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現代ビジネスパーソンのポジティブ・シンキング術

 少し前から「ポジティブ・シンキング」や「ポジティブ思考」という言葉が、ビジネス界で注目されている。背景には、従来型の思考や組織文化では、大きな成長や革新が望めなくなってきていることがある。
 今、日本企業や組織に求められているのは、減点主義のもとで改善改良を行うアプローチではなく、革新的な創造を生み出す加点主義である。組織の人間の可能性を加点主義で引き出し、断続的な革新に繋げていかなければ、成長が望めないどころか、組織や企業がたちまち社会のなかに埋もれてしまう時代となった。その加点主義を活かすのがポジティブ・シンキングや思考なのである。

ポジティブ・シンキングを活かすには、
プロセス重視、敗者復活の制度も整える

 「失敗を恐れずチャレンジせよ!」「リスクをとってイノベーションを生み出せ!」─。
 とかく企業やビジネスシーンでは、こうした威勢のいい言葉があちこちから聞こえる。
 現代は実力主義、結果重視の社会となっているが、新しいことや未知の分野に挑まない限り、大きな果実を得ることはできない。だが新たな挑戦にはリスクが伴う。リスクに立ち向かうには、リスクマネジメントやリスクヘッジが不可欠だ。
 失敗を畏れずに率先して未知の分野に挑む”ファーストペンギン”や、失敗しても敗者復活ができたり、結果が伴わなくてもその行動やプロセスを評価する環境が整っていないと挑戦する人はまずいない。
 日本企業は従来、新しい挑戦をすることを評価せず、挑戦して結果を生み出さないと評価しない減点主義だった。ゆえにとくに新しいことをしなくても、それなりにルーティンをこなしていれば、それなりの結果がついてきた。たとえジリ貧となっても大きな失敗がない限り、評価されていた。だがそれでは組織は成長しない。いずれ市場のなかで埋もれていく。そこで重要となってくるのが、挑戦そのものを評価する加点主義制度だ。しかし”このままではジリ貧だ”といって、減点主義を加点主義に変えただけでは、現場の混乱を招くだけだ。いままで怒鳴り散らして萎縮させていたスパルタ教官がいきなりニコニコと「どんどん提案して」と言っても学生はついてこないように。重要になるのは、生徒や教官のマインドセット、すなわちポジティブ・シンキングや思考のマネジメントの定着である。

楽観的に考える保険外交員は
悲観的に考える外交員より、37%契約が多かった

 ポジティブ・シンキング、ポジティブ思考は、単なるメンタルタフネスの一形態ではない。
 ポジティブ・シンキング、ポジティブ思考の源流とも言えるポジティブ心理学を創設した、アメリカのペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授は、著書の中で「ポジティブ(楽観的)思考をする人の特徴は、良いことがあった時に顕著に表れる」とし、例えば仕事がうまくいった時、楽観的思考の人は「自分の頑張りが報いられたのだ」と解釈し、その成功の原因を「自分のおかげだ」と考える傾向があるとしている。
 「楽観的思考の人は『いつでも精一杯やるのが自分の生き方だ』と自覚し、『その行動を継続させていく』ことで『私は頑張り屋として友人から一目置かれている』と認識している」と語っている。
 楽観的というより自信家に近いマインドとも言えるが、彼らはそういう態度を取り続けることで「周りに良い影響を広く与える」と考えていることが特徴だ。
 実際セリグマン教授らが生命保険会社のベテラン外交員200人を対象にアンケート調査を行ったところ、楽観度が上位の人たちは下位の人たちよりも、最初の2年間で平均37%も多く契約を獲得していた。
 楽観的か悲観的かは多分にパーソナリティに依存するところもあるが、セリグマン教授は、楽観的思考をするか悲観的思考をするかは生まれながらの性格だけで決まるのではなく、「説明スタイル」によって大きく変わってくるという。
 セリグマン教授のいう「説明スタイル」とは、何か良いことと悪いことが起こった時に、どういう説明で捉えるかということだ。
 「楽観的説明スタイル」では、良いことが起きた時は、その理由を自分の内的なものに求め、それが長く普遍的に起こることと捉える。そして逆に悪いことが起こった時には、外的、一時的に、限定的なもの、と捉えるスタイルだ。
 かたや「悲観的説明スタイル」では、良い出来事が起こった時に、その原因を他者や自分以外の何かに求め、またそれを一時的、限定的に捉える。そして悪いことが起きた時にはその原因を自分のなかに求め、それが継続的に普遍的に起こると考えるのだ。
 この悲観的説明スタイルは、どこか、何か良いことが起こった時やお祝いの言葉を受けた時に「お陰様で」と返す日本人の謙虚さに通じる部分があるようだ。

