COLUMN ビジネスシンカー

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2018.12

働き方改革の先人たち 「実践・逆張り・非常識」経営 あの会社はなぜ業績を上げたのか

【newcomer&考察】
需要と供給の最適化手法、ダイナミックプライシングとは

 いまでこそ新商品をオープンプライスという形で値付けするのが当たり前となったが、いっとき前は「定価」販売が当たり前だった。いまでもコンビニなどで売られる大量生産の工業製品は定価販売が主流だ。しかし近年ネットを通じてモノの価格を容易に比較できるようになったことで、大量供給・大量消費時代の申し子である"一物一価"は崩れ去りつつある。これはある意味供給側にとっての受難の時代だとも言える。

 供給側としては、いかにもっとも利益を最大化できる量と価格のポイントを的確に見出す法則を見つけ出すことが重要になってきている。そこに救いの手ともいうべき一つの画期的な手法がもたらされた。それがAIを使ったダイナミック・プライシング(DP)という方法である。

 これまでも企業は過去の売上データや時期や経済環境などを分析しながら需要予測などを綿密に立ててプライシングを実現していた。需給変動が激しいホテルや旅館業界ではかねてより一物一価ではなく、こうした需要予測によって値付けをしていたが、その手法は属人的な部分も大きかった。

 従来は担当者が毎日、ネットなどで競合するホテルの料金をチェックして自社の宿泊料金を決めたりしていたが、この人の手による"値付け"作業を、DPに変えたところ、瞬時に適正価格が出せるようになった。DPでは膨大なビッグデータを数値化してAIが分析する。利益だけではなく、顧客満足も最大化する、双方にとっての最適な価格をはじき出すことができるのである。

 代表的なホテルが2020年に向けて増殖中のアパホテルである。かねてより訪日客を目当てに"強気"の価格設定をしていたアパホテルだったが、これはDPを使ってきたためだ。アパは周辺のホテル価格が同じ平米で1万円でしか取れないとわかった段階で1000円程度値付けを自動的に上げるようになっている。アパの知名度なら、その強気のアルゴリズムでも「売れる」とAIが判断する。訪日客で東京や大阪のホテル需要が逼迫した時、アパは高級シティホテル並の3万円を超える価格をつけたことがある。

 航空会社も同様にDPを取り入れてから収益が変わりつつある。

 航空会社の場合は繁忙期と閑散期や行き先、時間帯などでプライシングを図っているが、最新のDPでは「誰が」検索しているかを判別してプライシングする仕組みが導入されつつあるという。

 DPを取り入れているのはホテルや航空会社だけではない。とりわけ強い関心を示しているのが、スポーツやエンターテインメント業界だ。米国などのプロスポーツでは常識となりつつある。人気薄の時には値引きして集客を増やし、人気の場合は高値で販売する......その仕組がその波がようやく日本でも本格化しそうだ。

 たとえば2016年に「ヤフー」と「福岡ソフトバンクホークス」は、ホームゲームで開催される試合のチケットの一部にDPを導入した。試合開催の曜日、天候、開始時刻、その時点でのホークスの順位、相手チームの調子、登板予定の投手などのほか、過去に割当の席が5万席の中で何番目に購入されたか、などといったビッグデータを基に100円単位で上下させながら当日のチケットの値付けが行われた。

 2017年には「東北楽天ゴールデンイーグルス」もこのDPを導入し、18年春にはJリーグのJリーグの「セレッソ大阪」が、ホーム主催ゲームでの8試合・14席を「StubHubピッチサイドシート」としてDPで初めて販売した。また同じくJリーグの「横浜F・マリノス」も18年の7月から、ホームゲームでの一部観客席に導入している。このサービスを提供しているのが、6月に設立された「ダイナミックプラス」という専門会社である。同社は「三井物産」「ヤフー」「ぴあ」の3社の合弁で立ち上がった。

 ほかにも、プロ野球の「横浜DeNAベイスターズ」が今年度から導入を予定している。さらにコンビニの「ローソン」も次世代店舗でのDP導入を検討中で、国交省とタクシーの「日本交通グループ」の配車アプリを展開する同グループのJapanTaxiは今秋から、時間帯によって一律410円の迎車料金を変動するDPの実証実験を始めた。

 元来、モノやサービスにどれだけの価値を感じるかは、買い手のその時々の情況によって異なるのは正しい考えだ。ただ生活用品までコロコロと変動されては、逆に普段の生活に支障をきたすことになりかねない。世の中の人々すべてが株や為替のトレーダーのように相場を読みながら生活をするようなわけにはいかないだろうし、やり方によっては特定の人間や集団が恣意的に価格を釣り上げることも可能になる。従来のセーフティネットが破綻しないような仕組みも合わせて考えていく必要がある。ただ時代DPによる新たなビジネスモデルが増殖することで、AIによって値付けされた時価が、さらに力が増すことは確かだろうし、価格設定がよりブラックボックス化することは間違いない。逆に言えば、何があっても定価で頑張る企業が評価を高める可能性もある。

 埼玉県の株式会社やおきんが製造販売しているスナック菓子「うまい棒」は創業以来約40年1本10円のままで販売している。製造業とサービス業の違いがあるとは言え、その姿勢には頭が下がる。ある意味ダイナミックなプライシングである。

うまい棒

さまざまなバリエーションがあるうまい棒。いずれも10 円(税抜き)とは驚き!

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