの。その売上グラフを縦に販売数量、横に売上げランキングをとって描くとちょうど、長い尻尾を持つ草食恐竜のような姿になる。

 このことはアメリカの雑誌「ワイヤード」が2004年に発表した「ザ・ロングテール」という記事において、リアル書店の「バーンズ・アンド・ノーブル」とネット書店の「アマゾン・コム」の売上分析したことで話題となった。

 アマゾンの売上は、その2分の1以上を当時バーンズ・アンド・ノーブルが店頭に置いていない本から得ていると指摘したのだ。つまり頭の2割ではなく、ネットビジネスにおいては残りの8割、長い尻尾(ロングテール)が重要だというわけだ。そしてこれを持ってパレートの2対8の法則は覆されたということになった。

アマゾンを支えているのはトヨタのカンバン方式

 しかし、デジタル情報を売るビジネスとは違い、アマゾンはれっきとした本を売るビジネス。ネット空間はバーチャルでも売れない本を置く倉庫は必要だった。結局アマゾンは巨大倉庫を持って、集中して配送するようなしくみをつくることが、ネットビジネスのキモだと理解したのだ。彼らは巨大倉庫で効率化を図ったのである。だがビジネスの専門家はアマゾンが成功したのは、巨大な倉庫ではなく、それを管理するシステムが良かったからだという。実際、アマゾンは立ち上がってしばらくは赤字を出し続けていた。多くのエコノミストも「アマゾンのやり方では早晩潰れる」と見ていたようだ。そこに手を差し伸べたのがAOL=アメリカオンラインだった。そこでアマゾンは息を吹き返した。

 アマゾンが力を注いだのは在庫管理システムだ。いかに巨大な倉庫をつくっても膨大な書籍、雑誌を1アイテムについて何百冊と置くことはできない。そこで目をつけたのが、トヨタのカンバン方式だった。在庫を可能なかぎり少なくしながら、欠品を避ける仕組みだ。

 リアルな書店では扱えないほどの巨大な倉庫を持つからバーチャルな書店が強いのではなく、いかに欠品を少なくし、商品回転を上げるかを突き詰めたからこそアマゾンは成功したのだ。

 つまり、2対8の法則は生きてたのだ。2も8もあるからこそしっかり利益が出る。現代ビジネスにおいては売上貢献度の高い2割の商品だけに絞ってしまうと、大きなトレンドに対応できなくなる。

 リアル店舗ではかつてデパートがその役目を担っていた。さまざまな商品=百貨を扱っていたからこそ、各地からお客を呼べたのだ。それを売れ筋だけに絞って行き過ぎたために本来の「百貨」の魅力を失ってしまったのだ。

④「ピーターの法則」

優秀な人は
ずっと優秀とは限らない

 パレートの法則では2割の優秀な社員が8割の売上を生み出すということになるが、会社ではこの2割の人に頑張ってもらおうといろいろ対策を講じる。報酬を上げたり、役職をつけたりなどだ。しかしいかに優れた人でも高いレベルで存分に力を発揮できるかというと、そうではない。

 それを指摘したのが、カルフォリニア大学の教育学教授のローレンス・J・ピーターだ。彼はピラミッド型の階層組織においては、「すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに到達する」と言い放った。さらに「あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる」と言い、「仕事はまだ無能レベルに達してない者によって行われている」と断じたのだ。

 つまり、いま仕事ができるからと言って、それ以上の権限や職責を担わせれば、より大きな成果をもたらすとは限らず、逆に弊害を起こすことにもなりかねないというのがピーターの法則の真意である。

 ピーターは、「機会が平等であれば、誰もが無能になる可能性を秘めている」と言う。そしてその有能であるかどうかについては「人間の主観的判断によるもので、あたかも色眼鏡で見ているようなものだ」と喝破している。

 ピーターの話は先に挙げた「2:6:2」の法則にも繋がりそうだ。有能かそうでないかは、その組織の相対的基準でしかなく、またその時々の社会環境でも変わってくるからだ。

