COLUMN ビジネスシンカー

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2023.12

AI、デジタル化は人間を楽にしてくれている?? できるエグゼクティブから学ぶ
イマドキの休息術

 AIやデジタル化がどんどん進化すれば、仕事や生活がどんどん楽になると思っていたら、思いのほか忙しくなっている。かえって急き立てられる毎日だ……。そんなふうに思ってはいないだろうか。ワークライフバランスが叫ばれて久しいが、コロナ禍ではワークとライフが一緒になってしまって、逆にストレスが増してしまったという方も多いかもしれない。刻々と変化する現代では、いかに効果的な休憩がとれるかが重要になってくる。忙しさが増す、師走。デキるエグゼクティブたちが勧める休憩術を紹介する。

名コピーライター、
糸井重里さんの実感

 6,7年ほど前、コピーライターの糸井重里さんが発言した「AERA(アエラ)」(朝日新聞社)の記事がネット上で話題となったことがある。
 糸井さんは「働く人へ」と題して、「ちゃんとメシ食って、風呂入って、寝ている人にはかなわない」と発言したのだ。
 糸井さんと言えば、「不思議、大好き。」「おいしい生活」などのヒットコピーで知られ、日本の若者にコピーライターブームをつくったひとり。その活動は広告だけでなく、本や雑誌のプロデュース、作詞やゲームソフトの企画・シナリオなど、幅広い活躍をして1980年代から90年代の「時代の空気」をつくった人でもある。
 そのカリスマもすでに古希を過ぎ、また自らも会社を経営している身だから感じる境地なのかもしれない。
 それにしても糸井さんのような時代の寵児ですら、するりと追い抜いていく“健全な人”とはどんな人なのか。
 アエラではこう続けていた。
「寝食を忘れ無理して働けば、瞬発力で花火を打ち上げるようなことは誰にでもできるかもしれません。でも、ものごとには波があって、ダメかもしれない時期も、いまだ、進め! という時期もあります。健全な人がその波を渡っていく。だんだんと、自分がそういう人に追い抜かれていくのを想像するようになるんです。寝ないで無理すれば、大抵お酒が絡んできます。無頼を気取って飲んだくれている人を、健全な人が追い抜いていくんです」と。
 つまり、“ダメな時”も、「いまだ進め!」という“ノリノリの時”も、淡々と着実に仕事を進めていくことができる人を指しているようだ。企業であれば、プロジェクトを任される組織のリーダーであったり、部長や役員だろう。そういったことを最も求められる人がトップである社長だ。
 トップがしなければならないことはたくさんある。大企業も中小零細企業も含め、社長に求められることは「決断する」ことだ。適切な決断をするためには、糸井さんの言う「しっかり風呂に入って眠る」、すなわち十分な休息を取ることが極めて重要になってくるのだ。
 そんな時間がとれない、という人はどうするか。代表的な休息術が、瞑想だ。

瞑想は人間の能力を確実に高める 

 瞑想はかねてより欧米のエグゼクティブたちの間で定着している。
 代表的なのはアップルの創業者の故スティーブ・ジョブスさん。学生時代にインドを放浪し、禅と出会い、アップル創業後も禅僧と交流を深めて瞑想に励んだとされる。
 瞑想は仏教の一派、禅宗の修行の一つで、座禅を組んで静かに呼吸を整え雑念を振り払う訓練として知られているが、仏教の歴史を紐解いていくと瞑想と禅は同義であることがわかる。インドのビハール地方の方言で「ジャン」と呼ばれていた瞑想が中国に伝わって「ジャウ(定)」となり、日本で「ゼン(禅)」となったとされている。
 瞑想は気持ちをスッキリさせてくれるが、それだけでなく、近年の科学で人間の能力を高めてくれることがわかってきた。
 アメリカのマサチューセッツ大学カバット=ジンさんのグループの研究によれば、瞑想による独自のストレス低減方法(MBSRと呼ぶ)を8週間にわたって実践したところ、大脳皮質の厚さが増したという報告がある。また老化による脳の萎縮が少なくなったという報告もある。さらに別の研究では記憶に関連する部位が強化されている可能性も出ている。
 脳と瞑想の関係はここ10年ほどの間にさまざまな科学的研究がなされており、その効果も単に気持ちが落ち着く、心を整えるだけではないことが証明されつつある。すでにアップルやグーグル、フェイスブック、シスコなどのメガIT企業がこぞって瞑想を取り入れている。CEOや役員だけでなく、会社として取り入れているのだ。

禅のエッセンスを強化した
「マインドフルネス」

 こうした企業が取り入れている瞑想とは、東洋的な禅のスタイルを色濃く残しながら、そのエッセンスを強化した「マインドフルネス」と呼ばれる方法だ。聞いたことがあると思う。
 たとえばマインドフルネスを取り入れた米国のエトナという会社では、社員のストレスが3分の1となり、仕事の効率が向上したという。またすべてが直接的な原因ではないにしろ、導入後には社員全体の医療費が減り、1人あたりの生産性は年間約3000米ドルも高まった。
 なぜ瞑想=マインドフルネスがこれほどの効果を上げるのだろうか?
 それは瞑想が脳を休ませる最高の技術だからだ。よく慢性的な疲労感に悩まされると、「身体が重い」「だるい」、「疲れが抜けない」といった症状を自覚するが、これは身体そのものが疲れているのではなく、脳が疲れているサインだ。脳はアイドリング状態でもエネルギーを8割消費する
 よく知られているように、脳は人間のなかでも最もエネルギーを消費する器官だ。諸説あるが、基礎代謝のおよそ20%を消費するとされており、何もしなくても常に脳全体の60~80%が消費されている。これは内側前頭前野、後帯状皮質などといったデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼ばれる記憶や感情を司る部位が、意識的な活動をしていない時でも働いているからだ。つまりDMNとは脳のアイドリング状態で働く部位のネットワークを意味している。では脳が活性化している時にどのくらいエネルギーが必要になるかというと、わずかに5%ほど。アイドリング状態でも稼動状態でも使うエネルギーはほとんど変わらないのが脳という器官である。
 したがって脳を休ませたければ、このDMNのエネルギー消費を落とす必要がある。DMNの働きを休ませるには、脳のアイドリング中に浮かんでくる雑念を減らすことにある。この浮かんでくる雑念を減らすために瞑想が効く、というのが瞑想人気の理由となっている。ちょうどパソコンにさまざまなデータが増えて動きが悪くなってる状態が、雑念の多い状態と考えるといいだろう。

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