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できる秘書から学ぶ、ビジネスのコツと気遣い術

中小企業にこそ秘書を。
成長企業の陰に「できる秘書」あり!

 秘書を持つというと、どこか大企業だけに許された特権のように思ってしまうが、むしろ中小企業だからこそ優れた秘書が必要だ。
 優れた秘書がいる会社は、会社を確実に成長させる。
 たとえば、誰もが知るセブン-イレブン。日本にコンビニエンスストアという業態を定着させたコンビニの嚆矢だ。コンビニという時代を先取りした創業者鈴木敏文さんの慧眼に注目されがちだが、その鈴木さんを支え、セブン-イレブンの成長に寄与したのが、20年にわたって秘書を務めた藤本圭子さん。知る人ぞ知る存在だ。
 あるいは、一代でカレーチェーンを築いた壱番屋の宗次徳二さんの秘書、中村由美さんは、宗次さんと奥様を支えただけでなく、秘書の頂点とされる日本秘書協会のベストセクレタリーにも選ばれている。
 彼女ら優れた秘書、できる秘書の共通点には何があり、どうビジネスや企業成長に影響を与えるのか。なかなか全貌が見えにくい秘書の世界を解き明かしながら経営戦略としての秘書を学ぶ。

伝説の経営者に
伝説の秘書あり!

 セブン-イレブンで20年にわたって社長の鈴木敏文さんの秘書を務めた藤本圭子さん。ボスである鈴木さんは、スーパーマーケットが急成長している時代に市場が重なるとされたセブン-イレブンというアメリカのコンビニを導入して、日本の市場に向け徹底的にカスタマイズし、日本にコンビニ市場を生み出し、さらには最終的にアメリカの本家を買収した、まさに立志伝中の人。
 藤本さんが勤め始めた1995年時のセブン-イレブンのチェーン売上は1477億円だったが、20年後の2015年は4010億円と、4000億円を突破している。この間一度も売上を落とすことはなかった。
 藤本さんはこの20年間はひたすら鈴木さんの黒子に徹し、常に緊張感をもって目の前の出来事を一面的に捉えず、多面的に判断して行動するように意識し続けた。その結果、鈴木さんに「ちょっと、あの…」と声をかけられただけで、その内容について瞬時にわかるようになったという。

 非上場企業から初のベストセクレタリーとなった
 CoCo壱番屋の中村さん

 ”ココイチ”で知られる「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開する「壱番屋」。ここにも優れた秘書がいた。中村由美さんは壱番屋が上場する前の急成長時代に入社。新聞の「受付業務募集」の広告を見て、「近所で通いやすいから」応募したという。最初はパートタイマーとして採用され、9時から14時までの勤務だったが、創業社長の宗次徳二さんに引き立てられ、同社で初めての社長秘書となった。
 当時中村さんはシングルマザーで、幼い子どもを抱えての抜擢には戸惑いもあったと言うが、他に仕事の選択肢はないと腹を括り、努力を積み重ねた結果、1996年に秘書検定を主催している社団法人日本秘書協会から「ベスト・セクレタリー」に選出されている。
 ベスト・セクレタリーは、同協会が行っている秘書検定の最上級である1級取得者のうち、長年の経験と所属企業からの推薦を受けた約80名のなかからたった1人だけ選ばれる。
 中村さんを取材した『日本一の秘書』の著者である野地秩嘉(のじ・つねよし)さんによれば、中村さんの選出は、過去の事例からしても極めて異例のことだったという。
 本当なら中村さんはその1年前にベスト・セクレタリーになれたと推測している。
 「ここからは私の深読みだが、思うに、審査員はカレーチェーンの壱番屋にベスト・セクレタリーを与えてよいものかどうか逡巡したのではないか。それ以前も、その年も受賞者は誰もが名前を知る大企業の秘書ばかりである。東芝、モービル石油、松屋、富士銀行、日本生命、キッコーマンといった一流企業の社長秘書が受賞していた。それに比べると1995年当時の壱番屋は名古屋発のカレーチェーンで、まだ店頭公開もしていない(2000年に店頭公開)。審査員としては、中村個人の資質よりも、会社の格と将来性のことを考えざるを得なかったのではないか。なんといっても、その時点での壱番屋は長期間、存続できるかどうか、展望が読めない会社だったのだから」(『日本一の秘書』)。
 この野地さんの深読みは、まさに秘書が企業の発展に大きく関与する存在であることの証左であるとも言える。
 決して大企業だから、一流企業だから秘書が必要というのではなく、伸び盛りの中小企業だからこそ秘書が必要なのだ。
 一方で優れた秘書は中小企業だからこそ生まれる可能性がある。というのも、ITツールの進展やセクハラ、パワハラの問題もあり、大手や一流企業では秘書はオーナー企業でもない限り3〜4年で交代するのが一般的な傾向で、藤本さんや中村さんのように20年以上にもわたって秘書を続ける環境ではなくなっていることがあるからだ。
 懐刀を育て、会社を飛躍させるチャンスは中小企業にこそあると言えるのだ。