 それでも出世で自分が無能だと思われてしまうのを避けたいのであれば、ピーターは、「靴屋は自分のつくる靴型にこだわれ」、すなわち「自分の本分を弁えよ」と教えている。いたずらに昇進を望んで、自分の価値を下げるなと言っているのだ。

 そう言われて、大企業などで時々起こってしまう不祥事を思い返すと、身の丈に合わない役職や責務を負わされた「不幸な」結果なのかもしれないと理解できる。

⑤「メラビアンの法則」

人は見た目ばかりではない

 メラビアンの法則もパレートの法則同様、よく聞く割には中身が十分理解されていない法則のひとつだ。一般的には「人は見た目が9割」として知られている法則だ。つまり、ビジネスシーンではとくに第一印象を良くすることが、契約や成功に結びつくと言われていますが、これはかなり曲解されているようだ。

 メラビアンの法則は、アメリカの心理学者、アルバート・メラビアンによって唱えられた法則だ。彼は「人が向かい合ってコミュニケーションをとる時には、言葉そのもの、語調、身振りで分析できる」とし、その割合は「言葉が7%、語調が38%、身振りが55%」としている。

 コミュニケーションを取ろうする際には、言葉そのものよりも身振りなど、非言語的な要素が影響を与えるというものだ。単に見た目が綺麗である、清潔感があるとうだけでなく、相手に同調してるのか、理解してるのかというような身振り手振りのサインを出すことが重要だと言っているのだ。

 もちろん、いわゆる身だしなみができてなくては、NGだ。ビジネスパーソンとしてのマナーは最低限保ちながら、相手を尊重するようなボディ・ランゲージを磨いていくことが、この法則の活用法だ。

『仕事が決定的に変わる80対20の法則』ポール・マクナーニ著 三笠書房

⑥「ランスの法則」

うまくいってる時には、手を加えるな!

 ビジネス書や経済誌を開くと必ず出てくるのが「イノベーション」の文字。「進歩、革新をしないと時代に取り残される」とメディアは煽る。しかしいたずらにイノベーションを起こそうと躍起になってもいい結果に繋がるとは限らない。1977年、アメリカのジミー・カーター大統領時代に政府要人として活躍したバート・ランスは、「壊れていないなら、直すな」と言い放ち、話題を集めた。彼の言葉は、予算が本当に問題のある分野に割かれず、問題のない分野に配分される様子を皮肉ったものだが、これが後にひとつの箴言となって広まった。

 「ものごとがうまくいってる時には手を加えるな」と。

 家電品や車などでは、定期的にモデルチェンジをするが、これが改善ではなく、何かを変えようという意識で取り組んでいると市場からそっぽを向かれたりする。行きつけの料理店が、定番メニューをやめて季節メニューを出したところ、客足が遠のいたといった例はよく聞く話だ。

 有名な話ではアパレルブランドの「GAP」が長年馴染んでいたロゴマークを変えて、その劇的な変わりように顧客から批判を浴び、もとに戻したことがあった。おそらくGAPは、「ブランドは半分は顧客のもの」であるという基本認識を忘れてしまったのかもしれない。

⑦「キャズムの法則」

ヒットする商品はここで見分ける!

 技術革新は、日々どこかで起こっている。ただそれが市場を席巻するかどうかはまた別の話だ。とくに先端の新技術や製品がヒットするかは、キャズムの法則で判断できる。

 キャズムとは、深い溝のこと。アメリカのビジネスコンサルタントのジェフリー・ムーアは、ハイテク機器の普及を検証したところ、その普及には一定の溝があることを発見した。よく言われるイノベーター理論だ。

