COLUMN ビジネスシンカー

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2018.09

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【newcomer&考察】多彩な入試は子どもたちの可能性をどう引き出す?-入試制度改革で入試も進化-

 2020年は日本の風景を大きく変えるかもしれない。東京オリンピック・パラリンピックが開催されるから、だけではない。日本を大きく変える可能性があるのは静かに進行している教育改革だ。なかでも大学入試の改革は受験産業界を含め教育関係者に大きなインパクトを与えている。これまでのセンター試験が廃止され、新たに「大学入学共通テスト」が実施されることになっている。

 予定としては現行の6教科30科目同様の科目数となる模様だが、これまでのセンター試験になかった記述式問題と、英語に関しては「読む」「聞く」「話す」「書く」4 技能と呼ぶ能力をしっかり評価するようになる。また従来求められていた「知識」「技能」だけでなく、大学生に求められる「思考力」「判断力」「表現力」も評価する試験に変わる。

 この新たな入学共通テストに向けて行われたプレテストでは、図や資料、文章などを組み合わせた問題から思考力は判断力をみる問題も出題されている。

 記述式問題についてはプレテストでは、国語と数学で出題されたが、回答の文字数が多いほど正答率が下がる傾向が見られた。マークシートの選択方式に慣れてきた受験生が記述式問題で実力を発揮できるようになるには時間がかかりそうだ。

 とくに教育関係者を悩ましそうなのは、英語だ。英語は従来どおり大学入試センターが作問する問題のほか、英検やTOEICなどの民間検定・資格も評価の対象となり、一定のレベルであれば、入試センターの試験の代用として認められる。民間検定・資格を利用する場合、高校3年以降の4月から12月までの資格・検定を2回受けた結果で評価することになる。つまり大学入試を目指す場合は、英語においては入学共通テスト一発勝負をかけなくとも、何ヶ月も時間をかけてテストをクリアすることができるのだ。運不運に左右されず、積み上げた実力で入学できる可能性が高くなる。ただどの検定・資格を選択すべきかは、悩ましくなるだろう。

 このほか新しい入試制度で重視されるのが、3つのポリシーの明確化だ。3つのポリシーとは、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成実施方針)、ディプロマポリシー(卒業認定・学位授与方針)のことで、どのような学生を入学させ、どのように教育指導して、卒業させるのかをはっきりさせるのだ。この3つの方針によって、どのような入試にするかが決められてくる。

 従来、教育方針やカリキュラムなどについては、私立が独自色を打ち出していたが、国公立でも独自色を打ち出す動きが加速している。学力試験を軸としてきた国立大でも推薦やAO入試枠を広がっており、これまで導入に否定的だった東京大学や京都大学でも2016年から推薦やAO入試を導入している。

 こうした大学入試制度、教育改革の動きを受け、小学、中学、高校の現場でもさまざまな動きが起きている。

 とくに私立系の中学、高校などには独自の入試を取り入れる例が増えている。

 全体的に思考力や判断力、表現力をみる工夫がなされている。東京の十文字学園では入試の仕様によって枠を決めており、たとえば「思考力型特待」枠では、理科的な問題と社会的な問題をそれぞれ50分のなかで意見をまとめる。たとえば社会では「将来いろいろな職業がなくなると言われていますが、どの職業がなくならないか理由をつけて述べなさい」といった問いが出題される。同校の試験担当者は、その回答に驚きを隠せなかったと話す。「結論を先に述べ、たたみかけるように理由付けをする。論文としてはほぼ完璧な構成で、受験者全員がびっしり書いてきた」

 神奈川の聖セシリア女子では論理的思考力と表現力を重視した中学入試を行っている。まず新聞の政治記事読んでもらい、「野党と与党の考えの違いは何ですか。それに対して、あなたはどう思いますか」と問う。記事をきちんと読み取る能力と、意見を論理的に組み立てる能力、さらにそれを相手に伝える表現力をみる。

 意見をまとめさせるのに音声を重視する入試を導入する学校も増えている。音声のヒアリングと言えば、英語だけだったが、最近は日本語の文章を聞かせて、そこから意見をまとめさせたり、設問を重ねる試験もある。

聖セシリア女子中学高校のHP

 東京純心女子の中学入試では、音声で文章を聞かせた後、その内容について考えをまとめた作文を行い、その作文をもとに試験官と質疑応答を行う「タラント発見・発掘入試」を行っている。