秘書の仕事に優先順位はない

 とは言え人材の限られている中小企業では、専任の秘書をつけるのは難しいかもしれない。たとえば総務の人材を秘書に兼任させるだけでも業務はだいぶ変わってくる。できる秘書がいると社長の仕事が何倍も進む。最近では秘書の派遣サービスなどもあるので、そういったサービスを受けてみて、その後どうするかを判断するのもいいかもしれない。
 問題は「できる秘書」と「そうでない秘書」をどう見分けるか、である。
 一般的な経営者、マネージャーの仕事と、秘書の仕事には大きな違いがある。それは優先順位だ。
 経営者は常に様々な判断をする。その判断が的確になされる環境づくりのために秘書はいる。経営者は常に物事に優先順位をつけて判断するが、秘書にはそれがない。優先順位はその時々のボスが決めることだからだ。いくら秘書が「こちらが重要そう」だと思っても、ボスはそう思っていないことも多々ある。
 秘書検定1級を持ち、米国公認秘書検定、英検一級の資格を有し『「できる秘書」と「ダメ秘書」の習慣』の著者である西真理子さんによれば、できる秘書は「大切なことは見えにくい」と心得ていると言う。
 たとえば朝、次のような指示をボスから受けたとする。

・午後の会議のためにAさん、Bさん、Cさんに連絡
・会議資料のコピー取り
・明日からの出張のために航空券を予約
・旅費精算
・昼食にボスが気に入っているチキン弁当を買う

 できる秘書はどう行動するのだろうか?
 素人的にも分かりそうなのが、1つ目の「Aさん、Bさん、Cさんに連絡」だが、その後はどうだろう?
 「明日からの出張のための予約」、「会議資料のコピー取り」も重要そうだが、実はボスは前回食べて気に入った昼のチキン弁当を心待ちにしているかもしれない。
 そんな時に弁当を後回しにして、あとで「すみません、買いに行ったら売り切れていました」となったら、午後しばらくは不機嫌モードになる可能性大だ。このあたりの感覚は、ある程度のボスの感覚がつかめていないと難しいもの。ただ一見小さなことであってもその指示が守れるかで、その秘書ができる秘書かどうかが判断されてしまうのも事実だ。
 西さんによれば、こうした複数の案件がある場合、優先すべきは「複数の人間が絡んでいる案件」だそうだ。その点から1つ目の会議参加者への連絡は正しい優先順位だ。