 新製品が出た時にすぐ飛びつくのが「イノベーター」と呼ばれる層で市場全体の2.5%を占める。次が「アーリーアダプター」と呼ばれる層で市場全体の13.5%、その次に受け入れるのが「アーリーマジョリティ」と呼ばれる層で全体の34%、その次が「レイトマジョリティ」の34%、そして最後まで頑なに拒否するのが「ラガード」の16%だ。

 一般にアーリーアダプターからアーリーマジョリティに移行するとその技術や商品はヒットするとされる。つまりヒットするかどうかは、このアーリーアダプターからアーリーマジョリティの間にある溝を越えられるかにかかっている。このキャズムの法則は、商品の寿命にも影響を及ぼしている。つまりここから売上曲線を見ていくと、アーリーマジョリティからレイトマジョリティに移ったあたりまではぐんと伸びるが、ここを越えると売上曲線はゆるやかに落ちていく。この見極めを誤ると過剰生産に陥り、大量の在庫を抱えることになる。

 もちろん、このキャズムの引き方も市場や商品によってさまざまで、形が綺麗な曲線となるというものでもない。

 たとえば、生産材市場の場合は、先行者の採用結果を見極めてから採用することも多く、曲線は2つの山を描くことが多い。

⑧「ハインリッヒの法則」

災害防止の原点1:29:300ビジネスに失敗はつきものだ

 大失敗や大事故は避けなくてはならない。だが世の中に起こる大事故はだいたいが起こるべくして起きている。それはこのハインリッヒの法則が導いている。ハインリッヒの法則は、保険会社に勤めていたアメリカのハーバート・ハインリッヒが、発見した法則だ。

 ハインリッヒは膨大な事故の事例を検証していくうちに、誰かが重症を負うような大事故が1つ発生する前には、29の軽微な事故が起こっており、その前には300の傷害を伴わない「ヒヤリ・ハット」の事故が起きていることを見出したのだ。その比率から1:29:300の法則とも呼ばれている。このハインリッヒの法則は、建設現場や工場など危険を伴う現場に浸透し、ヒヤリ・ハット段階での災害防止策の運動が、各所で展開されるようになった。とくにゼネコンやメーカーの生産現場ではその比率、1、29、300を足し合わせた「330運動」として、安全マニュアルに記されている。

 ここで重要なことは、こうしたヒヤリ・ハットが従業員の意識や属性によるものだと断じてはいけないことだ。「うっかり!」や「ひやり!」があるととかくその本人を「たるんでいる」「しっかりしろ」などと叱咤するケースがあるようだが、ハインリッヒが指摘しているように、「単に労働者の行動のみに焦点をあててはいけない」ということだ。

 大事なことは職場での安全点検の徹底など、適切な指導を行うことで、事故が起きやすい環境を変えていくことにある。

⑨「マーフィーの法則」

きれいなネクタイほどスープを惹きつける

 マーフィーの法則は、もしかしたらビジネスの現場以外でもよく耳にしているかもしれません。「それってマーフィーじゃない?」といった会話は、女子高生の間でも使われているようだ。

 マーフィーの法則は、米国の空軍大尉だったエドワード・マーフィーによって生み出された言葉だ。パレートやメラビアンのように専門家が事例を細かく分析検証したものではないが、「クスッ」と笑えるようなシニカルなものが多く、人間の深層心理や運命について核心をついた人生の格言として広く知れ渡っている。

 たとえばこんな具合だ。

「きれいなネクタイほどスープを惹きつける」
「自分のパスポートの写真ほど醜いものはない」
「スポーツ観戦の時は、自分が中座している時に限って得点が入るものだ」
「素敵だと思った相手ほど、すでに誰かのものである」
「試験が終わると、その試験科目をようやく習得できるものである」
「歯痛はいつも土曜日の夜から始まる」
「時間通りに仕事を済ませれば、その時間通りに必ず間違いが見つかる」

 思わず「ウン、そうだそうだ」と膝を打ってしまいそうだが、空軍の大尉であり、技師でもあったマーフィーの視点はどこかペシミスティックで、「人間は不完全でどこか失敗がつきまとう。だから安心せずに慎重に歩め」と言ってるような気がしてくる。