ポジティブ感情がネガティブ感情を上回っていれば
人生が好転していく

 『ポジティブ・シンキングの仕事術』の著者の川端大二さんによれば、ポジティブ・シンキングを宿すと、以下のような効果があるという。

・夢やロマン、ビジョンなどを持つようになる
・前向きな態度を引き出せる
・自信が持てるようになる
・自分や他人の長所が見えてくる
・チャレンジ意欲を喚起する
・創造性・戦略性が開発される
・ディベートなど激しい議論を可能にする
・個性を発揮し人を大きく育てる
・人間関係が良好になり職場が明るくなる

 またノースカロライナ大学のバーバラ・フレドリクソン教授は、ポジティブ対ネガティブな感情比率が3対1であれば、人生のあらゆる面が好転していくという研究成果を発表している。3対1という比率の信憑性については議論があり、もっと1対1に近いのではないかという意見もある。
 この議論からわかることは、ポジティブ思考が重要だからと言って、その人が常に100%ポジティブでいる必要はないということ。
 ポジティブ・シンキング、ポジティブ思考とは、「何でもかんでもうまくいく」「マイナスの考えを考えるのは良くない」「愚痴も良くない」「悪いことは考えないで良いことだけを考える」というような考え方ではない。
 本当のポジティブ思考は、愚痴を言いたい時は言い、批判したい時は批判する―そういうネガティブで悲観的なところも含めて自分を認めてあげるということから始まる。その上で、過去や今の出来事を分析し、強みやうまくいった原因を探して、今自分のやってることが、よりうまくいくためにどうするかを考え、実行していく考えだ。


 ネガティブな感情を持つことは、人として当たり前である。生まれたネガティブ感情をすぐに消し去ることは難しいし、表面だけポジティブさを繕っても、ネガティブな感情が深く沈殿してしまう可能性もある。
 そもそもネガティブな感情は、人間が危機に対応するために備わっているベーシックな性質だ。ネガティブ感情は危険予知のセンサー的役割を果たしているのだ。またポジティブになりすぎると組織や国家が全体主義になりやすいという研究もある。そのバランスが大事なのだ。

まず正確な
自己理解から始める

 数あるポジティブ・シンキングやポジティブ思考の本では、前提として正確な自己理解が必要だと説いている。
 一般に人は「2割方は自分を甘く見る」と言われている。家庭や友人関係のなかではあまり問題ないが、この思考が会社などで展開されるとやっかいに働く。人事評価で自分が割を食ってるという考えが宿ってしまったりするからだ。とくに減点主義の風土の会社の場合は、自分の欠点より他人の欠点がより大きく見えがちで、その意識のギャップが広がっていく。
 よってポジティブ思考を宿していくためには、人は自分自身を2割方も盛りがちであるということを十分に認識した上で、他人の評価を冷静に受け止める余裕を持つことが大事だ。自己理解を深めるには次の4つの心構えがポイントになる。
 1つ目が、日常的に自分の言動を振り返ること。自分の考え方、言動を振り返って冷静に見つめるのだ。自分の態度や行動にごまかしがないか、自分を正当化しようとしてはいないか、責任転嫁をしようとしてはいないか、などを直視する。
 2つ目が人の意見や忠告を聞くこと。自分に対する意見や忠告には耳が痛くなるものが少なくないが、それを排斥することなく立ち止まって反省してみる。特に長所や短所を素直に指摘できる新人や、尊敬できる先輩の意見や忠告などは、自分の無自覚な態度や行動が指摘されたりするし、自分を変えていくヒントが含まれている可能性が高い。
 3つ目が批判や噂を分析すること。批判や噂に敏感になりすぎると身体が持たないものだ。まずは聞き流す程度の度量が必要だ。ただ火のないところに煙は立たないので、自分の振る舞いや言動など、何らかの原因がある可能性がある。批判や噂が立った場合は反発するだけでなく、なぜそんな見方をされるのか冷静に自己分析してみることが必要だ。また批判が起こった場合は、内容を真に受けず、批判された事実と向き合うことが重要だ。批判内容と批判の事実を切り分けて考えるのだ。
 4つ目がオープンマインドを心がけることだ。より具体的には自分の好き嫌いや弱点までオープンにできるようにする。自分をさらけ出すことは、恥ずかしいどころか恐怖を感じることすらあるだろう。だが人はオープンな人には胸襟を開くものだ。表と裏をなくすように努めることによって自己理解と他者評価のギャップが少なくなり、自己理解が進む。

