COLUMN ビジネスシンカー

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2018.12

働き方改革の先人たち 「実践・逆張り・非常識」経営 あの会社はなぜ業績を上げたのか

モットーは「働くな!」
営業ノルマなしで業界最高利益率を達成したメーカー

 いま全国の企業がさまざまな働き方改革に取り組んでいる。経営者が頭を悩ませているのは、人材の確保と時短の実現。かつてのような長時間労働など許されない時代となった。とは言え客の要求レベルはどんどん上がり、その内容も多様化している。顧客の声をしっかり聞いて、的確にそのニーズに応える。いまどき顧客の満足を考えない経営者はいないと言ってもいいだろう。

「そんなことはない。顧客より社員。社員の満足を考えるのが社長の仕事だ」

 こう公言してはばからない人物がいた。岐阜県にある建築用電気設備資材メーカー「未来工業」の創業者の故・山田昭男さんである。

 山田さんは働き方改革が叫ばれるはるか前に、時短を進めてきた。時短というより、いかに休むかに取り組んできた。何しろ同社のモットーは、「休め。働くな。よきに計らえ」。人より休んで、人より頑張らず、仕事は勝手に――というのだから、社員は会社に文句のつけようがない。

 残業はとにかく禁止。年間労働時間1640時間は日本の上場している製造業でトップクラスの短さで、厚生労働省から時短のお手本企業として表彰されたことがあるほど。典型的なホワイト企業である。

 休暇はゴールデンウィーク、夏休みは連続10日間。さらに年末年始休暇は連続19日に及ぶ。

 実は年末年始の連続休暇も山田さんが社長時代に「もっと休め」と言って、最大で21日だったことがある。しかし社員から「これ以上休ませないでくれ。休んでいてもすることがない」という声があがってあえなく19日に削ることになったという。本人は「もっと増やしたかった」と残念がった。

 しかも工場を持つメーカーでありながら遅刻・早退お構いなしの自由さだ。

 それにしても工場のラインで、従業員が遅刻早退をお構いなしにできてしまうのはまずいだろう。だが山田さんは「そう言っても日本人は遅刻しないし、早退もしない」のだと反論する。

「日本人は農耕民族。だからみんなと一緒でないことはやらない。遅刻ばかりしている人がいたとしても、最終的にはしなくなる。もしくはいなくなる。申し訳ないと思うようになるから」

 企業の経営者を悩ませる問題に、情報の共有がある。そのため営業マンは会社や上司への「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」を強化させられる例が多い。山田さんはこのホウ・レン・ソウを禁止している。ということは当然営業成績も求めていないので、成果主義は採用していない。会社の給料は仕事ができるできないを問わない年功序列型だ。

 にもかかわらず給料は岐阜の製造業でトップクラス。同社全国の同業者でのなかでも上位に位置している。もともとライバル会社は東芝や古河電工、パナソニックなど大手電材メーカーがひしめいているところに最後発で市場参入。勝ち目はないと思われていたが、あれよあれよと売上と利益率を伸ばしていった。経常利益率は製造業の平均が3 ~ 4%の時代に10%台を維持しており。その市場を従業員800人弱の会社が牽引している。

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