 実際にマーフィーは「起こりうることは、必ず起きる」といった格言や、「人間は誰でも失敗を犯す」、「失敗には必ず原因がある」といった当たり前のことを、言い方を変えて言っている。

 大切なことは、人間は完璧ではなく、誰しもがミスを犯すものだということ。さらに重要なことは、そのミスや失敗をそのままにせず、原因を追究して克服することにあることだ。

 シニカルな表現の多いマーフィーの法則だが、人間の行動を慈愛に満ちた視点から見ていることが分かる。

⑩「ソッドの法則」

トーストはいつもバターを塗った側から落ちる

 マーフィーの法則のような人生訓は、古今東西、古くからあったようだ。とくにイギリスではまさにマーフィーの法則の原型のような「ソッドの法則」というものが存在いる。ソッドとは誰かの名前ではなく、「野郎」といった意味で、つまりソッドの法則は男性がしでかすような「野郎の法則」ということになる。

 典型的なものとしては、「トーストはいつもバターを塗った側から落ちる」法則や「サンドイッチが落ちるなら開いて落ちる」法則だ。マーフィーが言うところの「自然は隠れた欠陥に加担する」という法則のソッド版とも言える。

 ただソッドの法則はマーフィーより辛辣で、前述の法則は「トーストのバターを塗った側がカーペットにくっつく確率は、カーペットのコストに比例する」と進化(?)していく。

 ほかにも「何かを口にするとそれが良いことであると実現せず、悪いことであると現実になる」、「誰でも懸命に計画を立てるが、大半はうまくいかない」などがある。

 読んでいると憂鬱になりそうだが、「人生はいいことばかりではない。気をつけて、うまくいったら、それは非常に幸運であると考えて、ものごとに取り組むべき」という大人の知恵なのかもしない。

⑪「ホイラーの法則」

プロはステーキを売るな、シズルを売れ!

 ホイラーの法則も古くから知られている法則の一つだ。マーケティングやセールス担当者なら一度は聞いたことがあるかもしれない。ホイラーの法則は、アメリカのセールスコンサルタントだったエルマー・ホイラーが1937年に著した本でまとめたもの。

 ホイラーは販売に使われる言葉を10年にわたって研究し、どの組み合わせが効果的にお客の関心を惹きつけ、商品を購入してくれるかをまとめていったのだ。その結果をもとに「保証付き販売法」というサービスを生み出し、多くの企業に取り入れられた。そのエッセンスがホイラーの法則だ。その基本は5つ。

 1つめが、有名な「ステーキを売るな、シズルを売れ!」という法則だ。シズルとは、ステーキを焼く時に出る「ジュージュー」という食欲をそそる音のこと。人はいかに素晴らしいブランド牛を説明するより、目の前でジュージューと焼かれたほうが、「くらっ」と来るもの。

 『ホイラーの法則』にはこんなことが書かれている。

 「気の利いたウェイターなら、シャンパンを売るのではなく、シャンパンの泡を売るのだいうことをよく知っている。食料品の店員は漬物を売るのではなく、そのシワを売っている。コーヒーを売るのではなく、風味を売っている。チーズが売れるのはその匂いのせいだ!…」

 では電気掃除機はどんなシズルがあるのだろうか。ホイラーは電気掃除機のセールスマンは次のことを心得よと言っている。

●正札を売らないで、骨の折れない点を売れ!
●構造を売らないで、手数がかからない点を売れ!
●モーターを売らないで、快適な点を売れ!
●ボールベアリングを売らないで、扱いやすい点を売れ!
●吸引力を売らないで、家が綺麗になる点を売れ!