できる秘書は巧みに
「至急」案件を取捨選択してボスに伝える

 社長秘書ともなれば、社長へのいろいろなお願いごとが秘書のもとに集まってくる。社長は、お願いを通じて社員の仕事ぶりを見ることになるので、お願いする側も、速く仕事を片付けて、社長の評価を得ようとする。すると勢い「至急」の用事が増えてくるものだ。
 ティファニー・アンド・カンパニーやメリルリンチなどの米国の有名企業のトップ秘書の経験を持ち、米国秘書検定マネジメント講師も務めたこともある能町光香さんは、「安易に至急という言葉を鵜呑みにしない」と忠告している。当人にとっては至急のことでも、ボスにとっては至急とは限らないからだ。
 こうした至急のお願いを捌くためには、情報を取捨選択することが大事になってくる。能町さんは次の3ステップで取捨選択をすることを勧めている。
 ①まず受け取った情報を自分で理解をすること。②その上で情報を見極め、情報を編集すること。③端的に伝えること。
 「至急!」と言われると、そのまま言われた通りに伝えることが重要であるような気がするが、よく吟味すれば何を優先すべきか分かってくるはずだ。至急と言っても「あと1時間後まで」なのか「夕方までなのか」、「明日の朝までなのか」で順位が変わってくる。
 また伝え方も重要だ。言われたことをそのまま伝えるのではなく、伝わる表現で端的に伝えることが必要だ。それが②の「編集」という作業。
 とかく日本人は”阿吽の呼吸”で伝えようとするが、「言った」ということが「伝わった」とイコールではないことを自覚すべきだろう。同じ言葉を使っても新人には伝わらなかったり、年配者に理解してもらえなかったりするのはよくあることだ。キャリアも違えば、ベースとなっている組織や業界への理解も違う。誰に(ボスなのか、管理職なのか、新人なのか)、どのタイミングで(いますぐなのか、1日待てるのか、みんなが集まるランチタイムなのか)、どんな手段を使って(声で伝えるのか、メモを渡すのか、メールを打つのか、メール後、電話を入れておくのか)などを考慮し、判断するのだ。

できる秘書は
日頃のボスの行動パターン、
さらに主な社員の行動パターンを知っている

 もちろん伝えるタイミングも重要だ。本当の緊急、至急であれば、「いま、少しお時間いただけますか?」、もしくは「本日のどこかで、お時間をいただけますか?」と提案する必要がある。それでも多忙なボスだとなかなか接点を持てないこともある。
 こうした時に重要になってくるのが、日頃からボスの行動パターンを熟知するということだ。出社時間はもとより、朝型か夜型か、ランチはオフィスのなかか、オフィスにいるのは何曜日が多いか、連絡手段はメールと電話とどちらを好むのか、などなど。こうしたパターンを知っておけば、多少すれ違いがあっても、コミュニケーションは取れるはずだ。また社長秘書ともなれば、社長の行動だけでなく、管理職などキーパーソンの行動も知っておく必要もある。社長の返事を伝えるには、どのタイミングやどの方法がいいかを知っておけば、よりスムーズなコミュニケーションが取れるはずだ。

お茶出しは、
秘書の実力の見せ場である

 秘書の仕事というと来客時にお茶を出すイメージがある。男女雇用機会均等法の影響などや、最近は会社に冷蔵庫やドリンクサーバーが増えていることもあり、来客時に上司やボス自身が飲み物を持ち込んだりする場合も増えている。
 しかし、西さんはできる秘書ならお茶出しを嫌がるのではなく、積極的に自分の魅力をアピールする場として使うべきだと言う。
 たとえば、コーヒーを頼まれた時には、「それまで誰も飲んだことのないようなおいしいコーヒーを『すぐに』お出しすること。そしてその時に『ミルクと砂糖は要りますか?』といちいち聞かずに、どんな場合でもマドラー、紙ナプキンと砂糖、ミルク、すべて準備して差し上げる」のが、できる秘書だそう。
 こういった気持ちでコーヒーを出されたら、来客した人はまず悪い気がしないだろう。会社に対する印象もぐっと上がってくる。小さな会社であればなおさらだ。