ポジティブ・シンキング、
ポジティブ思考を
業務に活かすアプローチとは

 実際にポジティブ思考、ポジティブ・シンキングを身につけ、組織や業務に活かしていくにはどうすればいいのだろうか。一般的なアプローチは次のようになる。

1 夢やロマン、情熱を持つ
 いささか手垢のついた言葉かもしれない。しかし何をしたいのか、どうなりたいかなど、前向きで明るい夢を描き、将来のビジョンを膨らませることは大切だ。とくに経済環境や経営環境が芳しくない時は、なかなか夢を描きにくいものだが、別に大きな夢でなくてもいい。家族に旅行をプレゼントする、フルマラソンに出て完走するなど自分だけの目標をつくって達成するだけでも変わってくる。ビジネスパーソンや経営者であれば、売上などの数字が最も持ちやすい夢やロマンだが、その大きな売上で何を得るのか、どんなことを実現するのかを語れるようにするといい。そのためにはできるだけ一流の人々と交流し、夢を語り合いそれを大きく膨らませていくようにする。また夢を持つためには健康管理に努める必要もある。心身が健康であれば夢も大きくなり、困難に打ち勝つエネルギーも湧いてくる。

2 「できる」という発想で取り組む
 課題や問題を前にすると、「予算がない」「時期が悪い」などできない理由が先に立つ人がいる。だができるという発想から取り組まない限り、できそうなものもできずに終わってしまうものだ。まず「やらなければならない」というところからスタートし、どうすればできるかを考えていく。そして問題解決の選択肢の中から、優先度やリスクを検討した上で実行していくようにする。

3 自分も相手も肯定的に見る
 前述したように、ポジティブ・シンキング、思考はまず現状を認め自己を肯定することから始まる。それと同時に自分のライバルや上司、部下、取引先相手など、関わる相手の存在も肯定することだ。世の中に肉体から精神、頭脳、姿形まですべてにおいて完璧な人間はいない。自分にあって彼にないもの。彼女にあって自分にないもの。その差が個性となる。逆に自分に自信がある場合は、同様に相手も自信があり、その根拠となるような優れたものを持っていると見るべきだ。

4 長所を積極的に見つける
 相手を肯定したら長所を積極的に探し、評価をしていく。そして長所を発見したらそれを素直に認めて褒めていくことが大事だ。ポジティブ・シンキングの考え方は、自分を積極的に評価するのと同様に、相手も積極的に評価することで、仮にそこにわだかまりがあっても、それを乗り越えてよりよい環境、関係をつくっていくことにポイントがある。対象が人間であれ、その人間が関わった物事や事象であれ、良いところを見出して評価すると、そこで感動が生まれるし、敬意も生まれる。

5 部分部分を切り離して評価する
 減点主義の風土や制度を持つ組織や企業の場合、一部の悪い評価が増幅されてその人全体の評価やその人の所属するチーム全体の評価に転嫁されやすくなる。一部で全部を語るのではなく、相手の良いところと悪いところを区別して評価することが大切だ。彼はここは弱いが、ここが優れているなど、長所と短所を区別して人を見るようにする。

6 「しかし」と言って否定しない
 とかく減点主義の風土のもとでの会話はネガティブなものになりがちだ。「しかし」と言って否定する言い方は、その典型的思考法の1つだ。部下や若手が言ったこと、あるいはライバルが言ったことに「しかし」と言下に否定するのではなく、「こうすればさらに良くなる」というように、相手の意見を認めて、よりよくしていく考え方に切り替えることが大切だ。

7 成功体験で自信をつける
 成功体験の積み重ねは達成感や充実感だけでなく自信を育てていく。得意分野を少しずつ伸ばしていくことにより「自分でもやれる」という自信が生まれ、ポジティブな思考が醸成される。小さなことでもそれをやり遂げたという成功体験を積んでいくことが重要だ。

8 自らが最初の提案者になる
 人の意見を評価することと、最初に提案するのでは創造的困難が格段に違ってくる。人から批判されるのを恐れず率先して提案していくことは、ポジティブ・シンキングの重要なアプローチだ。