 健康的、快適、手間がかからない家が綺麗になるのが「シズル」で、機構や構造は「牛」にすぎないのだ、と。

 2つめが、「手紙を書くな、電報を打て!」という法則だ。

 早とちりしていけないのは「手紙の代わりにいまなら手っ取り早いメールを出せ」という、読み替えの話ではないということ。できるだけ短い言葉で見込み客の好意的な注意をひきつけよ、という意味だ。

 よく見込み客に対しては最初の10秒が勝負と言われる。ここで長い説明が入ったら、見込み客の反応は低くなる。そのために、まず正しいシズルを選び出す。次にそのシズルを10秒で言える言葉に練り上げ、そして実行するのだ。

 3つめの法則が「花を添えて言え!」というもの。

 これは、「言葉を飾れ」ということではない。「言ってることに証拠を添えよ」ということ。たとえば「誕生日おめでとう」という時に花束を一緒に渡せば、気持ちがよく伝わる。先の掃除機の話では、実際に動かしてみて、見込み客にも使ってもらうのだ。ちょっとした動作でも真剣に嘘偽りなく勧めていることを分かってもらうのだ。

 4つめは「もしもと聞くな、どちらと聞け!」

 これは、「買いますか、どうしますか?」というイエス、ノーではなく、商品のどの機種、どの色、どのグレードにするかを聞くということだ。ホイラーは「いかがでしょうか」という質問はしてはいけないと言っている。ほとんど決めかかっている見込み客に「いかがでしょうか」という質問は、水を差すようなものだからだ。「どれにしましょうか?」「いつお届けしますか?」というようにクロージングに向けて、坦々と進んでいくのがいいのだ。

 5つめは「吠え声に気をつけよ!」という法則だ。

 これは、「言い方を単調にしてはいけない」という法則。いかにいいシズルと、大きな花束を添えて、どちらを、いつ、どこでというように話していっても、その声が単調で活気がなかったら、その見込み客に魅力的だとは思われない。ときに役者のように声のトーンを変えてみたり、テンポを変えてみることで、見込み客の心に魅力が深く入っていく。ベストは「微笑を含んだ声で話すこと」だ。自信なげに思われたり、逆に高圧的に見えたり、自信過剰に見えたりしたら、お客に対して「気をつけよ」というサインを自ら出していることになる。

 ビジネスの法則は、絶対値としてはなかなか表しにくいものの、その1つ1つが、得心のいく言葉であり、効果が期待できる法則となっている。

 法則の真の意味を知って、ビジネスチャンスを引き寄せてほしい。

『ホイラーの法則』E・ホイラー著 ビジネス社


POINT

■「 ニッパチの原理」として日本製品の品質向上に貢献した2対8の原理
■ 原因を2 割解決すると8 割の問題が解決する
■ パレートの原理から発展。普通の従業員にフォーカスを!
■ 会社の順調な運営は6 割の普通の従業員にフォーカスすること
■ 2:8の原理はネットにも通用する
■ 優秀な人はずっと優秀とは限らない
■ 人は見た目ばかりではない
■ うまくいってる時には、手を加えるな!
■ きれいなネクタイほどスープを惹きつける
■ トーストはバターのついた側から落ちる
■ 災害防止の原点1:29:300
■ プロは肉を売るな、シズルを売れ!


【newcomer&考察】多彩な入試は子どもたちの可能性をどう引き出す?-入試制度改革で入試も進化-

 2020年は日本の風景を大きく変えるかもしれない。東京オリンピック・パラリンピックが開催されるから、だけではない。日本を大きく変える可能性があるのは静かに進行している教育改革だ。なかでも大学入試の改革は受験産業界を含め教育関係者に大きなインパクトを与えている。これまでのセンター試験が廃止され、新たに「大学入学共通テスト」が実施されることになっている。

 予定としては現行の6教科30科目同様の科目数となる模様だが、これまでのセンター試験になかった記述式問題と、英語に関しては「読む」「聞く」「話す」「書く」4 技能と呼ぶ能力をしっかり評価するようになる。また従来求められていた「知識」「技能」だけでなく、大学生に求められる「思考力」「判断力」「表現力」も評価する試験に変わる。