できる秘書は、
書類をすぐにシュレッダーにかけない

 よく、「できるボスの机はきれいに片付いている」という。これはそのボスの決断が速いため書類を溜めないからだとも言える。ではできる秘書はどうだろう。
 必要がなくなった書類はいち早くシュレッダーに! 会社のトップが見る書類には重要事項もあるので、当然…と思いきや、西さんはそうでもないと言う。
 というのも秘書をしているとメモや走り書きが多くなるからだ。ボスにお茶を出そうと部屋に入った瞬間に「ああ、そういえば◯◯しておいて」と言われることは日常茶飯事。別のことをしている時に電話を取ってしまって、込み入った用件を手近にある付箋やコピー用紙の裏にメモしてしまうこともよくあることだそう。
 問題はこのメモをどうするかだ。これをそのままデスクの上に積み重ねておくわけにはいかない。西さんによれば「絶対手から離さずに、決まった保存場所に移すのがコツ」。さらに「紙切れや付箋紙に書いたメモは、(専用の)雑記帳にテープやホチキスでそのまま留めて、日付と時間を書き入れておきます。内容を書き写すのは時間がもったないので」とのこと。
 つまり、端切れでもそのまま取っておくようにすれば時間が短縮できることと、誤って大切なメモをシュレッダーで失うこともない。
 西さんは、ボスが書いたものや自分のメモは「『まず要らないだろう』」と思っても念のため、デスクの下の『専用箱』に入れて保存し、定期的に内容を確認してからシュレッダーにかけるようにしている」そう。秘書の机は、そういう意味でも、
 常にインテリアショップのショールームのように完璧にキレイである必要はないのだ。逆に綺麗すぎると大丈夫かと疑ったほうがいいかもしれない。

できる秘書は、
国語辞典を持ち歩く

 できる秘書というと、スマートフォンやPCをテキパキと使いこなし、最新機能にも詳しい…そんなイメージがあるかもしれない。しかしそういったITツールに依存し過ぎるのも考えものだ。
 たとえば打ち合わせや指示を受けた時に、何か不明のことがあれば、スマートフォンですぐに検索をするのが一般的になっているが、インターネットやスマートフォンでは必ずしも正確な文字や意味にたどり着くとは限らない。場合によって悪例のほうが正解に勝っていることもある。
 西さんはある時、辞書の力を知ったという。プレゼン資料の内容を確認していた時に、「御社にとって中国における有意な市場の獲得」というフレーズに引っかかった。年配の作成者に聞くと「有意=意味のある地位を築くことだから、これでいい」との答え。しかし西さんは「優位」が正しいと思ったので、ネット5で検索したものの、明確な答えが分からず、近所の書店に走って国語辞典を片っ端からめくったという。するとそこに「優位=他より良い、有利」という意味が明確に書かれており、合点がいったのだそうです。
 以来、分からないことに出会うと辞書を引くようにしているそう。

できる秘書は、
時刻表と地図帳を使い込む

 さらに西さんは時刻表と地図帳も常に手元に置いておくようにしている。今はスマートフォンのアプリで、電車ばかりかバスや船の時間も分かる。しかし新幹線などは時刻表が一番見やすく、調べやすくできているので、ネットよりも速く調べることができるのだそう。
 また地図帳は、とくに海外などに出張の多い会社や取引先がいるところではかなり重宝する。秘書は場合によっては地球の裏側にも出張の手配をしなければならないし、取引先と電話会合をする時は時差を考える必要がある。業種によっては聞いたこともないような国や都市に出張したり、電話会合することもあるだろう。そんな時役に立つのが地図帳だ。地図からは距離やその位置によって寒い地域なのか、暑い地域なのか、どんな人たちが住んでいる地域なのか情報を得られる。
 「できる秘書はネットと紙を使い分ける」というのが西さんの持論だ。