9 相手の気持ちを乗せる
 自分自身相手の気持ちを高揚させ乗せていくことはもちろん、「今度もうまくいくはずだ。君ならできる!」などと、少々おだててでもその気にさせることだ。自分の得意分野でそう言われれば、プライドがさらに高まり、やる気も湧いてくる。
 アメリカのある航空会社ではユニークな客室乗務員の研修を実施している。乗務員を向かい合わせに座らせてお互いを褒め合うのだ。研修ではできるだけ多くの褒め言葉を出すように努力させる。「笑顔が印象的」「メイクが上手い」「姿勢がきれい」など何十という褒め言葉を出させるのだ。褒められれば、たとえおべっかでも悪い気はしないもの。褒められている人はくすぐったい気持ちはあるものの嫌な顔をするはずがない。最近はこうした褒め合いを研修や朝礼、夕礼などに取り入れている企業も増えている。  
 こうした研修効果でわかったことは、褒められている人だけでなく、褒めている人の顔も良くなってくることだ。「褒め合う」という文化を実践的に導入することが、ポジティブ・シンキング、思考の定着の早道かもしれない。

10  他から学び感謝の気持ちを持つ
 「賢人はどんなことからでも学ぶことを知るし、感動する。愚人はどんな学べることでも批判と否定を行い、学ぶことを拒絶する」との言葉がある。相手の長所を素直に見ることができれば、学べることは数知れない。人は独立して存在するものではなく、何らかの関わりを持ちつつ、相互に助け合いをしている存在だ。常に相手への感謝の気持ちを忘れないようにすることは、学びの基本でもある。

折れそうになった心を戻す
「レジリエンス」力

 ポジティブ心理学を考える上で自己理解や自己肯定と同様に重要なキーワードとなってくるのが「レジリエンス」という考え方だ。一言でいうと「回復力」である。よく「心が折れない」などと言うが、レジリエンスは心が折れないだけでなく、折れそうになったものが戻る力と言う意味も含んでいる。ダメージは受けるが、柳のように受け流す力、受けても限定的にとどめて、早く回復していく力だ。
 アメリカの研究では、同じような不幸な体験や過去のトラウマにさいなまれ、生きる力を持てない人たちの中でPTSDになる人とならない人がいるのは、レジリエンスの高さと低さにあると言われている。

「レジリエンス・マッスル」を
鍛える4つのセンテンス

 レジリエンスを高めるには4つの「レジリエンス・マッスル」を鍛えることが効果的だとされる。
 1つ目は「I can〜 —私は◯◯できる」という考え方。過去に経験した困難な状況を思い出して、どのように乗り越えたか、その時の体験を思い出してみるのだ。自分が乗り越えてきたことをたくさん書き出すことで、どんな状況においてもうまくやれるという自己効力感が高まる。
 2つ目が「I have〜 —私には友人・知人がいる」という発想だ。自分の友人や知人の名前、サポーターとなってくれる人、過去にお世話になった人などを書き出してみると、「こんな時に誰に相談したらいいだろう」という状況になった時に、「自分の助けになる人が、こんなにもいる」と安心感が得られる。
 3つ目が、「I like〜 —私は◯◯が好きだ」という考え方。自分の大切な人の写真や楽しかったことを考える。元気のない人は「ああ自分はダメだな」とネガティブなところに注目しがちだが、「I can〜」も「I have〜」も「I like〜」もどれもポジティブなところに注目するので、幸福度が上がっていく。
 4つ目が「I am〜 —私は◯◯である」。これは自分の強み、得意なものを考えることだ。周りの人にも「私の強みって何だと思いますか?」と聞いてみるといいだろう。いろいろな強みを発見することで、自分らしさを感
じることができる。
 この4つを繰り返し鍛えることで、心の回復力の高い人間に変わっていくのだ。

ポジティブ・シンキングを
広げる「べからず集」

 最後にポジティブ・シンキング、ポジティブ思考を身につけるにあたって、やってはいけない「べからず集」を記しておく。

1 相手のことを嫌わない
 良いところを探そう。人は好いてくれる人を好きになる。
2 他人と比較しない
 絶対評価を心がける。「あの人は〜」というのは余計なお世話。
3 できない言い訳を探さない
 どうすればできるかの発想に立つ。
4 対決を恐れない
 是々非々でいく。議論を歓迎する。
5 謝ることを嫌がらない
 ミスは素直に認め、自ら積極的に謝るからこそ事態は収拾する。

 いかがだろうか。VUCAと呼ばれる先の見えない不安だらけの時代であるが、だからこそポジティブ思考、ポジティブ・シンキングでチームのなかにイノベーションを生み出す風土を醸成させてほしい。

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