 この新たな入学共通テストに向けて行われたプレテストでは、図や資料、文章などを組み合わせた問題から思考力は判断力をみる問題も出題されている。

 記述式問題についてはプレテストでは、国語と数学で出題されたが、回答の文字数が多いほど正答率が下がる傾向が見られた。マークシートの選択方式に慣れてきた受験生が記述式問題で実力を発揮できるようになるには時間がかかりそうだ。

 とくに教育関係者を悩ましそうなのは、英語だ。英語は従来どおり大学入試センターが作問する問題のほか、英検やTOEICなどの民間検定・資格も評価の対象となり、一定のレベルであれば、入試センターの試験の代用として認められる。民間検定・資格を利用する場合、高校3年以降の4月から12月までの資格・検定を2回受けた結果で評価することになる。つまり大学入試を目指す場合は、英語においては入学共通テスト一発勝負をかけなくとも、何ヶ月も時間をかけてテストをクリアすることができるのだ。運不運に左右されず、積み上げた実力で入学できる可能性が高くなる。ただどの検定・資格を選択すべきかは、悩ましくなるだろう。

 このほか新しい入試制度で重視されるのが、3つのポリシーの明確化だ。3つのポリシーとは、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成実施方針)、ディプロマポリシー(卒業認定・学位授与方針)のことで、どのような学生を入学させ、どのように教育指導して、卒業させるのかをはっきりさせるのだ。この3つの方針によって、どのような入試にするかが決められてくる。

 従来、教育方針やカリキュラムなどについては、私立が独自色を打ち出していたが、国公立でも独自色を打ち出す動きが加速している。学力試験を軸としてきた国立大でも推薦やAO入試枠を広がっており、これまで導入に否定的だった東京大学や京都大学でも2016年から推薦やAO入試を導入している。

 こうした大学入試制度、教育改革の動きを受け、小学、中学、高校の現場でもさまざまな動きが起きている。

 とくに私立系の中学、高校などには独自の入試を取り入れる例が増えている。

 全体的に思考力や判断力、表現力をみる工夫がなされている。東京の十文字学園では入試の仕様によって枠を決めており、たとえば「思考力型特待」枠では、理科的な問題と社会的な問題をそれぞれ50分のなかで意見をまとめる。たとえば社会では「将来いろいろな職業がなくなると言われていますが、どの職業がなくならないか理由をつけて述べなさい」といった問いが出題される。同校の試験担当者は、その回答に驚きを隠せなかったと話す。「結論を先に述べ、たたみかけるように理由付けをする。論文としてはほぼ完璧な構成で、受験者全員がびっしり書いてきた」

 神奈川の聖セシリア女子では論理的思考力と表現力を重視した中学入試を行っている。まず新聞の政治記事読んでもらい、「野党と与党の考えの違いは何ですか。それに対して、あなたはどう思いますか」と問う。記事をきちんと読み取る能力と、意見を論理的に組み立てる能力、さらにそれを相手に伝える表現力をみる。

 意見をまとめさせるのに音声を重視する入試を導入する学校も増えている。音声のヒアリングと言えば、英語だけだったが、最近は日本語の文章を聞かせて、そこから意見をまとめさせたり、設問を重ねる試験もある。

聖セシリア女子中学高校のHP

 東京純心女子の中学入試では、音声で文章を聞かせた後、その内容について考えをまとめた作文を行い、その作文をもとに試験官と質疑応答を行う「タラント発見・発掘入試」を行っている。

 一方理系センスのある優れた生徒を集めるために、さまざまな入試も導入されている。教育界で話題となっているのは、STEM型入試だ。STEMとは、Science=サイエンス、Technology=テクノロジー、Engineering=エンジニアリング、Mathematics=マスマティクス(数学)の略で、具体的には数学の基礎+プログラミング+アルゴリズム試験で構成されることが多い。