できる秘書は、
チョコレートでお願いごとを成就させる

 西さんはまた、チョコレートを常備している。最初に入った会社が外資系の日本法人であったため、所帯が小さく、会社を回していくには外部の人々の力を借りなくてはならなかったからだ。
 一般企業でも、取引先はもとよりITベンダーやOAのメンテナンス会社、運送会社、旅行会社など、お世話になる人はたくさんいるだろう。
 こういった人たちにスムーズに仕事をしてもらうようにするのも秘書の仕事であり、腕の見せどころなのだ。そういった他人の助けを借りる場面では、お願いをできるだけすること。そしてきちんと感謝の気持ちを表すことが重要なのだそう。その感謝の気持ちを伝えるためにチョコレートなどのお菓子をすっと出せると、スマートに見えるという。もちろん過ぎたるは及ばざるがごとし。過分だと「賄賂」とも受け取られかねないので。
 よくテレビなどのバラエティでは、大阪のおばちゃんたちが”飴ちゃん”を持ち歩いている様子を紹介しているが、まさに”いざというときのお菓子”はコミュニケーションの原点なのかもしれない。

できる秘書は、
ハンカチを2枚持っている

 また西さんはハンカチも2枚持っている。ボスがハンカチを持っていない、あるいは会合や出張先などで困ったという時に使ってもらうためだ。ボスだけでなく、取引先のお客様が困った時にも使えるので、「気が利く、準備ができる秘書」という評価に繋がるし、会社の評判も上がるはずだ。
 逆に言えばいざという時にどれだけ対応できるかが、優れた秘書かどうかのバロメーターになると言える。とくに企業トップでは意外と訃報などに接することが多くなる。一般的には黒ネクタイや、袱紗、数珠などを総務や秘書室に置いていることが多いようだが、西さんは、いざという時のためにさらに次のようなリストを加えている。

・予備の折りたたみ傘とビニール傘
・予備のストッキング
・予備の紙袋(会社のロゴが入っていないもの)
・予備の封筒(会社のロゴが入っていないもの)
・予備の裁縫道具
・予備の応急処置薬(鎮痛解熱剤、胃腸薬、鼻炎薬、消毒薬、ばんそうこうが「黄金の5点セット」)
・衣類のしみ抜き
・果物ナイフ(意外といただきもののケーキなどを切り分ける機会が多い)

 これら全てを持ち歩くとなると大事だが、ボスの随行といった場合には、あったほうが便利だ。
 よって、できる秘書というのは必然的に大きなカバンを持ち歩くことになる。
 西さんによれば、人気ブランドのデザイン重視の小さいカバンを持つ秘書はダメ秘書だとのこと。できる秘書が持つ目安は、A4サイズの書類が入って、色は黒やネイビー、グレー、茶などが無難で、型は肩掛けでも、持ち手でも構わないそうだ。

できる秘書は、
いつでもジャージやスニーカーで
泥まみれになれる

 さらに西さんは、会社にジャージやスニーカーを置いておき、いざという時にその出で立ちで仕事をすることもあると言う。
 秘書はスタイリッシュでクールなイメージがあり、実際企業トップと接する機会も多いので、ジャケットやスーツでバシッと決めるのが普通だろう。しかし既述したように、秘書はどんな時にも対応できる柔軟性を持っていないといけない。得意先の打ち合わせや契約などには、スーツでバッチリ決めるのは当然だが、必要に応じてジャージや作業着に着替えて汗まみれ、泥まみれになることも厭わないのが、できる秘書なのだ。