 一方理系センスのある優れた生徒を集めるために、さまざまな入試も導入されている。教育界で話題となっているのは、STEM型入試だ。STEMとは、Science=サイエンス、Technology=テクノロジー、Engineering=エンジニアリング、Mathematics=マスマティクス(数学)の略で、具体的には数学の基礎+プログラミング+アルゴリズム試験で構成されることが多い。

東京純心女子学園のHP

 東京の私立駒込学園中学では、スーパーアドバンスコースの試験としてこのSTEM入試を導入。プログラミングは2020年から導入される小学校の必修化を受けてだが、こうした新カリキュラムに柔軟に対応できるのも私立の魅力だろう。

 また同校では「クリエイティブ型」入試も行っている。実際の提携企業のHPを支給したタブレット端末にブックマークしておき、それを受験生に見せ、「自分がこの企業に勤めるとしたら、どういうことができますか」というような問いに答えるもの。商品開発でも営業でもいい。会社のテーマソングをつくるなど、そういった変わったことでもいいので、自由に考えてプレゼンテーションしてもらうという。

駒込学園HP
駒込学園中学高校のHP。同校は天台宗の理念を建学の精神として、先端的な教育に挑んでいる。

 教育界だけでなく、近年は企業でも取り入れられつつあるアクティブラーニング。1つのテーマについて意見を交わしながら、理解を深めていく討議型の学習だが、神奈川の桐蔭学園では中学入試にこのアクティブラーニングを導入している。他の私立同様いくつかの試験方法があるが、「総合思考力問題」では、映像で教科横断型の授業を受けてもらい、その上でその内容に関する問題を解いてもらう。その後算数の基礎問題を解いて、さらに集団面接で自己紹介をした後、先の映像に対する意見を他の受験生の前でプレゼンテーションを行う。問題に対する考えをまとめるだけでなく、集団のなかでいかに自分の意見をしっかり伝えることができるか、その態度や思考力、表現力などみていく。

桐蔭学園のアクティブラーニング入試の動画の一部(同校HPより)。出題は教員が動画に出演して行われている。

 東京の聖学院中学の入試はかなりユニークで話題となっている。入試にレゴブロックを用いている。「遊び半分」と思われそうだが、試験内容の難易度はかなり高い。まず地図やグラフなどの資料が集まった問題用紙が与えられ、そこから読み取れる課題について作文形式で回答するとともに、その解決策をレゴブロックで表現せよ、というもの。

聖学院中学・高校HP。同校はキリスト教精神に則り、教育を展開する男子中高一貫校だ。

聖学院中学の難関思考入試に使われる資料の一部(聖学院中学高校公式サイトより)

 資料となるグラフも、国の研究機関が発表するような人口動態や医療機関の問題について書かれた記事など、大人が読み解くにも時間がかかりそうな内容で、さらに文章だけでなく、問題文を音声で聞かせ、受験生がきちんと聞き取ることも求められる。

 もちろん正解はない。合否は複数の先生が時間をかけて評価する。もともとレゴにはレゴシリアスプレイという教育に使うメソッドが確立しており、試験官となる教員はこのための資格を有している。同校ではいわゆる学力を見る学科入試も行っているが、このレゴブロックを使った「難関思考入試」では算数や理科の試験は出ない。だがこの入試で入った生徒は、全校生徒のなかでもトップクラスの成績をおさめており、生徒会活動や部活動にも参加して、活発に活動しているという。同校の教員は「我々はペーパーテストで測れない思考力をある程度評価できている」と自信をのぞかせている。

レゴシリアスプレイの紹介のページ(レゴ社サイトより)

 これらの私立では、従来型の国語・算数・理科・社会の試験も行っている。しかしそれだけでは、新しい時代に応じた才能をもった人を育むことが難しくなっているという危機感があるようだ。自ら問題を発見し、それを個性の違う人間と協力しながら創造的解決できる、国境を超えて生きていける人材の発見と育成を求め、さまざまな入試に挑んでいるのだ。

 問題は企業側だ。はたしてこれだけ多様なタレントを受け入れる体制と度量がいまの企業にどれだけあるだろうか。企業の未来を見るなら、小学校や中学校の今を見つめることも必要かと考えるがいかがだろう。

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