東京純心女子学園のHP

 東京の私立駒込学園中学では、スーパーアドバンスコースの試験としてこのSTEM入試を導入。プログラミングは2020年から導入される小学校の必修化を受けてだが、こうした新カリキュラムに柔軟に対応できるのも私立の魅力だろう。

 また同校では「クリエイティブ型」入試も行っている。実際の提携企業のHPを支給したタブレット端末にブックマークしておき、それを受験生に見せ、「自分がこの企業に勤めるとしたら、どういうことができますか」というような問いに答えるもの。商品開発でも営業でもいい。会社のテーマソングをつくるなど、そういった変わったことでもいいので、自由に考えてプレゼンテーションしてもらうという。

駒込学園HP
駒込学園中学高校のHP。同校は天台宗の理念を建学の精神として、先端的な教育に挑んでいる。

 教育界だけでなく、近年は企業でも取り入れられつつあるアクティブラーニング。1つのテーマについて意見を交わしながら、理解を深めていく討議型の学習だが、神奈川の桐蔭学園では中学入試にこのアクティブラーニングを導入している。他の私立同様いくつかの試験方法があるが、「総合思考力問題」では、映像で教科横断型の授業を受けてもらい、その上でその内容に関する問題を解いてもらう。その後算数の基礎問題を解いて、さらに集団面接で自己紹介をした後、先の映像に対する意見を他の受験生の前でプレゼンテーションを行う。問題に対する考えをまとめるだけでなく、集団のなかでいかに自分の意見をしっかり伝えることができるか、その態度や思考力、表現力などみていく。

桐蔭学園のアクティブラーニング入試の動画の一部(同校HPより)。出題は教員が動画に出演して行われている。

 東京の聖学院中学の入試はかなりユニークで話題となっている。入試にレゴブロックを用いている。「遊び半分」と思われそうだが、試験内容の難易度はかなり高い。まず地図やグラフなどの資料が集まった問題用紙が与えられ、そこから読み取れる課題について作文形式で回答するとともに、その解決策をレゴブロックで表現せよ、というもの。

聖学院中学・高校HP。同校はキリスト教精神に則り、教育を展開する男子中高一貫校だ。

聖学院中学の難関思考入試に使われる資料の一部(聖学院中学高校公式サイトより)

 資料となるグラフも、国の研究機関が発表するような人口動態や医療機関の問題について書かれた記事など、大人が読み解くにも時間がかかりそうな内容で、さらに文章だけでなく、問題文を音声で聞かせ、受験生がきちんと聞き取ることも求められる。

 もちろん正解はない。合否は複数の先生が時間をかけて評価する。もともとレゴにはレゴシリアスプレイという教育に使うメソッドが確立しており、試験官となる教員はこのための資格を有している。同校ではいわゆる学力を見る学科入試も行っているが、このレゴブロックを使った「難関思考入試」では算数や理科の試験は出ない。だがこの入試で入った生徒は、全校生徒のなかでもトップクラスの成績をおさめており、生徒会活動や部活動にも参加して、活発に活動しているという。同校の教員は「我々はペーパーテストで測れない思考力をある程度評価できている」と自信をのぞかせている。

レゴシリアスプレイの紹介のページ(レゴ社サイトより)

 これらの私立では、従来型の国語・算数・理科・社会の試験も行っている。しかしそれだけでは、新しい時代に応じた才能をもった人を育むことが難しくなっているという危機感があるようだ。自ら問題を発見し、それを個性の違う人間と協力しながら創造的解決できる、国境を超えて生きていける人材の発見と育成を求め、さまざまな入試に挑んでいるのだ。

 問題は企業側だ。はたしてこれだけ多様なタレントを受け入れる体制と度量がいまの企業にどれだけあるだろうか。企業の未来を見るなら、小学校や中学校の今を見つめることも必要かと考えるがいかがだろう。

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