できる秘書は、
沈黙に意味を込める

 繰り返すが、あくまでボスが働きやすい環境づくりを進めるために黒子に徹するのが秘書だ。流行に敏感であることは必要だが、流行に染まる必要はない。西さんは「できる秘書は見た目にこだわらない」と言っている。かと言って決してだらしない格好でいい、ということではない。毎日がファッションショーのように髪型やメイク、服装をころころ変えるのは、秘書として良くないということだ。社会人として失礼のない服装、化粧であるべきだということだ。
 よってできる秘書は自分の主張をしない。だが主張しなければ伝わらないこともある。できる秘書は社長の行動パターンを読んで、全体を調整する役割もする。過ぎてはいけないが、全体のプロデューサー的な視点でボスや社員、取引先と接することも必要なのだ。
 前述した壱番屋の中村さんは、無言で社長の態度を変えたと言う。
 中村さんは、宗次社長のスケジュールを2度ダブルブッキングしたことがあった。秘書として最も重要なスケジュール調整を2度失敗したのだから、宗次社長の怒りは相当なものだった。中村さんは、2度とも「申し訳ありませんでした」と深く詫び、先方にも詫びを入れて、なんとか調整をした。
 しかし後でこのダブルブッキングは、宗次社長が自分のスケジュールを中村さんに伝えていなかったことにあったことが発覚する。2度目のダブルブッキングの後、宗次社長が思い出して、「そう言えば、僕のスケジュールを伝えてなかったね」と謝った。以後宗次社長は、自分でスケジュールを立てることを止めたそう。また中村さんが沈黙する時、「何かある」と感じるようになり、より深い信頼を置くようになったのだ。
 優れた秘書は社長が間違っても、言い訳をしない。しかし、その沈黙で社長の考えや態度を改めさせることができるのだ。

秘書の仕事は
ボスの仕事の生産性を高めること

 こうした優れた秘書に対して、社長やボスとなる人は何をどこまで頼めばいいのだろうか。一般には秘書というイメージは湧くものの、どんな仕事をするのかをしっかり把握している人は少ないかもしれない。
 分かりにくい背景には、付くボスによって仕事内容が大きく変わってくることがあるからだ。前述した壱番屋の中村さんの場合、宗次社長がほとんど夜の付き合いをしなかったので、夜の酒宴や会合のセッティングやケアをする必要がなく「楽だった」と話している。


 また野村證券出身で「ファイナルファンタジー」などのゲームで知られるスクエアエニックス・ホールディングス社長やタイトーの社長を務め、現在はIT企業のメタップスの社長をしている和田洋一さんは、スクエアエニックス・ホールディングス時代には秘書にスケジュール管理しかさせていない。「(秘書として会社の仕事を)知りすぎると、荷が重すぎて本人がつらくなります。秘書は社長の仕事を断れない。だから、スケジュール調整に関係すること以外はさせない、と定義をしています」との理由からだ。
 このように人によって秘書の定義づけは違ってくる。
 前述の能町さんは秘書の仕事を次のように表している。
「上司の最も大切な資産である時間を確保し、仕事の生産性を最大化するためにサポートを行う」
 しかしだからと言って何でも頼めるわけではない。とくに日本の場合その線引きが曖昧だと言われていて、中には「風邪を引いたのも秘書のせい」と考える社長もいるようだ。
 実際どこまで依頼が可能なのだろうか。

秘書の3つの仕事とは

 秘書の仕事は大きく3つに分けられる。
 1つはボスのスケジュール調整。社員や外部の人間から申し込まれた面会の日時を調整していく。ほかに社内外のイベント参加、出張や旅行、接待、ゴルフ、観劇などの手配も仕事だ。ボスの性格や趣味にもよるが、すべてをオンスケジュールでこなすのは大変難しいものだ。当日のボスの体調や気分によって変わることもあるので、優先順位をつけてはいけない。とは言え、いかにボスにスケジュールを守らせるかも秘書の腕の見せどころだ。
 多忙なボスのスケジュール調整をする、秘書ならではの意外な原則について、西さんは訪問の到着時間で語っている。一般に訪問先には5分前に到着するのが「できる社会人」だと言われている。西さんによれば”できる秘書”は、訪問先をアポ時間の5分前に訪問しないと言う。到着は5分前だが、訪問はオンタイムで行うのが「できる秘書」だ。ちなみに企業の人事担当者のなかには予定より早く訪問する人を「相手の立場を想像できない」として面談で落とす場合もあるという。
 2つ目の秘書の主な仕事は、対外的な窓口と客への応接だ。社長や役員などボスを訪ねてくる人と最初に会うのが秘書。お茶を出したりして応接するほか、パーティや会議に同行し、そばから様子を見て資料をさっと出したりするのも秘書の役割だ。社長や役員秘書であれば、身だしなみや礼儀作法などもきちんとしていなければならない。
 3つ目が雑務。これが最も線引きが難しい業務だ。オーナー企業、中小企業であったりすると「この書類を自宅まで届けてほしい」といった要望はあるだろう。場合によっては「妻の買い物に付き合ってほしい」「息子の運動会に出て、写真を撮ってきてくれ」「出張中、ペットに餌をやってほしい」といったことも言われるかもしれない。こうしたことに昼夜、土日も付き合うとなると自分の時間は持てなくなる。

最も重要なのが
ボスのスケジューリング

 これら3つの業務のうち最も難しいのが、最優先事項であるスケジュール調整だと言われている。埋まった順に仕事をこなしていけば問題はないが、社長ともなるとさまざまなハプニングやアクシデントに巻き込まれる可能性もある。主要クライアントの突然の訪問や業界関係者の訃報、あってはならないが従業員の不祥事など、いくら優先順位をつけても、日々状況は変わってしまう。
 したがってできる秘書はどんなアクシデントにも柔軟に対応できる経験と素養、先を読む力と、高いコミュニケーション力、またボスにスケジュールをしっかり守らせるコントロール力、マネジメント力も必要だ。
 こうした点を考慮すると、中小企業の場合は、気配りのできる総務や庶務の若手を秘書として育てていくか、秘書経験のある派遣人材を一定期間使ってみて、そこから社員に登用して専属秘書としていく方法が考えられる。

任せる仕事の線引きを
しっかりする

 また社長や役員が秘書を使う場合は、業務とプライベートの線引きを明確にしておくことが必要だ。スクエアエニックスの和田さんのようにスケジュール管理一本に絞ったり、「うちの秘書にはこれをさせない」といった業務を決めておくのも手だ。
 中小企業でオーナー企業の場合は、家庭の関係がそのまま会社の形態になっていることが多く、公私が分けにくいが、プライベートに近い用事を依頼するにしても、明確な意図をもって依頼すべきだろう。先に出てきた子どもの運動会の写真撮影などはグレーに近い業務だが、子どもの撮影をしてもらうことで、社長や役員が存分に力を発揮し、それがめぐって会社の雰囲気や成長に繋がることであると社長自身が思っているのであれば、秘書にそう伝え、納得してもらうことは必要だ。
 そこを理解して活用すれば、秘書は大きな力を社長に、会社に与えてくれるはずだ。能町さんは言う。「今、組織の中で、秘書がどのような役割を担い、どんな仕事をするのか、『経営戦略としての秘書の活用』が求められています」と。
 男女平等社会が浸透している今、秘書は述べてきたような女性だけの仕事ではなくなってきている。一流と言われる企業では、複数の秘書を抱える「秘書室」が部署として存在する。そのトップは男性であることも多い。その役割は、従来の秘書を超え、参謀的な仕事も担っている。実際、秘書室長から役員や企業トップに駆け上がる人もいる。秘書に求められる資質やスキルは、確実にその人の仕事力をアップさせる。
 また秘書の業務にはデジタル化やAIではカバーできない分野の、人間の機微が入ってくるようだ。秘書の仕事を見つめることは、ジョブ型社会が進むこれからの時代にとってどんな仕事や業務が残っているのか、プロフェッショナルとしてどのような資質やスキルが求められてくるのかを考える機会になるし、秘書を活用することで、会社の成長力をさらに高め、かつ安定させる効果がありそうだ。この機会に秘書の活用を考えてみてはいかがだろうか。

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